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乗り過ごしはスタイルである。


乗り過ごしとは日常にあるミステリーツアー

「記録、それはいつも儚い。一つの記録は一瞬ののちに破られる運命を自ら持っている。それでも人々は記録に挑む。限りない可能性とロマンをいつも追い続ける。それが人間なのである。次の記録を作るのは、あなたかも知れない」

これは、40年くらい前に日本TV系列で放映されていた人気番組「びっくり日本新記録」のエンディングに流れるナレーションの一節だ。

番組内での競技に優勝すると日本記録であること記した証書と豪華賞品が贈られる。そして表彰式では、当時番組のアシスタントを務めていたキャロライン洋子から花のレイを首にかけられ、祝福のキスをプレゼントされる。

最後に司会者の志生野温夫が「おめでとう〜!!日本一〜!」と叫ぶと、エンディングテーマが流れ始め、ナレーションに繋がっていく。


 

当時小学生だった俺は、この番組の中でもとりわけこのエンディングのフォーマットがなぜか好きだった。決してキャロライン洋子が観たかったわけではない。



さて、本題に入ろう。

電車に乗ったはいいが、何らかの原因により目的地で下車できない、いわゆる「乗り過ごし」という事象について。

どこへ行くにもお抱え運転手付きの超高級車で移動するような特権階級の一部の方々を除けば、誰しもが一度は乗り過ごしを体験していると考えられる。

「日常にあるミステリーツアー」と俺だけに呼ばれている乗り過ごしには、いろいろなパターンがある。中でも一番多いのは、つい眠りこけてしまい乗り過ごしてしまうパターン。これは国土交通省が毎年実施している乗り過ごし調査結果からも明らかになっているとかいないとかそんな調査データはないとか言われていたりもするがクソリプは無視することにする。

また、乗り過ごしは日本人の働き方にも関係があるようだ。常態化した長時間労働からくる過労や、慢性的な睡眠不足、仕事上での酒席、深夜のVシネマ視聴、そして近年の副業ブームからくるtwitterの仕事化などもその原因だと俺の中だけで考えられている。

近年は働き方改革の必要性が声高に叫ばれる時代になり、月末の金曜日に早く仕事を切り上げて酒を飲みにいくというプレミアムツライデーの導入が世間で進んでいるのは記憶に新しいところだ。

そんな社会的風潮によって俺が身を置く広告業界においても、多少その労働環境は改善しているということになっているらしいが、悪の組織の見えない力によってその本当の姿は闇に包まれている。

近年はスマートフォンの普及率と電車の乗り過ごし体験者の数は密接な関係があると俺だけに言われているように、SNSやゲームなど、スマートフォンの画面に没頭しつい乗り過ごしてしまうというパターンが増えているようだ。

つまり、労働環境が改善したところで世の中の乗り過ごしはまったく減っていない。むしろ増えているかもしれない。車庫まで連れて行かれてしまう人も多いと聞く。日本で長年放置されていたこの問題こそ、いま取り組むべき最も重要な社会問題のうちのひとつと俺だけに数えられている。


乗り過ごし者(もの)と呼ばれて

激務の広告屋を30年やっていると身についてしまう悲しい佐賀、もとい、性(さが)というものがある。それは「乗り物での移動中は睡眠をとる」というものだ。ついでに言っちゃうと、性(さが)とはツイストの名曲でもあるのだが、その歌詞を検索してみるといい。乗り過ごしを見事に描写している。そして、実は乗り過ごしを描写した名曲は数多くある。例を言えば松田聖子の歌に結構多い。これらのことからも乗り過ごしという社会問題が昔から存在していたということがわかる。

話がつい脱線した。鉄道がらみの話で脱線とは縁起が悪い。

話を戻そう。一日の平均睡眠時間が4時間を割りそうな勢いで30年も生活している俺にとって、電車、バス、タクシー、飛行機、船、時には10式戦車やオスプレイ、屈強な男たちの肩車などでの移動中の時間は、生命を維持するための大切な睡眠時間だといっても過言ではないし、東武鉄道の特急といえばやっぱり「けごん」に尽きる。そんな俺だからこんな芸当も朝飯前だ。

