鐵軌道調査部

鉄道、軌道をめぐる話題を、社会政策や歴史の側面からまとめています。 専ら市販の本や雑誌…

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鉄道、軌道をめぐる話題を、社会政策や歴史の側面からまとめています。 専ら市販の本や雑誌、公開されている公的資料等をツギハギした文章であることをご承知願います。 どうぞよろしくお願いします。

最近の記事

3/4 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編

3-1 高額運賃の裏にあった経営危機  P線方式やニュータウン鉄道建設補助金といった公的支援がなされてきたにもかかわらず、都市型三セクの少なからずは経営難と、高い運賃設定で問題となってきた。  なぜ大都市と近郊の連絡を担い、旅客需要の旺盛なはずの路線であっても、巨額の赤字に苦しめられてしまうのか?  その原因は、大きく二つに分けられる。  一つ目は路線の建設費用自体の高さと、金利高騰である。そして二つ目はニュータウン自体の、入居計画の不振・縮小があげられる。  償還を

    • 2/3 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編

      2-1 通勤ラッシュ緩和のための他事業者の取り組み  国鉄や大手私鉄もこの時期、都市部路線の輸送力増強に取り組んでいた。  国鉄は『通勤五方面作戦(東京五方面作戦)』を、昭和40(1965)年より開始した。東京都心部に至る東北・高崎・中央・東海道・総武の、主要幹線の貨客・緩急分離のための複々線化を中心とする、抜本的な輸送容量の拡大事業であった。  大手私鉄14社においても、昭和36(1961)年より、三次にわたる「輸送力増強計画」が開始された。 2-2 都市型三セク鉄道

      • 1/3 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編

        プロローグ  令和3(2021)年、運賃の高さで有名であった北総鉄道が、その大幅な値下げを発表した。建設費はじめとする累積損失の償還完了に、見通しがついたためである。  翌年、普通きっぷは最大100円(現金払い)、通勤は平均11.6%、通学定期に至っては平均64.7%安くする改定となった。  鉄道の赤字問題やその補助というと、いわゆるローカル線の問題というイメージもある。しかし都市鉄道においてもこの問題は、しばし取りざたされてきた。  多くの都市鉄道型第三セクターでは運

        • 宇都宮浄人『地域再生の戦略』を読む

          出版情報 版元 ちくま新書 1129 筑摩書房 著者 宇都宮 浄人 (関西大学 経済学部教授) 出版年 2015(平成27)年 1 ”交通まちづくり” が必要な理由 ”地方の衰退”が問題視されて久しい。  だがそれに対して、短期的に評価できる施策ばかりを、場当たり的に取り組むのでは効果が薄い。地方創生には、政策の基軸がなければならない。  それにあたるものとして宇都宮教授は、本書の副題の通り「交通まちづくり」を挙げている。  すなわち公共交通の見直しと再編により、過度にク

        3/4 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編

          鉄軌道の「公共性」とは何か 2/4

          *あらまし*  鉄軌道は“装置産業”の代表格といわれるほど、固定費が多額にかかります。  なぜなら、実際に利用する旅客や貨物に対して、車両・編成の容積や、線路に走らせられる、列車の本数を変えにくいためです。  つまり需要に合わせて、供給量を増減させにくいという特徴をもちます。このことにより、鉄軌道は市場原理になじまないのです。 2-1 装置産業の弱点 2-1-1 需要にあわせ、生産も調整する原則  一般的な産業では、変動費にあたる費用が多い。  なぜなら、原材料や仕掛品な

          鉄軌道の「公共性」とは何か 2/4

          4/4 三セク鉄道シリーズ 並行在来線

          1-3 並行在来線のポテンシャル  しばし、その沿線地域にとって整備新幹線と並行在来線は”光と影”と比喩される。「特急街道」としての役目を終えた並行在来線の三セク化は、JRによる地方路線の切り捨てと批判されるからである。  国鉄改革期、国鉄再建小委員長を務めた三塚博は、並行在来線は、もはや「鉄道の特性」を発揮できないとしていた。  「新幹線と並行しない主要幹線の優等列車」に限れば、高速バスや航空としのぎを削りながらも、採算性を確保できるとしていた。  一方、新幹線開業以降

