見出し画像

「24分のX」・・・14 「近づいて来る者」連続超ショートストーリー


「退職というのも選択肢にあるよ」

そう言って来たのは、人事部の同期、松野駿だった。

あの松野駿に辞令を渡されるなんて、
なんだか情けない気持ちになる。

入社当時から彼の評判は良くない。
遊び好きで女に手の速い男。常に女をいやらしい目で見つめていて、
社の内外に愛人がいるという話だ。
そんな噂のある男が人事部なんだから、
この会社本当に人を見る目がないよ。

彼は塚田課長との不倫の一件だけでなく、私の過去の彼氏とのことも知っているみたいだ。
元カレを全員知っているなんて、私のことをどれだけ調べたのかしら。

松野駿は、マニュアル通りの勧告をしてから、ぽつりと言った。

「この先は会社には居ずらいだろうから、何だったら俺が面倒を見てやるぜ」

「馬鹿にしてるの?」

「え、そんなことないよ。本当に君のことを心配してるんだ。」

「心配? へえ。そうなんだ」

『私のことなんてどうだっていいくせに』

松野の言葉に怒りを隠し切れなかった。

「私のこと面倒見るってどういう意味? 心配して大切にするとでも言いたいの? 私の人生を救って恩を着せて、その次は何をしようって言うの?」

「そんな・・・」

松野は言葉を詰まらせた。

「でも、君がここに居づらいってのは事実だろ?周りの目もあるし…」

「周りの目なんてどうでもいい。私の人生を他人がどう思おうと知ったことじゃないわ。あんた、どうせ体が目的なんでしょ?
あんたのやってきた事は知ってるわよ。
あんた、お為ごかしは大得意じゃないの。
辞めたくないなら言う事を聞けって顔に書いてあるわよ」

ああ。案てことを言うんだ。
私は本当に嫌な奴だ。
嫌な言葉が口をついて次々と出てくる。ああ。もう誰か止めて!

美晴は心の中に後悔を積み重ねていった。

               つづく


#短編 #ショート #連続小説 #不思議 #謎 #24分のX #女性 #会社員 #彼氏 #恋愛 #結婚 #メール #秘密 #不倫 #修羅場 #課長 #親友 #退職 #人事部 #勧告

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。