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そんな悲しい性(さが)を背負った乗り過ごし者(もの)の男として、その社会問題に立ち向かう決心をしたのは当然の成り行きだった。宿命といっていい。

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乗り過ごしはロマンである。

人は電車で乗り過ごした時、ついそれをネガティブに捉えがちだ。君はどうだろう?夢から醒め、その寝ぼけた眼に見たことのない風景が飛び込んできた時にどう思うか。そこで君の人生が豊かなのかどうかがわかる。

その風景をまるで夢のようだと思うのか。それとも夢であってほしいと思うのか。だが、安心してほしい。目の前の状況は100%現実だ。君はまんまと乗り過ごしたのだ。思いがけず見慣れぬ駅に降り立った時、駅のホームでひとり途方にくれるより、どうせならその状況を楽しむ方がいい。人は悲しみが多いほど人には優しくできるのだから。とか言っちゃってるのは金八だけだ。男なら顔で笑って心で泣くものなのだ。寅さんだ。

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目の前の思いがけない現実を、脚本のないドラマとして楽しめばいいだけのことだ。そしてそのドラマの最高の舞台は、何と言っても終電であり、終着駅が遠い路線であることは言うまでもあるまい。

「乗り過ごし、それはいつも儚い。一つの駅は長い瞬きの間に過ぎ去っていく運命を持っている。それでも人々は乗り過ごしに挑む。限りない可能性とロマンをいつも追い続ける。それが人間なのである。次の乗り過ごしを楽しむのは、あなたかも知れない」

深夜2:00近い高尾駅のホームに降り立った時、俺の脳内にはこのナレーションとエンディング曲が流れる。だが、その舞台にはキャロライン洋子の祝福のキスなどあるはずもなく、ただ静かに天狗の石像が迎えてくれるだけだ。


乗り過ごしを愛する大人のための雑誌。Miss my stop 創刊

この社会問題に立ち向かうために、俺は「乗り過ごしを楽しむというスタイル」を世に問うことに決めた。

若かりしころ特にやりたいこともなかった俺が、交通事故のように師匠に出逢い、「おまえは何ができる?」と問われ「ボディガードくらいなら少々」と答えたことでうっかり広告屋になってしまったのも、今考えれば、この社会問題に立ち向かうためだったとしか思えない。人は皆、神に導かれているのだ。神といえばThe Creatorだ。そして広告制作者は神を名乗ってはいけない。

2017年9月。一冊の架空の雑誌が創刊した。Miss my stop。


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乗り過ごしを意味する言葉をストレートに雑誌名とした。古くからの読者はこのMiss my stopを略してミスマイと呼ぶ。

ちなみにあのミスチルという著名なバンド、あのバンドの正式な名前は、Miss my chirdren でありミスチルという略称からもミスマイからインスパイアされただろうことは想像に難くない。それどころか最近もミスマイからインスパイアされたとしか思えない名称のアイドルグループまで存在する始末だ。さらに言えば最近のJKの中では乗り過ごしたことをミスマイしちゃったと言うらしいし、これらすべてのことは俺の中だけで有名な話で100%嘘だ。

この雑誌の特筆するべき点は、twitter上で発行されている表紙だけの雑誌だということだ。そしてその表紙を見た読者が雑誌の記事を勝手な想像で楽しむ。そして読者はtwitter上で俺にそのレビューをリプライすることで、その雑誌の中身が創り上げられていく。読者の想像力だけが頼りの、読者が中身を創り上げるというインタラクティブな雑誌なのだ。

そしてMiss my stopにまつわる都市伝説の一つに、twitterだけでなく、実物がキオスクで買えるという噂がある。その噂の出所はもちろん俺だ。そしてそれを知った方から、キオスクを探し回ったもののいくら探しても見つからないというお叱りの声をいただいたりもするのだが、そのような行動はそろそろキオスクに怒られそうだからほどほどにしておいてほしい。俺の周りですらキオスクで実物を入手できたという人はいない。おそらく配本されて5秒で完売してしまうのか、あるいは出版業界の闇の力が働いているのだろう。

