見出し画像

神殿と車椅子巫女とマニアック人夫/連載エッセイ vol.86

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.88(2015年・第3号)」掲載(原文ママ)。

今回は、2年に1度の『お約束』とも言える『WFC(世界カイロプラクティック連合)世界大会』への参加ネタである。

2009年のカナダ・モントリオール、2011年のブラジル・リオデジャネイロ、2013年の南アフリカ・ダーバンに続いて、私自身、4回目の参加となった今大会の開催地は…ギリシャ・アテネ。

2年前のダーバン大会にて、次回が彼の地で行われると聞いた際、まずワタクシの胸中に思い浮かんだのは…ギリシャ神話や星座をモチーフとし、80年代後半に一世を風靡しながら、今もなお『派生作品』が次々と生み出される、某格闘ファンタジー少年漫画であった。

『パルテノン神殿を背景に、その漫画のコスプレ写真を撮ったら…ウケるだろうなぁ…。』

その思いは、2年が経過した今年になっても色褪せることなく、とりあえずインターネットショッピングで該当商品を検索するも、やはり『にわか』なワタクシにはブツまで辿り着くコトが出来ず、出発2ヶ月前にキャラクターフィギュア(模型)を入手するので精一杯であった。

ただ…フィギュアといえども、現地まで持ち込んで写真を撮る『お馬鹿』はそうはいまい…とほくそ笑みながら、淡々と出発に備えるワタクシであった…。

突然の悲報が飛び込んできたのは、出発の3週間前。

メールの送信者は、大会に参加予定のJFCP(日本カイロプラクティック協同組合連合会)のK代表理事であった。

『昨日、ウォーキング中に転倒し、足を骨折しました…。ギリシャに間に合うかどうかは不明です…。追って連絡します…。』

…そして時は流れて、3週間後。成田空港から中継地のトルコ・イスタンブール空港へ降り立った『関東発着組』の私は、2時間程後に到着予定の関西空港発の便を待っていた。
今回の世界大会に参加する『関西発着組』と合流するためである。

お目当ての便の利用者が昇ってくるエスカレータの上がり口で待機していると、まずはワタクシの『相方』ともいえる京都組合のI氏と合流。

K代表理事の行方を尋ねると、空港職員の操作する電動車椅子に乗せられて、エレベーターで移動中とのコトで、早速その到着口へ移動。ま
もなくエレベーターの扉が開くと…K代表理事、見参!! 
しかも微妙にはしゃいでいるご様子。

無事に到着したことを労いながら、その訳を尋ねると…『この車椅子…メッチャ速いねん!! しかも…この職員、イケメンちゃう!?』

…そんなこんなで、無事に乗継便へ『優先搭乗』し、アテネの『エレフテリオス・ヴェゼロス国際空港』へ到着。
そしてその空港では、旅行会社が手配した、滞在中お世話になるであろう車椅子がK代表理事の到着を待っていた。

一脚の使い込まれた車椅子…コレが後々、ワタクシに牙をむくコトになろうとは…。

その後、送迎バスにて市内へ移動。
会場近くの宿泊ホテルにて、『先入り組』と合流。近所のタベルナ(大衆食堂)のオープンテラスにて、大会前に開催された各種会議での進捗状況などを聞きながらのランチ。

そして、夕刻に開催される『ウェルカムレセプション』まで時間があったので、早速アクロポリス遺跡のパルテノン神殿を見に行くコトに!! 
まさに、いきなりクライマックスである!! 

私はスーツケースから取り出したキャラクターフィギュアをポケットに忍ばせバスに乗り込む…。
念願の『パルテノン・ショット』を手中にする為に!!

