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Side Story|Scent of memories


金木犀の香りが
あちこちから香る季節が
今年もやってきた

ちょっぴり寒くて
ちょっぴり切ない

ふとした瞬間に金木犀が香るたびに
あの日の記憶がよみがえる


—-


入道雲がもくもくと空を覆う夏

毎年仲良しの友達と行く
地元の小さな花火大会に
『友達』から『彼氏』になった君と
浴衣を着てでかけた

毎年みていた花火は
相変わらずとても綺麗だったけど

それを見上げる君の横顔と
目が合った瞬間の瞳に映った火花が
とても綺麗で
思わず見入ってしまった


---


付き合うようになってから
わざわざ遠回りなのに
部活や塾の帰りに待ち合わせて
私の家まで一緒に帰るようになった

一緒に帰る道でも
友達だった頃のまま
学校でのことや好きなバンドの話をした


そして
君の温度すら知らないまま
夏が終わった


---


少し肌寒くなってきた秋の終わり

実家の近くの広場に咲く金木犀が
満開になっていて
その下のベンチに座ると
金木犀の香りに包まれる

私のお気に入りの場所で
そこで過ごすのがすごく好きだった

毎週木曜日の夜
お互い塾で勉強したあとに
駅前で待ち合わせして
一緒に帰るようになった

ちょっと遠回りな私の家への道を
自転車を押して並んで歩く

家に着く前に
私のお気に入りのベンチに座って
1時間くらい話して帰るのが
いつのまにか当たり前になっていた

いつもみたいに他愛もない話をして
すこし沈黙した時間ができた

『寒いね』

そう君が言って

『うん、寒いね』

そう私が答えている間に


君が私の手を握った


私の手を握る
その手が震えていたのが
寒さのせいなんかじゃないことは

すごく恥ずかしそうに
でも幸せそうに笑いながら

『手、つめたいね』

っていう君の目を見たら
すぐにわかった

—-

風が吹く

キンモクセイが香る

さっきまで寒かったはずなのに
顔がすごく熱くなっていた

心臓の音がうるさくて
すごく恥ずかしくて
俯いてしまいそうになったけど

それでも君から目を
そらすことができなかった


—-


人生で初めて握った手の感触も
震える手と声とあの表情も

今でも鮮明に覚えている

つめたい空気に含まれた
懐かしい香りがふと鼻をかすめるたびに

あの日の出来事を思い出す

不器用だった私の恋と
初めて知った君の温度

side story...


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