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嘘をつけない君へ

「俺、他人の機嫌を取れないんです。嘘つけないから顔に出たり、地雷踏んだり。ぶっちゃけ何が正解なんですかね。」

と相談してきたのは、いつも自信満々な後輩くんだった。去年、絶交レベルの大喧嘩をした私たちは、このひと言をキッカケに「メンター」と「相談者」になった。

相談をされたのは今年の秋の終わり。
11月末の、暖かい日差しと風の強さに驚く。
彼は私の後輩で、学部を超えて話す仲だ。
友達ぐるみでも遊ぶし、SNSでも話す。そんな中、私たちは数ヶ月前に「恋愛観」や「倫理観」について話して大喧嘩をしたのだった。

お互いの地雷を踏み抜くなんて経験、生きている限り経験することはないだろう…と思っていた。
彼の言葉を辛辣に練り返す私、私の物言いにいちいち突っかかる彼。

挙句の果てには帰る方向が一緒なので、ぶつかる度に「邪魔なんだけど」「は?仕方ないでしょ、荷物大きい先輩が悪いんだから」「は?」などと、子供じみた会話をし、、、

解散後。
かたや連絡の通知を切り、かたや、事あるごとに喧嘩をふっかける……しぶとく小競り合いを繰り広げた私たち。というか、コドモなのだ。

これは共通の友達からの後日談。
口を揃えて「あいつ何?ほんっと嫌いになった!もう会わないし、あんなに言うの酷い!」と言っていたらしい。そう教えて貰って、同レベルの喧嘩だ……とガックリ。という訳で反省し、仲直りをする運びとなったのである。

私たちは揃いも揃って、「筋金入りの負けず嫌い」「言われっぱなしは嫌い」なのだった。
こだわりも我も強い、「俺がナンバーワンだ」と口に出さずも目が物語っている。やれやれ。
さて、肝心の彼について少し。
彼の名前は慧という。

私たちの出会いは6年前。
友達連れで開催した忘年会で、テーブルの真ん中で黙々と食べている彼に、私から話しかけたのだった。後からお互いの『第一印象』について話したら、2人とも(この人、意外と人見知りじゃん?)と思ったらしい。

そこからだ、仲良くなったのは。

月日は流れ、2年前の飲み会にて。
隙あらば、「やーいやーい陰キャ!ぷぷぷーー」「あー先輩ってやっぱ人見知り治んないんですね。ほら目合わないじゃないですか。ほらほら」などと茶化す慧くん。ぐっ……と詰まる私。
そうだ、この人はいったん打ち解けたら、息継ぎも惜しいくらいによく話す人だった。

「スーツに分厚い資格のテキスト」という、
飄々ちゃらり、とした言動に反する出で立ち。
イラつきつつも笑いを堪えきれない私。
ああ、これはちょっと悔しい。
「人によっては悪口になるんだからね。口は災いの元って言うでしょ!」と私が返す。はーい、ともう聞いていない慧くん。イライラの火花は、
小さめのがよく散っている。

一緒に居ると、お互いの間の
年齢・学業・仕事・交友関係……みたいな
数々の「違い」が、不思議と
気にならなくなる友達がいる。
彼は、まず間違いなくその部類だ。


いつ会ってもフラットで、気さくに話題を振ってくれる。表情がコロコロ変わる上に、ひととおり楽しく騒いだり凹んだりして、満足してケロッとしている。赤ちゃんがご飯を食べて、お腹いっぱいで寝る姿を連想した。

慧くんは、文字通り「分かりやすい」。
喜怒哀楽をその場で発散する。
喜ぶ時は、周りも巻き込んで喜んじゃう。
あーーー俺って幸せ!✨
(そしてそれを口に出す)ところがある。
また、彼の怒りは大抵の場合、尾を引かない。
怒りを感じれば会って話す方が早いし、
話して納得したら終わりなのだ。
後でグチグチ言う必要性を感じない。明快。
それでいて、人懐っこさとエネルギーは
変わらない。誘われたらすぐに行くし、
誘われること自体をとても嬉しがる。
「気持ちを言葉にすること」に対して
私が感じるハードルを、やすやすと彼は
超えてしまうのだった。そして何より、
出来ないことを「出来ません」と言える。
言語化を出来るのは才能だと思うし、
とても尊敬する。

