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未来 湊かなえ

「汚い物を抱えて生まれて来る人間なんていない」

湊かなえさんのデビュー作『告白』から10年経った
2018年にこの作品は書き下ろし長編作品として
単行本で発表されました。

著者の湊かなえさんは10代の頃に生きづらさを感じて
未来の自分に向けて手紙を書いていたそうです。
この小説はそのことがきっかけだとか。

そして表紙の装丁は卒業アルバムをイメージしており
「未来」という字は書道家の武田双雲さんです。

【あらすじ】
主人公章子は父が病死し精神が不安定な母と暮らす小学4年生。
ある日、自宅に消印のない封書が章子宛てに届く。
送り人は20年後の章子。

信じられない気持ちのまま読み進めていくと
他人では知ることができない内容が綴られている。
父の字でもなく、母は書けない。
一体誰?
本当に20年後の私なの?

章子は「大人の章子へ」と手紙を綴ります。
日々のことを綴る手紙には、
父のこと、母のこと、クラスメイトからの心無い仕打ち。

生徒の話を平等に聞いてくれる担任は
理由もわからず3学期になる前に退職してしまった。
やっと自分の話を聞いてくれる担任が現れるが
担任は母に好意を持ち、気持ちがエスカレートしてしまう。

中学2年から章子は不登校になる。
そこに至るまでには、度を超えた実里のイジメと
担任の心無い行動があった。
母と一緒に暮らす男、早坂に知られないように
押し入れで息をひそめる章子。
外に出てみようと思う、きっかけを作ってくれたのは
意外にも苦手な元クラスメイトの亜里沙だった。

章子から見ると、何不自由ない暮らしをしている
亜里沙だったが、亜里沙にも人に言えない
闇を抱えていた。

亜里沙はある決意をする。
自分がこれ以上、大人たちに振り回されないように
憎しみを形にするように…。
計画を章子に話すと、章子は父との約束である
母を守るために亜里沙と共に計画を実行する。
そして2人が向かった先は、夢の国「ドリームランド」だった。

【感想】
辛く重苦しい小説です。
何度も途中で読むのを辞めようかと思いましたが、
最後まで読んでしまったのは、
著者の文章と構成の巧みさと自分も似た境遇の
登場人物がいたからです。

人は生きるために多かれ少なかれ
誰にも言えない闇を抱える。
そのままにしておくと、大きくなってしまう闇を
どうするのか…。

主人公の章子は書くことで気持ちを整理していきます。
日記ではなく「手紙」という形態で。

小学校から中学校に上がる中で
章子は闇を抱えているのは自分だけでないことに気づきます。
そして、全てではなくても
共有できる部分は自己開示していきます。

「人に伝える」「大人に助けを求める」
本当に困った時は、自分で抱え込むのではなく、
信頼できる(ここがミソ)周りの人や子どもなら大人に
助けを求めることが、大切なんだ…。
ということを読み取りました。

虐待、DV、スクールカースト、不登校、いじめ
今、現実に子どもに起こっていることが
主題となっています。

幸せって何?
両親が揃っていること?
家がお金持ちなこと?
勉強ができること?

私は幸せ?
私の子ども達は幸せって思っているのだろうか?

いろいろなことを考えましたが
私は作中のフレーズで自分が生まれてきた理由に納得ができて
救われました。

あとがきには著者のこの小説で伝えたかったことが
書いてあります。
ぜひあとがきまで読んでくださいね。

481ページ
双葉文庫
2021年8月8日初版
780円(本体価格)
電子書籍あり


著者 湊かなえ
1973年広島県生まれ。
2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。
08年同作品を収録したデビュー作『告白』は「週刊文春08年ミステリーベスト10」で第1位、第6回本屋大賞を受賞。
また14年には、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレックス賞に選ばれた。
12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編部門)を、
16年『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞。
18年『贖罪』がエドガー賞〈ペーパーバック・オリジナル部門〉にノミネートされた。

著書
『少女』
『Nのために』
『夜行観覧車』
『母性』
『望郷』
『高校入試』
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』
『ブロードキャスト』
エッセイ集『山猫珈琲』などがある。

最後まで読んで頂きありがとうございます🍀

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