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連載小説【正義屋グティ】   第49話・三千年の恨み

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第48話・緑の悪魔】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
                      【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
                       【第44話・クローバーの戦い】(世紀大戦・③)
                       【第45話・邪魔者】(世紀大戦・④)
                       【第46話・裏の裏】(世紀大戦・⑤)
                       【第47話・寝返り】(世紀対戦・⑥)

物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していき、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。士気を高めるために五神の一人のホークと共に進軍していったホーク大国軍の勢いは衰えることなく、トレッフ王国の中心にある緑の城までもが制圧された。しかしその後、寝返ったホーク大国軍総隊長のフロリアーノに情報を聞いたサイモン率いる中央大陸連合軍と、それに協力するフレディ総裁率いる正義屋による攻撃でホーク大国軍は降参を認めた。そんな中、未だに逃亡を図っていたホークは緑の液体を正義屋の戦闘機・ロボバリエンテに向けて投げつけ、その場にいた正義屋の職員を緑の灰にしてしまった。一方緑の城周辺では、降参したはずのホーク大国軍がホークの合図で忍ばせておいた緑のカプセルを敵に目掛け投げ始め、その一つがサイモンの右腕に当たってしまう……。

49.三千年の恨み


世紀大戦のさらに三十年前 カルム国・正義屋
「おうい、サイモン」
遠くの方で俺を呼ぶ声がした。
「なんだよ、じじい」
「じじいとは失礼な奴だな。おいらの名はフレディだ、よろしくちゃん」
その男はそう名乗ってきた。そいつの見た目は老人のくせして体は俺よりも磨かれていた気色の悪い奴でよ、俺は無視して任務へと向かおうとした。
「おい、待てよって」
そしたらじじいは俺のズボンからはみ出たシャツを老人とは思えない力で引き寄せこう続けた。
「おいらは強くて信頼できる相棒を探してんだ。この場所にいるってことはよ、よっぽどの出来損ないか、強い正義を持った奴だと聞いている。お前は前者には見えなくてよぉ」
なんなんだ、この失礼極まりない男は。養成所を卒業したばかりの俺にはそんな態度がどこか気に入らなくて、今度は俺から問うてみることにしたんだ。
「相棒か、そいつはかっこいいじゃねえかよ。そんならまずじじいの正義から聞かせてくれねぇか」
「おいらの、正義か……」
そしたらじじいの口が止まった。その時はそういう年ごろでよ、年上の男を言い負かすことに快感を得ていた俺は嫌な笑顔をそいつに見せつけて、もうどこかへ去ってしまおうかと考えた。が、そいつは俺の歩を止めた。
「強いて言うなら、おいらの親友とこの星を死なせない事だな。おいらの故郷のようにはさせたくねぇんでな」
「故郷?」
「あぁ地球って星なんだけどな……そんなことお前さんに言ってもわからんことだ」
「チキュウ?じじい何言ってやがる」
思ったことをそのまま口に出した。でも俺はそんな現実味のないおいぼれの話をもっと聞きたくなり、一度は背けたつま先をじじいの方へと向き直した。
「それを聞きたいのなら、まず聞かせろお前さんの正義を」
してやられた。そうはわかっていても、俺は操られずにはいられなかった。俺はじじいの目をまっすぐ見つめると、こう答えた。
「この世から兵器をなくすために俺は生きている。そのためなら死ぬまで戦い続ける」

