名称未設定

Facebook Libraが引き続き世間の耳目を集めています。

人によって、企業によって、国家によって、賛否も評価も様々ですが、ブロックチェーンの社会実装に取り組んでいる立場から書き留めておきます。
以前、「Facebook Libraがひらくかもしれないセキュリティトークンの世界」という記事を書きましたが、今回の日経COMEMOテーマ企画でお誘いいただきましたので、改めて。

実際のところ、各国規制当局とのやりとりを見るにつけLibraが本当に実稼働し得るのかどうか、は現時点ではなんとも言えません。しかし、世界22億人のユーザー基盤をもつこの超巨大なバーチャル世界が投じた一石(巨岩)は世界中の個人・企業・国家を目を覚めさせました。

かつて、ブロックチェーン・仮想通貨というものが、投機的なものとしてではなく、もっと実体的なものとして、「ブロックチェーン界隈」と称される一部のアーリーアダプター達のみならず、より広く注目されたことは殆どなかったのではないかと思います。その点で、Libraに「Wake-up call(目覚まし)」の効果と「Mass Recognition(大衆認知)」の効果を見出すことができます。さながら、「泰平の眠りを覚ます上喜撰、たった四杯で夜も眠れず・・・」と唄われた黒船のようですね。

各国規制当局は新たな法規制枠組みの必要性をより一層強く認識したはずです。中央銀行制度への挑戦ともいうべきLibraの思想は既存の社会システムを揺るがす可能性があるものであり、価値が不安定で実用性の乏しく「所詮」ニッチなビットコインに対して抱いた(かもしれない)ものとは比べ物にならないほど大きく現実的な脅威です。

企業は、「ビジネスになる」ブロックチェーンユースケースをずっと追求してきました。キラーアプリは結局ビットコインしかないのではと言われてきたなか、分かりやすいユースケースとして大いに期待が集まります。結果としてVISAやMastercardを始めとした大手企業も参加に手を挙げることになりました。

(画像出所:Facebook)

個人は既存の決済システムやプライバシーについて考え直す機会ともなったでしょう。かつてFintechブームが起こった(今も続いているかもしれませんが)背景には、unbanked / unservedと呼ばれる、既存の金融システムにアクセス出来ない人たちや、既存の金融システムを信用できない人たちの存在がありました。今回は、Facebookのユーザー数・分布を考えれば、より裾野広く、影響を受ける人が存在します。

さて、ブロックチェーン業界では、識者によるLibraの技術的な解説が多く行われています。私はビジネス側の人間なので、技術的に優れているかどうかとか、サトシナカモトが目指した非中央集権的な世界に照らしてどうかとかは、究極的に言ってしまえば論点とは思っていません。もっと言えば、ブロックチェーンかどうかという点も同様です。結局、どのようなUI(User Interface)・UX(User Experience)が提供されるのか、ということになろうかと思います。

これまでブロックチェーン関連で取り組まれたプロジェクトの多くは「ブロックチェーンであること」から生まれたものが多く、「ブロックチェーンであること」を終始運命づけられたものでした。そしてその多くは実験やPoC(Proof of Concept)止まりになってきました。今、Libraは「ブロックチェーンであるなにか」として多く議論されていますが、突き詰めてどんなバリューを我々ユーザーが得られるのかについて議論が為されるフェーズになってはじめて、Libraの本当の評価を論じることができるように思います。