彼の人気や、周りが賑やかな理由は、
そういったところにあるのだろう。
そんな人気者の彼が、人付き合いに悩むなんて
あるのかな?というか、悩みとかあるんだ。

そして話は戻り、今日。
慧くん本人はというと、ソファに深く腰かけて、念願の「一人暮らし再開と家族からの解放の自由」を嬉々として語っている。彼の話す様子は「エネルギッシュ」そのもの。よく、猫が遊ぶ時興奮気味にシャカシャカ動くのをイメージした。

待ち合わせした時は「その歳で迷子って方向音痴ですか?何年ここに住んでるんですか笑」「ほら段差ですよーまた転ばないでくださいね、起こすの僕なんで」などと、軽口を叩いており。

(この子は敬語を使っていても、絶っっ対に敬語のノリじゃないよな……)と思う私だった。この爽やかさというか軽さは、「チャラい」「雑な人」と見られることもある。私も苦手なタイプだった。

「……で、俺って意外と几帳面なんだって分かったんです。ドライヤーとかフライパンは同じ場所に同じ順番でって決めてるし。」と彼は続ける。
元カノの話だ。

「友達とか女の子も家に呼んだら、本人が使ったブラシの置きっぱなしとか、電気のつけっぱなしとかで無理になるんです。初めてとか数回はまあいいや、直すだろって黙っとくんですけど。」とどんどん最近のエピソードを投げてくる。
ちょ、速い速い。

「それこそ言えばいいのに。普段のあなただったらそうしてるでしょ?」と私が聞くと、「はい。てことは、俺がそこまで好きになりきれなかったんですかね?」と彼。それを私に聞くのか?
お互い、はてなマークが浮かんでしまった。

「あ!あと友達を家に呼んで警察呼ばれちゃったんです笑 俺は場所まで用意して、マジ何やってんだよーって感じですけど。友達は悪いやつじゃないし、なんか楽しくなっちゃって」「俺基本的にワイワイしてる中に居るの好きなんですよね」と、友達の話。

け、警察?危なっかしいな……と私。
彼は他の人が聞いたらえ?と思うような、
あるいは誰もが怯むような事にこそ、我こそはと挑戦してゆく。無謀か否か……
いわゆる「やらかす事は大きくても何か許せちゃうヤツ」ポジションにいるのだ。

いつの間に、元カノから友達の話に……
慧くんのテンションが上がるにつれ、
彼のつけている香水がうっすらと香ってくる。
(へえ、ウッディな香りとか選ぶんだな、意外)と
話を聞きつつも、以前の彼の大人しさを
今と比較する私。
もしやあれ、猫かぶってた?

人混みでも難なく見つかる後ろ姿。
スラリとした体格に合わせているのは、彼がお気に入りと豪語するブランドの真っ黒なヴィンテージコート。まるで「それを着て生まれた」みたいに馴染んだマットで上質な黒色は、彼がインナーに着るハイネックシャツの白色を引き立てている。お見事。

そんな私をそっちのけで慧くんは話す。
「可愛くない子のことを可愛いって言えないし。でも、好きって言ってくれる人を喜ばせたいって気持ちはあるんです。それで満足してるし」
「接客向いてないってことなんですかね??てかやればできる子ですよ、俺」
「先輩みたいに割り切れたら楽ですよね」
と、凹んでるのか興奮してるのか、不明なトーンで慧くんは話し続ける。

彼なりに、人付き合いに悩んでいるらしい。

そう、これが冒頭の話なのだ。
「好きなものを好き」「嫌いなものは嫌い」と、両極端な彼が「嘘をつけない」ことで悩むのは、ごく自然な流れに感じる。
彼にとって、「その場で本音を明かさないこと」が、何よりも息苦しく感じるのではないか。

さてさて、どこから手をつけようか。

慧くんの「楽しいこと」「好きなこと」に対する『着火力・発信力』は目を見張るものがある。
○○が好き!となった途端、脇目もふらずゲットしにいく勢いだ。この行動パターンは、彼の主な人付き合いや仕事場でのふるまい、家族の間でのやり取りにも当てはまることだ。