          4/4 三セク鉄道シリーズ 並行在来線

          田中角栄 日本列島改造論を読む

           今年(R5(2023).3)復刊された田中角栄の『日本列島改造論』を、先日買いました。  個人的にぜひ読んでみたかった一冊で、半世紀ぶりの復刊により、入手しやすくなったことはありがたい限りです。  その読書レビューを、交通、鉄道関係にさだめて、以下書いてみました。 日本列島改造論の概略  『日本列島改造論』は、日刊工業新聞社より、高度経済成長期も終わりに近づいた、昭和47(1972)年に発刊された。  この一冊のテーマは、様々なインフラストラクチャ―(社会資本)を、総合

          田中角栄 日本列島改造論を読む

          第3部 第三セクターシリーズ 並行在来線

          第1部:地域鉄道に生まれ変わる並行在来線1-1 これまでの三セク転換線区の概略  整備新幹線(整備五線)と並行在来線型三セク路線は、同日に開業してきた。しなの鉄道(北しなの線)や青い森鉄道(八戸~青森)のように、整備新幹線延伸に伴い、継承する在来線区間も伸びた会社もある。この延長区間も、新在同日で開業してきた。新幹線開業前日付にて、JR線としての廃止届が、第三セクター転換される区間には出される。  かくして整備五線では、並走する“JRの”在来線が消失する。したがって運賃計算

          第3部 第三セクターシリーズ 並行在来線

          第三セクター鉄道シリーズ並行在来線 第2部

          *以下の文章は、『第三セクター鉄道シリーズ並行在来線 第1部』からの続きです。 1-5 整備五線独自の工費分担方式  国鉄が“民間企業”たるJRになったことで政府は、公共事業の実行を直接的に指示できなくなった。またJRを「第二国鉄」、すなわち旧国鉄よろしくの過大な負担を強いて経営難に陥らせてはならないとの方針が優先された。  一方、自治体からは全線立体交差などを特徴とする、フル規格での新幹線誘致が根強く要望されていた。  そこで沿線自治体による費用負担が実装された。現

          第三セクター鉄道シリーズ並行在来線 第2部

          第三セクター鉄道シリーズ並行在来線 第1部

          プロローグ  現在(令和5(2023)現在)、整備新幹線開業に伴い発足した並行在来線型の会社は、全国に8社。第三セクター鉄道の、主たる勢力のひとつとなっている。  主要幹線の座を降りたことを逆手に取り、地域輸送に力を入れる路線もあれば、観光鉄道化に挑んできた路線もある。あるいは多くの路線は経営分離後も、貨物輸送の大動脈として機能している。  この動画では、並行在来線転換型の三セク鉄道に関する沿革、またその特徴や経営努力と、その成果などについて解説していく。 第1部:並行

          第三セクター鉄道シリーズ並行在来線 第1部

          鉄軌道の「公共性」とは何か 1/4

          プロローグ 「鉄軌道(公共交通)は公共性が高く採算に乗せにくい」「だから公的支援を積極的に図るべき」 こうした意見が、鉄軌道はじめ公共交通を語る際よく出てくる。 この「公共性」とは何ゆえに生じているのか? あるいは何が、鉄軌道にとって採算のとりにくい理由となっているのか? そんなイメージの詳細に、経済学の観点から迫ってみよう。 第1部:公共交通が「公共性の高い」理由:条件あれこれ 1-1 条件①非競合性 実はミクロ経済学には、「公共性」の定義はない。ただし近しい概念とし

          鉄軌道の「公共性」とは何か 1/4

          ごあいさつと書きたいこと

           皆様はじめまして。  このクリエイターページでは鉄道や軌道について、しかし趣味的な要素から少し離れた“固い”話題を、取り上げていこうと思ってきます。  具体的には社会政策や150年余にわたる歴史の面から、日本の鉄道・軌道をめぐる全体的な動向を、ご紹介していくつもりです。  かねてよりわが国では、鉄道や軌道事業の赤字、並びに存廃が問題視されてきました。  国鉄改革や、昭和30年代以降の中小私鉄の相次いだ廃線、そして近年では平成28(2016)年にJR北海道が、単独維持が困難な

          ごあいさつと書きたいこと