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「夜の女子高生」・・・怪談の終わりに起こった事とは。


久しぶりに、古い友人の、健人と悠太を誘って飲んだ。
悠太は大工見習。
健人は今、音楽家の夢を追いながらタクシーの運転手をしているという。

「それなら是非聞きたい事がある」

ここぞとばかりに健人に話題を振った。

「幽霊を乗せた事はあるか?」

嫌そうな顔をする悠太を見ると、余りに直球過ぎる質問だったか
と思ったが、健人は笑いながら答えてくれた。

「無いとは言えない」

俺は身を乗り出して聞き耳を立てた。

「あれは、都内から横浜まで客を乗せた帰りだったかな。
確か夜中の2時過ぎだった。
本牧ふ頭の近くの細い道を走っていると、街灯の下に女子高生が立っているんだ。こんな夜中にどうしたんだろうって気にはなったんだけど、
タクシーって営業エリアが決まっているから
迂闊に客を拾う訳に行かないんだ。
だから、無視して通り過ぎたんだけど、
その女子高生の横を通る時に、俺、気づいちゃったんだよね」

「何を?」

健人は一息ついてから続けた。

「その女子高生、頭から水を浴びたみたいに、びしょ濡れなんだ。
長い髪も紺のセーラー服も、足元まで濡れた」

「幽霊だな。間違いない」

俺は確信を持った。

「そうだ。俺もそんな定番の怪談は聞いたことがあるけど、
本当に体験するとは思わなかった」

「で、どうしたんだ。戻って乗せたのか」

「よせやい。乗せてたらシートがぐっしょりって奴だぜ、そのまま通り過ぎたさ。
ところがよ、しばらくしたら、又立ってるんだ、その女子高生。
同じ紺のセーラー服、長い髪。やっぱり体中濡れネズミだ」

「そのパターンか、何度も現れる奴だ」

「そう。だけどな、今度は少し違っていたんだ」

「何が」

「髪が光の加減か少し赤茶色く見えるんだ」

「髪?」

「そうだ。俺は見間違いかなとも思ったが、余りにも違いすぎるから
間違いじゃない。それから少し走ると、又立ってるんだ。
ところが今度は、スカートが少し長くなっていた」

「スカートが長い?」

「ああ。前は膝が見えていたが、今度はくるぶし当たりまである」

「ふんふん」

「別人か?と驚いたが、髪の間から見える顔は同じなんだ。
少し物悲しそうな白い顔で、何かを恨んでいるようにも見える」

「恨みを持つから幽霊になるんだろうな」

「そうかもしれない。俺はちょっと怖くなったから、アクセル踏んで
その横を通り過ぎた。次の角を曲がると、その先に又立ってるんだ。
長い髪に、長いスカート。おまけに手に何か持っている。
近づくにつれて、それが何か分かった。
木刀だ。
幽霊は俺の方に目を向けて、睨みつけている。
白い顔は、どぎつい化粧で塗りたくられ、
赤い唇がゆがんで噛みしめた歯が覗き、
顎を突き出した顔から邪気を秘めた目が鈍く見下ろしている」

「スケ番かよ!」

健人はニヤニヤと笑ってサワーを飲み干した。

「あ、お代わりください、同じ奴」

やられた。真剣に聞いていた俺が馬鹿だった。健人って昔からこういう奴なんだ。

「レモンサワー一丁、ありがとございやす」

店員さんに空いたジョッキを渡した健人が、俺たちの方を向き直ると
隣で大人しくしていた悠太が声を震わせて呟いた。

「やっぱり、スケ番でも幽霊になるんだな。
ヤンキーの幽霊がいても不思議はないよ。
憐みや悲しみを抱えてるんだから、
幽霊になって、メンチを切り続けてるんだよな・・・」

俺と健人は顔を見合わせると両手を伸ばして悠太の脇の下を
思いっきりくすぐった。

「パカ、バカ、パカ、バカバカ~何すんだよ」

ヤンキーのクラクションのような悠太の悲鳴が居酒屋中に響いた。

          おわり


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