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(書評) 人生の先輩の、いぶし銀の輝き---『過疎の山里にいる普通なのに普通じゃない すごい90代』『80代で見つけた 生きる幸せ』


この2冊は高齢の身内にプレゼントするために買ったのだけど、パラパラ読んでいるうちに私のほうが引き込まれてしまった。「80だの90だの、まだまだ先で実感が湧かない」人が多いと思う。でも例外なく誰もがいずれその年代になる。高齢者といっても様々な人がいるのに、老害という浅薄な言葉で括りたがる今の時代にこそ、若い世代にも読んでほしい2冊。

上の絵は、平凡な農家の主婦が76歳から自己流で絵を描き始め、80歳で初の個展を開き、101歳で亡くなるまで1600点以上の絵を描き続けた、アメリカの国民的画家グランマ・モーゼスの作品から(出典)

★『過疎の山里にいる普通なのに普通じゃない すごい90代』
池谷 啓  (すばる舎)

注:この記事に使っている画像は全てイメージです


地方の過疎化が止まらない。都会でも少子化が進む今、地方では子供がいなくて小中学校が廃校になったり、高齢者ばかりの「限界集落」も多い。仕事がないため若者は都会に出て行き、移住者を募るにしても最低限の教育や医療環境が無いと、若いファミリーを呼ぶのは難しい。

この本は、東京暮らしに嫌気がさして静岡県浜松市天竜区春野町に移住した著者が出逢った、地元の80、90代の高齢者の生活と人生のルポルタージュ。
春野町は東京23区の4割もの広さに人口が3500人。過疎化が激しく、住人はほぼ高齢者だ。


しかし元気な高齢者が多く、農業、林業、商店主、和紙職人、鍛冶屋…現役で働いている人が多い。仕事をしてなくても、山奥のポツンと一軒家で身の回りのことは全部自分でする、自給自足的な一人暮らしをしていたり。
元気といっても年齢相応に病気や故障を抱える人が多く、決して「どこも悪くないわけではない」が、山里暮らしで心身を鍛えられている人が多い。

著者はそんなお年寄りたちの地に足のついた自然体の生き方に惹かれて、親しく通って話を聴くようになり、彼らの人生や生活の様子を本にまとめた。


たとえば95歳(本の掲載時)の宮脇眞一さんは、90年以上の人生を働き通しで生きてきた。畑仕事、木工、機械修理、お茶栽培からバスの運転、神職まで「何でもできる」鉄人だ。というより山里暮らしは自分で何でもしないとやっていけない。若い頃から昼も夜も働きづめの人生だ。


井戸で水を汲み、薪を割る。古文書が読める。8歳から書き始めた日記を1日も欠かさずにつけている。老人会を始め地域のために奮闘し、8歳年上の認知症の妻を自宅で8年間献身的に介護して看取る…。
それでいて「あれもこれも出来る」「こんなこともやった」と自慢するような所は全く無く、恬淡としている。

この本に出てくる方々に共通しているのは「どうだ凄いだろう」的な所が無いこと。自分で出来ることは自分でする。人の役に立てれば嬉しい。

「子どもたちも独立して、妻も亡くなって、ずっとひとり暮らしだ。食事作りも掃除も、家事は何だって自分でやる。ひとり暮らしは不便なこともあるが、気楽でいいもんだ。体が動けるうちは、できるだけこの家で暮らすんだ」


99歳の尾上せき子さんは、集落で唯一の小さな商店の店主。コンビニもスーパーも無い集落の重要な店であり、地域の人との交流の場でもある。
尾上さんは仕入れ、接客、販売、レジ打ちまで全て一人でする。注文はファクスに書いて業者に送る。70年以上前から小さな店を守ってきた。

現在は都会からUターンした長男と一緒に暮らすが、食事作りも洗濯も自分でできることは自分でする。畑で野菜を作り、毎日草取りもする。
人の役に立つこと、人が来てくれること、人が元気になってくれることが願いで、100歳を超えても店を続けるつもりだ。(追記:最近見たmookに、100歳になった尾上さんが店を続けている様子が出ていました)

