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痛い“取りこぼし”

(小説のプチネタバレを含みます)
 休みの日は相変わらず本ばかり読んでいる。去年の読了は262冊だった。

 読了の感想は備忘録も兼ねてSNS「読書メーター」にアップしているが、これとは別に自分のメモに5点満点で採点もつけている。「読書メーター」に採点を掲載しないのは「あくまでも読了した瞬間の気分で決めているだけ」「単純に採点だけ見るのではなく、感想を読んでもらいたいから」で、つまり私は採点を載せている方の感想はついそこだけ読んで済ませてしまっていることの裏返しでもある。

 数えてみたところ昨年の262冊で5点満点をつけたのは25冊だった。もっと辛口かと思っていたが、10冊に1つは出していたとは意外に多い。

 ちなみに過去数年間で「★★★★★+」の“満点越え”をつけたのは3冊だけ。ディーリア・オーエンス「ザリガニの鳴くところ」、村上由佳「星屑」、エルヴェ ル テリエ「異常【アノマリー】」である。

 今年も早々に5つ星が出た。塩田武士「存在のすべてを」だ。
 
 冒頭から主軸となる誘拐事件の緊迫した描写に引きずり込まれるだけでなく、新聞記者の矜恃、刑事たちの執念、“家族”の絆、淡い恋愛もよう、画壇の醜悪さなどもじっくりと盛り込まれてページを繰る手が止まらず、ラスト付近では涙が止まらなかった。
 
 塩田武士さんは新聞記者出身の作家さん。グリコ森永事件をモチーフにした「罪の声」も面白かったが、本作はそれを超える傑作になったと思う。2022年刊行の「朱色の化身」はいまひとつだったが、恋愛ミステリーの佳作「雪の香り」も好きだ。
 
 塩田さんに限らず新聞記者出身の作家さんの小説は文章が簡潔で読みやすい。つまり私には「肌に合う」わけだが、ま、小説には“流麗な文章を味わう”という魅力があることも承知しているが。


 それにしても。
 
 今月選考会が行われる第170回直木賞(2023年下半期)で本作が候補作に入っていないのはどうしたことか。
 

 
 候補6作のうち私がこれまでに読了したのは「襷がけの二人」だけ。いまちょうど「ラウリ・クースクを探して」を読み進めていて、「まいまいつぶろ」は手元にあり、「なれのはて」は図書館予約したが17日の選考会までには回ってきそうにない。そんな段階ではあるが「『存在のすべてを』を候補にしない日本文学振興会(文藝春秋)にゃ、がっかりだぜー」と思っている。

 直木賞と芥川賞はいまや出版業界を超えた“お祭り”で、受賞作が話題になって広く読まれることは確実に業界全体を活性化させている。それだけに「日本のエンタメ小説は、こんなにすごい」と認知してもらうために、この傑作を“取りこぼした”のは残念でならない。
(24/1/5)

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