マガジンのカバー画像

花丸恵の食べたり呑んだり作ったり

101
自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

餃子にまつわるドラマの話

 私が餃子を好きになったきっかけは、テレビの深夜番組だった。  高校生の頃、眠れずにテレビをつけると、これまで見たことのない番組をやっていた。刑事ドラマらしく、張り込みをしているベテランと新米、二人組の刑事が、町の中華屋に入った逃亡犯の様子をじっと窺っている。  逃亡犯は、餃子とライスを注文した。それを見た新米刑事は 「やっぱり餃子にはビールじゃないですか? ご飯なんて邪道でしょう」  と嘯く。だが、ベテラン刑事はその言葉をたしなめるように、餃子はご飯があってこそだと主張す

ゆく年くる年、六花亭

 とうとう大晦日。  差し迫るというよりも、真隣にぴったり2024年が座って待っている状態だ。 「もうちょっと待ってくれない?」  と頼んでみても、辰のセーターを着た2024年は笑顔で首を振っている。どうやら待ってはくれないようだ。  ならば来い!  来るんだ2024年! さぁ!  私が両手を広げるも、 「まだ、ちょっとあるから……」  と言って2024年は、この胸に飛び込んできてはくれない。  時間厳守。2024年、時間をきちんと守れる良い子である。  さて。  大

辛さ炸裂!「すりだね」を作る。

 私は辛いものが好きだ。  日常生活はできるだけ刺激なく、安穏と暮らしたいと思っているのだが、時折、舌には強烈な刺激を求めてしまう。中学生になった頃には既に、そんな刺激を求めていた記憶がある。  かつて「とんがらC」という、カプサイシン入りの飲み物があったのをご存じだろうか。1999年頃に大塚製薬が発売した飲料水で、飲むと甘いのに舌に少し辛さが残るような、不思議な味わいの飲み物だった。家族はマズイと言って二度と手を出さなかったが、私はその辛味が気に入り、入手不可能になるまで

創作大賞2023授賞式の軽食の話

 午後6時半開場、午後7時開始。  その時間を見て私は咄嗟に思った。  ごはんはどうする?  この度、創作大賞2023で入選という結果になり、私は授賞式に出席することになった。noteの運営さんから頂いたメールで日時を確認したら、完全に夕飯時だったのだ。  もし、食べる時間が無いならば、事前に済ませておかないと私の腹の虫が、会場の皆様にご挨拶申し上げることになってしまう。自己紹介の前に「グーキュルルルル!」では目も当てられない。  そんなことを思っていると、授賞式の数

爆弾ハンバーグ(フライングガーデン)の店員さんに謝りたい

 外食をするとき、堂々としていればいいものを、なんとなく、おどおどしてしまう。一番、おどおどするのは注文のときだが、食べ終わってからも、どういうわけか落ち着かない。  食べ終わった空の皿が並んでいる。  これを片付けやすいようにテーブルの端にやり、空いたところを使い捨ておしぼりで拭いたりする。役目を終えたおしぼりや紙ナプキンをきっちり結び、まとめて一か所に置いておく。片付ける人の不快にならないように、つい、あれこれ考えてしまうのだ。  以前、飲食店のホールでアルバイトをし

野菜の蛇腹切りにハマる

 蛇腹切り。  文字だけを見ると、何とも物々しい。今にも鎌首もたげた蛇がシャーッ! とこちらに飛びついてきそうな雰囲気を醸し出している。  数年前の夏、奈良の山奥を歩いたとき、大きなカナチョロ(正式にはニホンカナヘビ。胴の長いトカゲ)だと思って、呑気に近づいたら、小さいアオダイショウだったことがあった。カナチョロに脚がないだけの見た目なのに、やはり蛇だと思うとそれだけで怖かったのを憶えている。  あの年の夏もなかなか暑かったが、それ以上に今年はどうにかなってしまいそうなく

アイスモナカを愛す

 私は我慢の利かない女である。  袋菓子など一度開封してしまうと、途中で袋を閉じてとっておくことができない。さすがに最近は四十路も半ばに差し掛かり、袋菓子を平らげるようなことはしなくなったが、若い頃は、気が付けば袋の中が空っぽ、ということがざらであった。  全部食べたらダメだ!  そんなことを思いつつも、目の端で食べかけの袋菓子を追っている。そうなると、ずっと食べかけの袋菓子の気配を背中で感じながら、時を過ごすことになってしまう。  お菓子を全部食べられない、というのは