私はジントニックを片手に、
彼の特徴をリストアップしてゆく。
無駄な駆け引きをしない。
率直に褒めるし、時にダメ出しもする。
自分の言動が思考と一致・直結している。
動けない時は動かない。というか、
そうじゃないとキモチワルイ……などなど。
「確かにそうです、皆そうだと思ってた。」
と慧くん。
「え、これ俺の自己紹介ですか?笑」だって。
彼はムードメーカーであり、問題児にもなる。
『花火』や『台風の目』のように、ドカーン!!と爆発したあと、本人は「え?何のこと?
(自分の中ではもう終わっている)」だけど、
周りがオロオロするような人。
という事よ、と説明する私。
彼は神妙な顔で顎を両手で挟み、黙っている。
だんだん分かってきたみたいだ。

さらに噛み砕く。私は続ける。
「○○に怒った→→謝って納得した→→→
『本人の中では済んだこと(気にしていない)』
なのね。あなた。反対に、
テンポよくやり取りが出来ずに長いあいだ
返事を待たされたり、イエスともノーとも
つかない返しをされたりすると
『はあ?』『どゆこと?』となるんじゃない?」ぽつりと彼は呟く。
思い当たる節がある、と。

彼は理解はしている。飲み込みが早いのも良い。おおよその筋が掴めるやいなや、「でも、そんなグレーゾーンって何ですか?大体のことはYESかNOしかないでしょ」「本音を言えないなんて寂しいです」などと言ってのける。つくづく、自分の気持ちに嘘をつけないというか……

「判断する早さは速くても、よ。決めつけるような言い方をするのは、お互い良い気持ちしないでしょう?」と私。まあ確かに、と彼。
への字に結んだ口がモゴモゴしている。
少しばかり混乱してきたようだ。
私はオモシロイと思ってしまう。当たり前だが、応援している気持ちで。

「嘘をつかない」人は「正直で信頼できる人」
という印象を周りに与える。
ただし、それと「常に必ず思ったままを言う」
こととは、イコールでも最善でもない。
つまりは「伝えることが明確」な彼にとって、
次の問題は「伝え方をどうするか」という
アウトプットなのだ。
大事な人にプレゼントは用意したから、
あとはラッピングして渡すだけ!
みたいな、あの気持ち。
心地よい緊張感だ。


詳細で柔らかい説明の方が心地よいと言う人も、よく考えてから行動する人も、もちろん居る。
その中で、ひとりひとりが生まれ持っている
「ナラティヴ(*この時は一般常識・考えの枠組みを差す)」の違いそのものを認識すること。
「自分の思いが100%そのまま伝わることはまず無い」と認めるところから……
といったところか。

彼と私が大喧嘩した始まりは、彼が、ズバリと
その点を指摘した私に食ってかかったからだった。まあ彼らしいリアクションである。その時の気持ちも含め、オブラートに包まずに話すと理解してくれた。ほっと胸を撫で下ろす。

「いいものを良いと言う」「思ったら行動する」「嫌なものは断る」と、好き嫌いや行動のコマンドがテキパキと機能する彼。見ていて気持ちいいし、私にとっては羨ましいと思う。

ただし人によっては「ズケズケと言う怖い人」「粗雑なふるまいを肯定する人」「話す前に手が出そうな喧嘩っ早い人」と映りかねないな、などと思った。受け取り方は人の数だけある。

逆に、慧くんから見た私は「人に合わせて自分の意見が無い人」「何が1番好きか分かりにくい人」に映るらしい。「裏表がありそうで不気味」と。ミステリアスというか、気難しいというか、、、自分でも自覚していただけに、ははは……と変な汗をかいてしまう。

「「ほんとはそこまで(俺は)(誰も)深く考えてないんだけどね」」と、不覚にもハモった。笑
互いに目を見合わせる。「僕たち一緒ですね!」と、ハイタッチの手が伸びてきた。

考えるけどアウトプットが下手な私と、
考えるより行動に移す方が早い!と思う彼とは
天と地、真逆も真逆なのである。裏の裏は表だ、とも言うので、むしろ似ているのかも。

「ぶっちゃけ何が、てか誰が1番大事なんですか?てかセンパイにそういうのあるんですか」と、
私が思っていたことを見透かすように言う。
(一言多いんだけど勘は良いんだよね君は……)
慧くんは良くも悪くもピュアで、己のあるがままに生きたい人だ。

彼の場合、嫌だと思ったら表情を取り繕っても
無駄なことを自覚しているらしい。「だから俺、デートして付き合うってなっても、1度うわムリってなるとダメなんですってば!もうやだーー!」と彼。「まあまあ、相手との兼ね合いもあるし」
と私は宥める。