市内の他の観光名所にも寄りつつ、バスはアクロポリス神殿の入口近くにあっさり到着。
遺跡と同居するように広がるアテネの街は、ものの十数分移動すると、何らかの遺跡と行き会うような、訪問者にとっては非常に巡りやすい都市なのである。

しかし、ここからが試練である。

アクロポリスとはそもそも、『高い丘の上の都市』の意味。
遺跡に至るまでは、駐車場からひたすら上り坂を進む必要がある。
しかも石畳。
車椅子にとってはお世辞にも『優しい』とは言えない観光名所なのだ。

その状況をガイドブックにて事前に予習済みのワタクシ。
車椅子操作に支障が出るのを避ける為、北陸から今回、世界大会初参加のC女史へ、バス車中にてキャラクターフィギュアを託し、いざ出陣!!

想像通り、石畳は手強かった…。

というか、この使い込まれた車椅子は前輪が非常に『小振り』なタイプである為、少しでも気を抜くと溝にハマる。
すると後方でレバーを押すワタクシの掌に衝撃が伝わる。
挙句の果ては、慣性の法則に基づき、K代表理事の身体が前に投げ出される…というヒヤリハットの連続であった。

そこで同行の男性2人に、車椅子前方を左右から支えて貰う『Y字隊形』を考案し、なんとか受付まで到達する事が出来た。

しかし…ここからが本当の試練であった。

聞けば、通常の坂道を登り続ける見学ルートとは別に、直接アクロポリスへ車椅子ごと搬送できる『別ルート』があるとのコト。
ところが、その場合、車椅子の同伴者は設備の関係上、『1人のみ』と決められているのだ。

その1名は当然ながら、一団の中で最もガタイの良いワタクシが選出。
チケット売場の先で皆と別れ、係員に誘導されつつ、別入口から入場。

しかしここで…予想外の事態が!! 

地味に続く坂道を行けども行けども…一向に『搬送設備』まで辿り着かないのである!!

次第にあがっていくワタクシの息。
しかしながら、その呼吸音をあからさまに乱してしまうと、車椅子の搭乗者に気を遣わせてしまう。

なにせK代表理事は、教職を辞してこの仕事を始めて以降お世話になりっぱなしの、私にとっては『この業界における母親』のような存在なのである。

車上で無邪気にはしゃぐ彼女に、迫り来る呼吸循環器系の窮地を悟られるワケにはいかない。
ワタクシは鼻穴をいつもの1.5倍に広げ、周囲のあらん限りの酸素を取り込もうと、快晴のアテネの青空の下、鬼の形相でハンドルを押し続けた。

嗚呼…3m先を笑顔で先導する濃ゅい顔のギリシャ人係員よ…その毛深く逞しい腕は、手招きする為のものであって、決して車椅子プッシュを補助する為のものではないのだね…。

十数分後、車椅子は無事に搬送設備に到着。

切り立った崖を、工事現場の業務用荷物搬送エレベーター的なシステムで持ち上げられていく我々。
格子の向こうに広がるアテネの街並みに歓喜するK代表理事の背後で、しかしワタクシは呼吸の度に大きく上下する両肩の動きを鎮めようと必死であった…。

アクロポリスに到着し、見学路へ合流すると、丁度そのタイミングで、通常ルートを進んできた一団と合流。
そしてソコは、仰ぎ見ればパルテノン神殿。

念願の『パルテノン・ショット』のシャッターチャンス到来である!! 
他の観光客に白い目で見られたっていいさ…だって…ワタクシ、頑張ったんだもの(肉体労働的に)!!

私は眼前へ広がる神々しい風景に息を呑むC女史に、ドヤ顔を湛えつつ満を持して声を掛ける…。
『さっき預けたフィギュア…貰えるかな??』

するとC女史はサッと顔色を変える…!! 

『……え!? …ココで使うんでしたか?? 私…よくわからないから……バッグに入れてバスに置いてきちゃいました…ケド…。』

あまりの衝撃に思わず膝から崩れ落ちるワタクシの中で…『小宇宙(コスモ)』が音もなく燃え尽きたのは…言うまでもない……。


☆筆者のプロフィールは、コチラ!!

☆連載エッセイの
 「まとめページ(マガジン)」は、コチラ!!

※「姿勢調整の技術や理論を学んでみたい」
  もしくは
 「姿勢の講演を依頼したい」という方は
  コチラまで
  お気軽にお問合せください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?