妾(しょう)になれなかった女
事実をそのまま書くと当たり障りがあるので、この話を恋愛に喩えよう。
私は異性愛者なので、相手を男性とし、平安時代のように男性が複数の妻や妾(しょう)を持つことが当たり前ということにする。
彼には嫡妻がいる。彼はことあるごとに妾を募集していた。それを数年前に知った私は早速応募した。どこぞのヒロインとは違い、私は北の方ではなく、妾で良いから傍に置いてほしいと思った。
ここで「けしからん」と思うなかれ。妾には妾にしかできないこともあるのだ。
彼は私を”妾リスト”に入れた。
それから何度か彼と会う機会があった。しかし、どうも彼は私を嫌っていると感じられる。本心ではないかもしれないが、彼はそのように振舞う。
自分で言うのも変だが、私は彼の期待に応えるべく妾として立派にやっていけると自負していた。たとえ一刻の逢瀬であっても、彼を満足させて嫡妻の元へ返せると思っていたが、彼が求める妾の在り方は違うらしい。
そしておそらく私は妾リストから外されたはずだ。
彼とは縁がなかった。
そんな彼が最近になって新たな嫡妻を探していると知る。死に別れたか、離縁したかそこはわからない。
彼への思慕はとっくに消えているが、彼に気に入られず妾にさえなれなかった女は、当然嫡妻になどなれるわけがない。
私はそこで悲しんでいるわけではないのだ。悔しいとか、寂しいとか、感傷的な気持ちはひとつもない。ただ、こんなにも結ばれない同士もあるのだと、改めて人の縁というものを想う。
むしろ、これは結ばれない方が良いという思し召しだ。
無理をして妾になったとして、まさかの嫡妻になったとして、多分私たちはうまくいかない。
とはいえ、彼のお眼鏡にかなう嫡妻が見つかれば良いなと思うし、それが末永く続くと良い。
妾になれなかった女に彼への思慕はもうないが、人としての愛だけは残っているようだ。
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