「もう少し相手と向き合える時間と余裕があればいいの?」と私。「いや、その人との将来考えたら別れた方が良いってなるんです」とスッパリ言い切る彼。「でも悩むってことは、そこに向き合えてるという事だね」と私。「でしょ!」と彼。

私は思い出したように、「そういえば真剣に色々話している時の方が表情が生き生きして良いよね」と伝えた。慧くんが秒で食いつく。

彼いわく、そのままツンとしていると「怖い」「怒ってる?」と言われるらしい。
本人はただ別のことを考えているだけ、と。
そう言われるのを「語弊も甚だしいです😠😠😠ムカつく」とシンプルにおこ。だから口角を上げたり、笑顔の練習をしたりするらしい。

そういうところも含めて、plain(素朴)かつ素直だと感じる。とてもチャーミングだ。

「まあ、何もしてないのに怖いとか言ってくる人はその時点で距離置けば良いしね。」と言う私に、「😆😆ですよね!俺悪くないもん😠」と
握手を求める慧くん。体が瞬時に動いてるなあ。
さっきから気のせいか、顔文字が見えるよ……

例のコートで熱弁した彼を思い出し、
彼のスタイルの「強さ」「こだわり」「自信」に感動したのを思い出した。意識的に頑張っているからこその、堂々とした態度なのだろう。
何かを手に入れた時や買った時、
旅行が楽しかった時など、コレ!という
お気に入りの「何か」への「愛」を語る
熱量に関して彼は才能を持っている。
その「愛着」が「波」となって、自然と
周りへ伝わってゆくからだ。
とことん無自覚なインフルエンサー。
いや、無自覚だからこそ影響力を持つのか。


同日、待ち合わせ前の彼を観察していた。
音楽を聴きつつソワソワ、キョロキョロ。
髪を直すついでに、建物に反射した自分をチェック。メッセージでは「○○ですよ分かります?」「改札前です」「どこですか」とポンポン来る。

今日は何やら彼の機嫌が良さそうだ。
と思ったのは、私を見つけて早足で向かってくる彼の雰囲気から。カツカツと音を立てて履いているのは、ピカピカに磨かれた黒の革靴。

どうやら、機嫌が良い理由のひとつらしい。
コーディネート満点だね!!と言いたいところだけど、「でしょでしょー流石俺ですよね」「やっぱり俺黒似合いますよね」が止まらなくなるのでやめておく。

「俺はこれが好きだ」「これカッコいいんだよ。ほら見て!🥳」「俺ってけっこうイケてるな😆」と思っている(らしい)のは言うまでもなく。
というか、後から胸焼けするほど聞かされた。

だから、「愛を伝えることにおいて、君の右に出る者は居ないね」と言ったら「ん?それ褒めてるんですか?まあね!俺すごいし😆✨ふふん」と
返ってくる。

慧くんはというと、つい今しがたまで悩んでいたのが(悩んでいたのか?)嘘のように、晴れ晴れとした顔でレモンサワーを飲んでいる。
レモンサワーには美学とこだわりがあるらしい。

彼のいい所はたくさん書き綴ったが、その中でも教えられたことを素直に受け止め、理解する姿勢はピカイチだ。周りが歩みを止める中、良い影響をどんどん吸収して、気づけば誰もたどり着けない場所に飛んでいっている。
ばびゅーん!という感じ。ロケット。🚀

これから壁も夢も制覇して、
ますます強くなっていくであろう彼。
その生き様は、油絵を塗り重ねた先に味が出て
醸し出される、唯一無二の美しさのようだ。
彼のスタイル、彼のポリシー。
誰にも邪魔されず、真似できない。
1着の「服」から「コレクション」を創り出す
そんなスタートの序章を目の当たりにした。
弱さや苦手分野も、全て。
君の手で自信に、エネルギーにしてしまえ。
それが出来る君だからこそ。
全てが完璧と言わずとも、必ずや
良い方向に発揮されることを祈ってやまない。
嘘をつけない君へ、迷いのないエールを。

改札前でブンブン手を振りながら
「また会いましょうね!」と彼。
君のさよならは、いつでも本気の
「また会おうよ!」なんだよね。
楽しい時間をありがとう。
また会う日まで。

おわり。

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眠れない夜に

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