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試行錯誤の一年【コーチングログ#11】U-8コーチ、2021/22シーズン総括

2021/22シーズンからPontyprid Town AFC Academyが発足しました。私はアカデミーのU-8の年代を日本人のコーチと一緒に担当しました。今回は今シーズンのU-8での活動や取り組みを振り返ってまとめていきたいと思います。

プレシーズン〜シーズン序盤

少人数でのスタート

まず、アカデミー発足初年度ということも影響してU-8は選手が少人数でのスタートとなりました。プレシーズンではU-9と合同でプレイして試合を行うことができましたが、シーズンが始まるとU-8の選手だけでスカッドを構成しなければいけないので、少ない人数でできる練習を工夫して行ったり、試合での選手たちのスタミナ管理など難しさがありました。U-8は5人制で試合が行われますが、サブが1人や2人だけということも珍しくなく複数試合をこなすと体力的にも厳しことが多かったです。

ウォーミングアップ

去年がロックダウンでほぼほぼサッカーができなかったことや外での活動が制限されたこともあって、例年に比べて選手たちのボディーコーディネーション(身体操作)や身体能力の低さが目立ったので、様々な動きを取り入れたウォーミングアップを行ってきました。

ボールもつかいながら様々な動きができるサーキットトレーニングをウォーミングアップで行うことがシーズン後半は増えました。

またクラブの一貫の取り組みとして『Welsh Way Moves』と呼ばれるドリブルの動きをウォーミングアップでは週に1回行ってきました。シーズンの始めと終わり頃では比べ物にならないくらい選手たちのドリブル技術が向上していましたし、ボール感覚も養うことができたと思います。

🏴󠁧󠁢󠁷󠁬󠁳󠁿WELSH WAY MOVES ⚽️ Here's the third of 11 moves we'll be posting in the coming weeks. 3⃣ THE STOP TURN 📹 Master...

Posted by FAW Trust on Sunday, March 29, 2020

また、プレシーズンではパスやドリブルといった基礎技術を真面目に教えていたのですが、選手たちの集中が続かない現象が起きていました。ですので、コーチと話し合って基礎技術を高める練習に『楽しさ』を加えてやろうと決めて練習に反映させてからは選手たちの基礎技術の習得が一気に加速しました。この年代では「如何に選手たちが能動的にサッカーに打ち込めるか」や「選手が真剣に楽しくプレイする環境作り」が大切かを気付かせてくれました。ただパス練習をするのではなく、そこにゲーム要素を取り入れることで選手たちの集中力の持続性が大きく変わってきました。


シーズン中盤〜シーズン終了

新加入選手

12月にトライアルがあり、とても将来有望な選手たちが入ってきてくれました。そして、人数も11人に増えて2チーム作ることが可能になったので、練習で紅白戦を行うことができるようになりました(ウェールズではU-8は5人制で試合が行われます)。

U-8は5人制で試合をします(たまに6人制)。

やはり人数が増えると練習のバリエーションも増やすことができますし、チーム内でも競争の意識が生まれてきます。新たな選手たちが入ってきたことはチームの底上げにも繋がりました。やはり日頃から良い相手と練習することができれば自然と相手に追い付き、追い越そうとするので、その競争意識ぎ結果的にチームの底上げにも繋がりました。

1vs1に拘ったシーズン後半

コーチと話し合って12月から1vs1や2vs2の局面でのトレーニングを増やして選手の競争意識を高めるとともに、デュエル(球際)で勝つことや強い圧力(プレッシャー)に対してかわすことができるスキルを身に付けることを目標に取り組んでいきました。U-8では5人制なので1人剥がすことが大きなチャンスに繋がりますし、逆に1vs1で勝てないとゲームが厳しくなります。そういった観点からも目的を持ってセッションを構成することができたのは良かったと思います。興味深いことにボールを持てる余裕(1vs1で勝てるという自信)を持てると顔が上がり、周囲の状況を認知してパスも回るようになるという現象が起こりました。この向上は練習の取り組みの嬉しい副反応でした。

1vs1の練習メニューの一部。1つのミニゴールと2つのゲートゴールを作り、1vs1の中に駆け引き要素も入れた練習メニューです。


ライフスキル

やはり育成年代では切って切り離せないのがライフスキルの向上です。サッカーコーチはサッカーだけ教えれば良いという訳ではありません。実際に私が今指導しているU-8の選手たちの中で何人が将来プロサッカー選手としてお金を稼ぐことができるでしょうか?