80代以上の元気な高齢者を取り上げた企画では、よく「オシャレな着こなしがインスタで人気」といった方々がもてはやされるが、この本の登場人物は山里で地味に生きてきた無名の人ばかり。華やかなスポットライトには縁がない。でも、それぞれの人生に味わいがあり、言葉も深い。


「90年の人生、まったく後悔はない。自分の能力でやるべきことはやったつもりだ。人からもぎとった金はない、もぎとられたことはあるが。恥ずかしい生き方はしていないよ」

「ぼくの同世代では、もう現役を引退して悠々自適な人が多いです。何をしようか、暇を持て余しています。そんな友人を見ていて、こうして現役で仕事を続けられることは、なによりありがたいと思っています。自分を待ってくれている人がいることが、大きな張り合いです。ありがたいことです」


● noteで大々的なAmazonの不具合が発生しているらしく、表紙画像が出ないんですよ。2冊の表紙(スクショ) 母の日、父の日のプレゼントにも

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★『あちこちガタが来てるけど心は元気! 80代で見つけた生きる幸せ』 G3sewing (KADOKAWA)


G3sewing(じーさんソーイング)は、84歳の父、80歳の母、50歳の三女の3人のソーイングチーム(会社組織ではない家内作業)。
主に84歳(本の掲載時)のお爺さんが作っているので、じーさんソーイング。


著者(三女)にとって、裁縫を始める前の父親は、頑固な職人気質で短気でケンカ早い、困った人間だった。仕事に失敗してばかりで借金を作り(子供が返済)、家族はずっと貧乏生活。親子仲も険悪で、著者は父親と話したくなくて実家に寄り付かず、父親はウツ状態で「死にたい。生きていても意味がない」と言い、子供はみな「今すぐ死んでくれてもいい」と本気で言うほどの親子関係だ。

ある時、著者が父親に壊れたミシンの修理を頼むと、元職人の父は簡単に直してしまい、ミシンの仕組みに興味を持つ。そして見よう見まねの自己流でブックカバーやポーチ等を縫い始める。最初は下手だったが、職人の血が騒いでミシンでの物作りに没頭、徐々に上手になっていく。

しかし物作りにはお金がかかる。生地代、糸、ファスナーや金具等の材料費。それでも熱心に頑張る父親のため、子供たちは厳しい家計の中からお金を出し合って応援するが、作品は売れない。

著者は「魚をあげるのではなく、魚釣りの方法を教えたら、2人(両親)の生活は潤うし、気持ちも明るくなるのではないか。金額は少なくても、自分の力でお金を生み出すことができるような仕組みを作れないだろうか」と悩む。

そんな時に著者の息子がSNSで広めたらと提案。82歳(当時)のお爺さんが看板商品の大きながま口バッグを作っていることをアップすると、丁寧に手作りする可愛いデザインのバッグに注文が殺到。またたく間に人気になる。


それと共に商品作りも本格化して大変になっていくが、多くのお客さんに必要とされることで父親は生きる気力を取り戻し、性格も丸くなっていく。
自分が使える報酬を得て、孫にもお小遣いをあげられるようになる。

「何もしないとボケてしまう。それは、俺が一番よく知っている。…家族には怒られてばかりだし、金を使うのは病院代だけ….。G3sewingをやっていなかったら、死んどったと思う」

著者は「後期高齢者が大活躍できる場所、朝起きてやるべき仕事があり、それが生きがいになって報酬にもつながる仕組み」が大事だと言う。

ただ、スマホやSNSの使い方を子供や孫に教えて貰ったり、手伝って貰える高齢者ばかりではないし、新しいことを覚えるのが困難な人も多い。
使いこなせれば便利でも、ネットには怪しいサイト等の危険もあり、詐欺に合う高齢者も少なくない。
デジタルツールの恩恵を受けられる人と受けられない人の落差を埋める工夫も必要だと思う。

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