缶チューハイ3本分

 蒸し暑さのせいだろうか。  急に、中村屋のレトルトカレーが食べたくなった。  中村屋が日本でカレーを発売したのは昭和二年のこと。  箱のパッケージには《日本のカリー文化発祥の店》の文字が輝いている。  どこから見ても悪いヤツのことを、札付きの不良などというが、中村屋はどこからどう見ても老舗。まさに札付きの老舗である。  若い頃、通学の乗り換え駅が新宿だったこともあり、新宿の地下道をよく歩いた。人並みにまぎれながら進んでいくと、新宿中村屋本店の地下入り口が見える。横を通る

「まごわやさしいご飯」を作ってみた話

 【まごわやさしい】  この言葉を初めて聞いたのは、当時、まだ現役の野球選手だった工藤公康さんのドキュメンタリーを見たときのことだ。  テレビカメラは工藤氏の自宅キッチンを映し出し、そこで奥さまの雅子夫人が手際よく料理をしている。大きな冷蔵庫を開けると、そこにはたくさんのタッパーが並んでいた。中身はすべて、下処理された食材や、夫人手作りのお惣菜だ。きちんとラベリングされ、整理された冷蔵庫は、なかなか壮観なものだった。 「やはり、食事はかなり気にされているんですか?」  デ

「かけうどん、並で」

 久しぶりに、母を我が家に招いたときのことだ。  一泊した母を車で家まで送る途中、早めの昼食をとろうという話になった。  こういうとき、丸亀製麺は実に便利な飲食店だ。  車を走らせると、どこの店舗も、ちょうどいい場所に店があり、駐車場もそこそこ広い。そのせいか、お昼時になると、丸亀製麺はいつも人で溢れ返っている。気兼ねなくゆっくり食べたいなら、やはり開店と同時がねらい目だ。  私たち夫婦は、外食をするとき、ネットで事前にお店のメニューを予習してから出かけることが多い。この

やっぱりお茶が好き! 愛飲歴15年のお茶屋さんの話

 私はお酒が好きだが、緑茶も好きだ。  基本的に「飲む」という行為が好きらしく、四六時中、のべつ幕なしに何か飲んでいる。  あたたかいにしろ冷たいにしろ、水分が喉を通り、食道へ伝っていく感触は、生きていることを実感させるものがある。  これまで、えんめい茶、よもぎ、どくだみ、熊笹などの野草茶から、三年番茶などのマクロビオティックで推奨されているお茶などにも手を出した。阿波番茶も飲んでみたし、そば茶、プーアル茶、ジャスミンティー、ミントティー、カモミールティーも飲んだ。

すき焼きのテンション

 私はすき焼きに関しては至ってクールな女である。  すき焼きがご馳走であることは重々承知しているし、食べれば美味しいこともわかっている。しかし、今夜がすき焼きだからといって、その日一日機嫌がよかったり、帰り道にステップを踏んだりはしない。  すき焼きよりも、好きな食べ物はいくらでもある。ワンタンメン、たらこスパゲッティ、ジンギスカン、もつ鍋、玉子。すき焼きは、それら好物の中に割って入るような料理ではない。単価が高く贅沢品ではあることは認めるが、目の色を変えるほど、私はすき焼

カレーは救世主

 救いの手を差し伸べるのは、何も神だけではない。 「もう今日は何も作りたくない」 「何を作ったらいいかわからない」  家庭で調理を担当する者は、幾度となく、そういった困難に見舞われるものだ。  そんなとき、ふと、こんな言葉が思い浮かぶ。 「カレーでいいか」  夕飯作りに窮したとき、カレーに救われてきた人は多いはずだ。ありがたいことに、カレーが嫌いな人は少ない。 「また、カレー?」  最初はそう文句を言っていた家族も、食べ進めると何となくおかわりをしてしまい、気が付けば、な

チョコレートを噛むべきか舐めるべきか

 夫がチョコレートを食べている。  箱から一粒取り出し、口に入れ、唇をすぼめて動かしている。歯を使っている様子はない。  夫はチョコレートを、飴のように舐めながら食べているのだ。  まるで合わない入れ歯に苦慮しているおじいちゃんのように、もにょもにょもにょもにょ口を動かしている。  大事に食べているといえば聞こえはいいのだが、見ている方としては、どうもじれったい。 「もうひとつどう?」  私が箱を差し出しても、 「まだ、食べてる」  夫はもにょもにょを続けている。