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更新する彼女、道具としての僕
彼女と最初にセックスをしたのは代々木上原にあるマンションのゴミ捨て場だった。行為後、彼女はパンストの伝線をチェックしながら、このマンションは元カレと4年間同棲していたマンションだと僕に教えた。なんて人だ。
19時
代田橋駅
南口にて
仮に第三者がこの事務的なLINEを覗き見たとして、僕らの関係に気付く人はどれほどいるのだろうか。帰宅ラッシュの京王線で6歳上の彼女が住む街へと向かいなが
これはダンスではない
ぐちゃぐちゃ考えて小難しい文章ばかり書いているから眠れなくなるんだ。彼女はそう断定した。わたしの書く文章はそんなに難しくない。考えごとをする時間だって少ない。仕事を終えて家に帰ってごはんを食べて口をあけて薄ぼんやりしているだけで夜中になる。困ったものである。もっとものを考えたほうがいい。
わたしはそう思う。思うけれども、彼女に比べたらたしかに多少はものを考える人間だとも思う。彼女はおおむね「
やがて僕たちの星は天使で満たされて
どこかの国のことわざで、話している途中でふと会話が止まることを、「天使が通る」という。
話題と話題の繋ぎ目、思わず言いよどんでしまったとき、言葉が尽きた瞬間、お互いにちょっと気まずい時間が流れて、「ああ、天使が通ったね」と目配せして笑う。
その言葉をうのみにすると、ぼくたちの生活のなかには、たくさんの天使が行き交っていることになる。初めて両親に挨拶する恋人たちのあいだを。気だるい身体を送
真夜中のビター・スウィート
バレンタインの夜、絶対にかけてはいけない人に電話をかけた。
「もしもし」
聞き慣れた低い声が聞こえたとき、驚いて思わずスマホを落としそうになった。
夢にまで出てきた愛しい人の声が、はっきりと耳奥に響く。
唇の動きまで、想像できそうなほどに。
「……絶対、出ないと思った」
声が震える。言葉をつなぎたくても、脳の奥がじんとしびれて舌が回らない。
「君と話したくて、待ってたんだ
「食事が出来た」と知らせる機械が、僕を呼ぶ
サービスエリアのフードコートでチャーシュー麺を待ちながら、回りくどく話す母親の電話にイラついてしまったことを反省する。
静岡に住む叔父が体調を崩してからというもの、母親からかかってくる「時間があるなら顔見せに行ってあげて」という電話を煩わしく感じていた。「なに、そんなに叔父さん悪いの?」と聞くと「そんなことはないみたいだけど、最近会ってないでしょう」と返される。
そもそも僕は、母親の兄で
旅がわたしを眠らせる
屋根の下で眠りまともな食事をとり好きな仕事をして誰に殴られることもなく暮らしている。そのような現実をわたしはあまり信じていない。それがわたしの現状だと理解してはいる。同時に、どこかで嘘だと思っている。職場に行けば席があり、家に帰れば鍵が開き、道は行き先に通じている。それは現実と呼ばれている。けれども、わたしにとってはひとつの仮定にすぎない。わたしはそのように寄る辺ない。覚えているかぎりずっとそう
もっとみる目を開けたら、魔法のように、2人は。
目を開けたら、魔法のように、2人は。
体温計を口にくわえながら、最後にした会話を思い出していた。
あのときの吐息を覚えている。それはため息に近いのだけど、どちらかといえばあきれて、気持ちの離れていく音で。
彼女の瞳は、目の前のぼくからピントが外れて、どこまでもどこまでも、離れていって。
体温計が鳴って、この微熱は二日酔いでも恋でもないことを教えてくれる。
「ミケ」
飼い猫に話しかけた。
虎になったインフルエンサー
李徴がまじすげえカッコで薮の中から現れたから、おれはびっくりしてとりあえず写真を撮りまくった。
「ちょちょちょ、おまえやめろって。ツイッターにアップすんなよ」
「わり。だってお前、新しい服買ったときにはいつも写真撮れって俺に言うじゃん」
アップしようにもここは電波の届かない深い山の中だ。人里の明かりが山の辺の向こうにちらちらと燃えている。
「何、お前、そのカッコ。とりあえず配信した?」
クリスマスだからって全部許されると思うなよ
「もっと甘えていいんだよ」
彼はいつも私にそう言うのだった。
彼は今から10年前、私がまだ二十歳になったばかりの頃、ほんの一瞬、私の恋人だった。当時のアルバイト先だったカフェのオーナーで、私より15歳年上。でも、そんなことを感じさせないほど屈託なくよく笑う、少年のような人だった。なのに不思議と、背伸びして大人ぶる同い年の男の子たちより、はるかに大人に見えた。
彼がいくら恋人であったって
三十路で出会う趣味は尊い
久しぶりに同年代の友人たちと会う機会があったので、レモンサワーを片手に「30歳以降に出会いハマったもの」をみんなに聞いてみた。
というのも、僕は仕事に限らず苦悩や努力するほど熱中しているものがないのが長年のコンプレックスなのだ。10代の頃からさまざまな趣味にタッチしてきたが、結局ベースはリサイクルショップに面倒見てもらったし、一眼レフは試し撮りだけして物置に眠っている。自分は飽き性なのだと痛
夜中、猫についていってみると
私、菊池良はフミナーズの原稿に何を書くか思案していた。今日が締切当日で、日も落ちて外はすっかり暗くなっていた。タイムリミットは刻一刻と近づいている。しかし、何も思い浮かばず、自宅の仕事部屋でパソコンの前に座って途方にくれていたのだった。周囲をペットの猫がうろちょろしている。
「何か面白いことはないかねえ」
傍らの猫に話しかけると、「ありますよ」と返事が。
「ついてきてください」