アムステルダムのホテルのレストランで朝食に目玉焼きを作ってくれたおばさん

僕は卵が大好きで1日1個は必ず食べる。
最近のお気に入りは、朝食にホットココアを飲みながら半熟の茹で卵を食べること。
少し塩をふり、スプーンで半熟の黄身をたっぷりとすくって口に入れ、その後ホットココアを飲むと凄く美味しい。

1990年、僕は仕事で1ヶ月間、オランダのアムステルダムに滞在することになった。
僕は1ヶ月間、同じホテルに滞在した。
ヨーロッパで目玉焼きと言えば両面焼きだ。片面焼きの場合は片面焼きにして欲しいと言わなければならない。

僕は翌朝、朝食を食べにホテルの1階にあるレストランに行った。ビュッフェスタイルの朝食だった。
僕はトレーを持って金属製の四角い容器に入った料理を見て回った。
まずハーリングというオランダの生ニシンを塩や巣で発酵させ玉ねぎのスライスを載せたものを取った 
これ、美味しい。
野菜やベーコンを取って卵料理の方に行くと、
小さなガスコンロに小さなフライパンをのせてお客様を待っているおばさんがいた。
みんな、おばさんに卵料理をその場で作ってもらっていた。
僕はスクランブルエッグを食べようと思っていた。僕の順番が来たので、スクランブルエッグと言おうとすると、そのおばさんは、
「目玉焼きを食べなさい。」 
と言って、両面焼きの目玉焼きを作ってくれた。
僕は不思議に思いながらも目玉焼きを食べた。
熱々の美味しい目玉焼きだった。

翌朝、またホテルのレストランに行った。
昨日、他のお客様がオムレツを作ってもらって
美味しそうに食べていたので、オムレツにしようと
思って、そのおばさんのところに行くと、
「何処から来たの?」
「日本から来ました。」
「日本!遠い所から来たね、歳はいくつ?」
「28歳です。」
「私の息子と同じ年だ。生きていたらだけどね。
10歳の時、病気で亡くなっちゃった。息子は毎朝私が作る目玉焼きを美味しいと言って、必ず2つ食べて学校へ行ったんだよ。」
「目玉焼きを2つください。」

それから、僕は毎朝、おばさんが作ってくれる目玉焼きを2つ食べて仕事に出かけた。
僕は元々目玉焼きが好きだったし、おばさんが作ってくれる目玉焼きは美味しかった。
そして、日本に帰る日の朝、レストランでそのおばさんにお礼と挨拶をした。
「今日のフライトで日本に帰ります。」
「そう、ちょっと待っていなさい。」
そう言うとおばさんは、厨房からベーコンを持って来て、ベーコンエッグを作ってくれた。
それを僕に渡してくれると、
「毎日、目玉焼きを2つ食べて出かけるんだよ。
目玉焼きは栄養があるからね。いいね。」
「はい、美味しい目玉焼きをありがとうございました。」 
おばさんは優しい微笑みを浮かべて
「気を付けて帰るんだよ。」
と言ってくれた。

その翌年、ドイツへの出張の帰りにアムステルダムに3日間滞在することになった。
僕は、また同じホテルを予約した。 
朝、ホテルのレストランの卵料理のコーナーに行ったが、おばさんの姿はなかった。
いろんな卵料理が四角い金属製の容器に置いてあるだけだった。
僕は目玉焼きを2つ取って食べた。
美味しかったが、おばさんが作ってくれた熱々の目玉焼きほど美味しくはなかった。
おばさんが作ってくれた目玉焼きが美味しかったのは、熱々だっただけではない、亡くなった息子さんへの愛情が込められていたからだ、と思った。


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