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六本木WAVE 昭和バブル期⑯

猫を預かった話  異次元の展開
 
 大きな波の過ぎ去った余韻にしばらくの間 
二人はシャワールームの中で濡れたまま抱き合っていた
心臓の鼓動が勢いよく鼓膜にも響くように
かつてないような興奮の余韻が覚めないままに…横たわっていた
 
私は少ししてからシャワールームを出てバスタオルを腰に巻いてベッドに横たわった
レイはシャワールームで 赤いキャミソールを脱いで全裸になりシャワーを浴びながら丁寧に身体を洗っていた

(喉が渇いた)

冷蔵庫の冷たいビールを出してグラスに注ぎ一気に飲みほした
レイがシャワールームから出て来た 胸を隠すようにタオルを巻いていた
上気した赤い頬で立ちすくんだまま 一瞬こちらをじっと見つめている
その目の中には 先ほどと変わらず 
炎の影がチラチラと見えるような気がした
 
(えっ!? 興奮はむしろ高まっているのか…)

そんなことをふと思った瞬間
 
「私もビール飲もうっと!」
 
いつもの悪戯っぽいレイに戻っている…少なくとも私は単純にそう思った
直ぐにグラスにビールをついで彼女に渡してあげた
喉を鳴らしながら美味しそうに飲んでいた
 
飲み終わったらすぐにベッドの私の横に添い寝してきた
甘えるように身体をくっつけて来た
 
「なんだか興奮しちゃったね!」

レイが囁くように言った
 
「うん 興奮した」

阿呆な鸚鵡返しの私 気の利いたセリフは出てこない
 
「マスクを見た時のあなたの顔(笑)」

レイは再び笑いながら仰向けになって身体を揺らしていた
私は淡い幸福感と満足感の中に浸っていた
 
沈黙の時が流れた…
 
突然レイは起き上がってすぐにいろいろな道具を置いていたテーブルに向った
そこから手枷(鎖が付いた黒いもの)を手に取り戻って来た
ベッドに寝ている私を見下ろしながら笑っていた
そこには無邪気な雰囲気はなかった
正直少し背中がぞっとした…
 
レイは私の両の手頸に黒い手枷をカチャンと嵌めた

私はまるでそうされるのを期待しているように(決してそんなことはないのだが)なすがままにされていた
そして、そのまま両の手を頭の方に持ち上げられ 手枷ごとベッドの頭部の手すりになっている隙間に鍵で固定された

鎖だけがガチャガチャと音を鳴らす
この間私もレイも無言であった
淡々と作業をこなすレイ

そして横たわっている私の真上から見下ろした目の中にさきほど一瞬見えたような炎をはっきりと確認した
大げさでなければ炎上している 本当に赤いものが見える
顔全体はいつものように美しく上気してはいるが
ただ別な人格になっている
そう感じた 

(レイ? 誰? レイちゃんなの?)
 
「…ここからがメインディッシュだね 楽しもうか 坊や」

真っ赤な口元 口角を上げながら冷たく覗き込むように見下ろし微笑むレイ
リアルな響きでそれが決して演技ではないと思った
声にディレイがかかっている 
(まさかあり得ない)
 
レイは踵を返すとそのまま手提げバックから黒いエナメルのボンデージスーツを取り出し、身体に巻いていたタオルを乱暴に投げ捨てて着替えだした
私の頭の方で手枷の鎖が再びカチャカチャと音を立てていた・・・

Smooth Operator – Sade


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