ほとんどの選手が、あるいは全員がプロにならない確率の方が高いと思います。ですので、1人の人として成長させてあげることも大事なことになります。ライフスキルはシーズンを通して常々私達コーチが選手たちに訴えかけてきました。人の話を聞く、あいさつをする、悪いことをしてしまったら謝るなど、もちろんこの他にも沢山の人として大事なことがありますが、U-8の選手たちにはサッカーの技術だけでなくライフスキルも身につけていって人としても成長が感じられました。

練習開始と終了時にはコーチと選手全員がグーパンチをして挨拶をします。選手たちは練習前には自分の飲み物をピッチの近くに持ってきてもらい、なるべく練習時間を無駄にしないようにしました。練習後には選手全員が後片付けをします。この片付けの際にはボールマン(ボールをボールバッグに入れる係)の役割を与えることでその選手が積極的に片付けを率先してくれました。また日替わりでチームキャプテンを作ることでリーダーシップを発揮出来る機会を設けるなど、ソーシャルスキルも身についていくような取り組みをしていました。

ボール、ビブス、マーカーなどはみんなで片付けます。

IDP(Individual Development Plan)

アカデミーではIDPと呼ばれる『個人の成長プログラム』を定期的に行っています。今シーズンはクリスマスブレークに1回、そしてシーズン終了後に1回の計2回行いました。コーチが選手1人一人の特長や苦手な部分を技術面、戦術面、フィジカル面、ソーシャル面、心理面の5つの視点から評価して、現状の選手の実力を視覚化し、「今後どうやってその選手を伸ばしていくか」や「どこの部分を強調して力を注いでいくか」という育成方針を策定していきました。

クリスマスブレークではこのIDPを基に選手/選手の親御さんとレビューを行いました。私達コーチがどのように選手を評価していて、今後どうやって育てていくかを選手/選手の親御さんと共有することができました。またそのレビューで選手や親御さんから見て、自分自身/自分の子どもの成長をどう認識しているかという意見交換をすることができました。更には私達のコーチングをどう評価しているかのフィードバックを頂ける貴重な機会であり、とても有意義なレビューになりました。

簡単なIDPを作成して今後どのように選手の力を引き伸ばすかを親御さんと共有しました。


総括

シーズン序盤は選手が揃っていなかったこともあって、試合に勝つことができませんでしたが徐々に個々のスキルが伸びてきて、最終的にはリーグ内で4、5番手くらいの力を持ったチームまで成長することができました。選手1人一人の成長も著しく、シーズン序盤ではインサイドキックすらまともに蹴れずにベンチだった選手がシーズン終盤ではレギュラーを獲得しました。最近の試合では誰を先発で起用するか悩むことができるくらいまで選手たちが力を伸ばして、チーム内に良い競争が生まれています。来シーズンはCardiffやSwanseaに引き抜かれるかもしれないくらい力を持った選手も出てきましたし、チーム/個人の成長という面ではとても充実したシーズンでした。

私自身コーチとしてもコーチングを通じて学ぶことが非常に多く、どうやって選手が成長していくのかという過程を見ることができたことは今後のコーチングの大きな利点だと思います。どうしても若い年代の練習では練習のバリエーションが求められるので、沢山の練習メニューを考え多くの引き出しを持つことができました。また、試合中の指示であったり、練習中にいつ、何を、どうやって伝えるかということを意識付けすることができました。

今シーズンはトップチームがウェールズリーグ1部昇格を決めて、来シーズンは更にトップリーグに所属するクラブのアカデミーということでクラブのブランドも上がり、多くの選手たちが加入してきそうなので、より高いレベルでのサッカーになると思います。また、アカデミーとしてもフィジカルトレーニングや分析セッションなど練習だけでなく、多岐面に渡って力を入れていく方針らしいので、選手やコーチにとってサッカーをする素晴らしい環境が整っています。まだ来シーズンにどの年代を担当するかは決まっていませんが、今から来シーズンのコーチングがとても楽しみです。

もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。