時は戻り世紀大戦の終盤  トレッフ王国・緑の城

緑の液体がサイモンの右腕に付着してからわずか五秒。この地の音は悲鳴で制されていた。降参したと思われていたホーク大国軍はポケットに入れておいた緑のカプセルを敵へめがけて投げ続けていた。
「おいおい、宴会の時にホーク様が配るように指示された最終兵器がこれかよ」
ある者は、予想以上のその代物にカプセルを握る手が小刻みに震え、
「うっひょー!こんなえぐい兵器があるんなら、最初から使えよな」
ある者は、手にした絶対的な力に高揚し狂ったように敵にぶつけ、
「やめてくれー!俺たちの負けだ!もう、誰も殺さないでくれ!」
ある者は緑の液によって体を蝕まれていく仲間を抱いて命を乞う。
勝負がついたかのように思われた戦況は未知の兵器によって形勢逆転し、緑の液体に触れた者は見る見るうちに溶けだし、光る緑色の灰となり夜明けが近づく紫色の空へと昇って行った。緑の灰は強風により島全土へと広がり、島のほとんどを緑の灰で覆いつくした。
「サイモン!大丈夫なのか?!」
フロリアーノは溶けていく腕を大きく振りながら遠くへと逃げるサイモンの後を追った。
「大丈夫のように見えるのか?この裏切り者!」
「違う、俺は本当に何も……」
誤解を解こうと口を開いたが、振り向いたサイモンの左目が飛び散った緑の液によって溶けだしていく様が目に入り、黙るほかなかった。サイモンの右腕は次第に細くなっていき、遂には焼き尽くされた大地に転がり落ちてしまった。
「サイモン!お前の右腕……!」
「んなことわかってる!!」
大地に残されたサイモンの右腕は光り輝くと、無情にも最後の指の一本まで飲み込みこまれ灰となって飛んで行ってしまった。
「サイモン……すまん」
その様子を最後まで見ていられずフロリアーノは目を背け追い続けた。それでも、サイモンの体に付着した液体の反応は終わることはなく、次々にその勇敢な体を飲み込もうとする。
「フロリアーノ!」
すると、前を走るサイモンが目線を変えずそう叫んだ。
「な、なんだ」
「俺はあの川に飛び込む!だから、この無線機でフレディって奴にこう伝えろ。『俺の息子を頼む。それとバーサーク液が出回った』ってな」
サイモンはそういうと紺色の無線機を乱暴に後ろへと投げ、さらにスピードを上げた。
「なんで、今言えばよかったじゃねぇかよ!それに俺は裏切り者かもしれないのに!」
転がった無線機を拾い、追いつけないと判断したフロリアーノは立ち止まりそう尋ねる。が、返答はなく荒野を走るサイモンの足音のみがフロリアーノの耳に轟いた。
「なんでだよ!サイモン!」
フロリアーノの頬には久しく見ない一滴の涙が流れていた。どんどんと小さくなっていくサイモンと、燃え盛る炎と飛び交う緑に光る灰。涙で潤うフロリアーノの目にはすべてがぼやけ、そしてあらゆる光が拡張しているように見えた。あと数十メートルで川に到着する。サイモンは美しい緑の星々が浮かぶ天を見つめると、
「こんなに美しい空を寝そべって、笑いながら見れたらよかったのになあ。じじい」
と言葉を漏らし、川に飛び込む直前でフロリアーノの方に体を向けた。右腕は完全に消え去り、左目を中心として顔全体に緑の液が広がろうとしていた。
「最後はお前を信じたかったんだ。それに今じじいと話したら死にたくなくなる」
「サイモン!」
「あばよ。兵器のない世界は、もう望まねえ」
サイモンはそう呟くと手と足を大の字に広げ目をつむった。そして左目から一滴涙を零すとそのまま後ろに倒れこんだ。
「サイモン!!!」
大きな水しぶきと共にサイモンの姿は見えなくなった。そしてサイモンが最後に流した涙は緑色に輝き、地面にぽつりと落ちた。
「あ……まさか」
フロリアーノは数時間前サイモンから聞いた事が脳裏によぎり、その瞬間にすさまじい音の地響きがその場を襲う。するとその直後川周辺の地面が割れ、信じがたいことにそこから緑色の液体が南東の空へと飛んで行ったのだ。

