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その手は温かい

いつもの家族LINEが急に深刻な空気で母から連絡が来た。内容は大叔母が余命宣告を受けたことだった。膵臓癌でかなり末期の状態と報告された。

私は大叔母のことをおばさんと呼んで、毎回、姉である祖母に会いにくる大叔母によくしてもらった。いつもいい子だねと言って頭を撫でてくれ、悪いことをすると手を軽く叩いて叱ってくれた。昔、教員をしていた大叔母は話も面白く、土地の話や本について色々教えてくれた。国語の先生をしていたおばさんは、言葉違いや漢字の書き方、歴史、おばあちゃんとの昔話なんかを話してくれる。

大叔母は祖母と仲がいい。一方でその夫である私にとってのおじいちゃんとはいつもふざけあいながら、喧嘩もしたりしている。それでも仲良く3人で旅行に行ったりしていた。毎年の旅行写真を見ると3人はアクティブでロープウェイに乗ったり、美術館や博物館に行ったりとにかくどこに旅行するのも当たり前のように3人だったり、たまに母が加わって4人で出掛けている。もう80を過ぎた3人は、年齢なんかを感じさせる素振りを一切見せない。ただ、写真だけが明確に3人の変化を記録していた。髪色や顔の変化。だけど、3人はいつも笑顔だ。

そんな大叔母に会うのは約2年ぶりだった。私は余命宣告を受けたとは知らずいつものように話をしてご飯をたべて近況を報告しあったりした。
そして、おばさんは必ず、別れ際には力強く私の手を握って力比べをする。小さい頃は、勝てる気力も一切感じられなかった。握られた手が少し痛いと思うくらい握られる。私はそれが楽しくて何回も挑んだりした。そしてずっとそれは続いて、今も力比べは必ずする。

ある時から力比べをすると勝てるようになった。高校生にもなると少し手加減なんかしようとしたり、遠慮がちになる。気づくと私の方が強く手を握れる。おばさんの力より私の力が上回る時がきていた。だけど、おばさんは強くなったねと言いながら、少し弱くなった握力を全力で5秒間の握手で力を込めて、笑顔でぎゅっと手を握る。やっぱり、少し痛いと思えるくらい握られる。その瞬間は、いつもと変わらない。何も変わらないのだ。あの小学生の頃も、高校生の頃にもそして今も。その手の温かさは全く変わらない。

これから何回、手を握って力比べをするのかわからない。だけど、その手の温かさは変わらないと私は知ってる。だから、毎日、私も力強く生きて、その温もりを思い出しながら、おばさんと力比べをした時に弱くなったねなんて思われないように今日も両手を力強く握りあわせる。

だから、おばさん、また今度も力比べしようね。その時までに、更に強く握るよ、おばさんの温かい手を。


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