そんなMiss my stop は、作者が飽きっぽいという原因により何度も廃刊の危機に見舞われながらも、全国3000万人の読者に支えられているおかげで2年以上発行を続けている。いまやgoogleで雑誌名を検索すると真っ先に引っかかるほどの市民権を得ている(各自調査)。自分の信念にしたがって何事も続けてみることが一番大事なのだ。




Miss my stop は拡張していく

これまで、Miss my stopでは、乗り過ごしはスタイルである。と掲げ、創刊以来、いかに乗り過ごしを楽しむかを訴えてきた。

いつもの電車に乗って予定通りの目的地にきちんと降り立つような、予定調和の平穏な日々で楽しいか?想定外の場所に連れて行かれる方が楽しくないか?決められたレールの上を行くような人生でいいのか?電車だからレールはいいのか。

ある時、乗り過ごし先の高尾で、乗り過ごした絶望からか今にも死にそうな顔をしてタクシー行列に並んでいる中年男性を見た。そんなに辛いか?楽しくないか?思いがけない小旅行をプレゼントされたんだぞ?もっと楽しめよ。ほら、タクシー行列のみんなでアルゴリズム体操やったら楽しそうだぜ?佐藤雅彦だぜ?やろうぜ?



乗り過ごしは人生と重ねあわせることができる。

時に回り道を受け入れたり、道草を楽しむことも人生では必要なように、乗り過ごしというハプニングを楽しめる大人になることは、豊かな人生を送る上で大事なことだということを、多くの人に伝えなければならない。

死にそうな顔をしたその男性は、ようやく順番が回ってきたタクシーに潜り込みつつ運転手に「千葉」と告げて走り去っていった。あまりに方向も路線も違うダイナミックな乗り過ごしじゃねえかと思いつつ、これは乗り過ごしを楽しめる大人を増やさねばならない、それには早期教育の環境が必要だ、と思った。頭おかしい。翌日、俺は学校法人設立に動き始めた。


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この学園では幅広く生徒を受け入れなければならない。乗り過ごしを楽しむ大人を一人でも多く世に送り出すために、乗越学園の入試はシンプルだ。「のりすごし」と読む一文字の漢字を書ければ合格なのだ。


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ちなみに学校は中野にあり、強豪と名高い野球部のグラウンドは高尾にある。そして乗越学園には芸能コースがあり、乗越路吹雪や乗越英一郎、行過たかお、藤原乗過など数多くの著名人の母校となったのだ。もちろん学校のくだりは全部嘘だ。馬鹿になりそうだ。


ステーション系アパレルブランド Miss my stopの誕生

乗り過ごしを楽しむということを世間に浸透させるためには、乗り過ごしを楽しんでいる人自身が、乗り過ごしストだということを表明することも大事なのではないか。いつまでも隠れキリシタンのような存在では世の中は変わらない。我は乗り過ごしストである、乗り過ごし者(もの)である、と表明するためには、ファッションの力を借りねばなるまい。

そして昨年末、Miss my stopはアパレル業界に参入していく。



「このブランド、注文しても本当に商品が届くのか?乗り過ごしのように目的地に着かないのではないか?」というお客さまの声を目にした時、「乗り過ごしを楽しむスタイル」が浸透してきつつある証だと確信したのはここだけの話だし、多分届くから安心して注文しろください。


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アパレルブランドとしてのMiss my stopは、ステーション系と呼ばれ、商品名が全て駅名となっている。季節を問わず快適な乗り過ごしを楽しめるように充実した商品ラインアップ。大人のファッションアイテムとして、密かなブームとなっているとか一度でいいから言われてみたいし実際に身につけている人と中央線最終高尾行の電車の中で出会ってみたいし出会ったら多分笑っちゃうから出会ってください。俺は大体10号車に乗ってます。


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そして更なる展開が。











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