数分後  トレッフ王国・南東の地

「そうか。それが相棒の最後の言葉か……ありがとうな、敵さんにも関わらずわざわざ伝えてくれて。あいつの息子は俺らの船にいるから安心しろ」
フレディはフロリアーノから無線での報告を受けると、紺色の無線機を遠くへと投げ飛ばした。
「覚悟しろよホーク。お前さんだけは消さなければいけんようだな」
フレディは先ほどホークが逃げていった町の明かりを見据えると、何を思ったのか地面に右手を付け、足を空へと向けた。そう、フレディは突然片手で逆立ちをし始めたのだ。
はたから見たら不気味すぎるその光景だが、フレディは目をつむり
「ウルフ」
と一言。すると奇妙にもフレディの体から白い毛皮が生え始め、牙や爪が鋭くなっていき、人の面影一つものない白い狼へと姿を変えた。完全に獣の姿になるとフレディは鮮やかな純白の毛を風にたなびかせながら、四つん這いになり怖い目をぎらりと光らせると勢いよく駆け出した。
「ホーク!!」
燃え盛る荒野の中を一匹の狼が走り抜け、そのスピードは計り知れないものだった。

わずか数分でフレディは町の入口へと到着した。
「なに?狼!」
「なんでこの島にこんなのがいるんだ」
「うわっ!あぶねえな」
未だにお祭り騒ぎの南東の地では集まった避難民たちの間をすり抜けながらフレディは、ホークを探し出すために走り続けた。が、この広大な土地と人に紛れ込んだ敵を見つけ出すのは容易なことではなく、いつまでたってもホークの姿は見つからなかった。
「お前さん!ここら辺にでかいオレンジ色の髪の化け物はいなかったか?」
フレディは酒に酔った一人の男を見上げた。
「あん?狼が話したぁ?」
「そうだよ、早く教えろ!」
「俺も飲みすぎたかなぁ」
男は情けない声でそう呟くとフレディの問いかけを幻聴だと思い込み家の中へと戻っていった。
「あほんだら!」
フレディは途方のない捜索作業に天を仰いだ。その時だった。緑の液体がある場所めがけて空を飛んでいるのがわかった。
「まさか、サイモンの!」
フレディは迷うことなく、空に浮かぶ緑の流星を追いかけた。港とは違い町の中は雨が降っていない。フレディは雨でぬれた毛皮をぶるぶると振り落とすと、追いかけていた緑の流星は突然勢いを失い地面に落ちたことに気づいた。
「あそこか!」
フレディはさらにスピードを上げた。そしてとうとうホークの姿を視界に入れた。ホークは何とかそれを避けたらしいが、緑の液体はホークの目の前で落下しその周辺の家や地面、食料などすべてのものが溶け出していた。
「なんで、こんなところにバーサーク液が」
ホークは何かに狙われていることを察知したのか、くるりと回り今来た道を戻ろうとした。
「なに?!」
しかし、それは叶わなかった。白い狼が恐ろしい顔をしながらホーク目掛けて飛びついてきたのだ。
「狼だと?!」
ホークは両手に抱えた緑のカプセルをありったけフレディに投げつけるが、さすがの狼の身のこなしに全弾かわされてしまった。
「私とやりあうというのかね!私は五神だぞ!」
ホークは腰に巻いた拳銃をフレディに向けるが時すでに遅し。フレディの鋭利に光る右手の爪がついにホークの顔を捕らえたのだ。
「うわぁぁぁああああああ!」
ホークはあまりの激痛に拳銃を手から離し、後ろへ倒れこんだ。このチャンスを逃すまいとフレディはホークの巨体にのしかかり、
「三千年ぶりだな」
と、不敵な笑みを零した。
 
To be continued……  第50話・スノーボールアイランド
三千年ぶりだな。五神の一人と睨み合ったフレディが語るものとは…2023年12月17日(日)午後8時投稿予定!!次回こそ世紀大戦の最終話です。先の展開にも大きく繋がる第50話!是非是非ご覧くださいませ!


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