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「自分が不利になりそうな相手」を見抜いて逃げる

会社で身につけるスキルは9割が「他社では通用しない、それどころか人生でも絶対に使わない」というスキルばかりだ。

私は三菱UFJ銀行で8年間、新卒から法人営業をしてきた。入行当時は覚えることがたくさんあり、鬼のように怖い上司や次長にゴミ箱を蹴られたり、机を叩かれたり、怒鳴られたりしながら(もちろん優しい人もたくさんいたけれど)、「スキルを身につけないと死ぬ」と思って働いていた。

例えば稟議書の書き方。会社概要・資金使途・所見など、お作法が多々ある。書く順番も決まっている。判断が難しそうな案件は事前に融資部に電話をして、「取引先に確認しておくべきこと」を聞き、それを稟議書に書かなくてはならない。
そして"霞ヶ関文学"ならぬ"銀行文学"。『支社長にご出馬いただく(取引先に行ってもらう)』、『~であると思料(~です)』など、独自の言い回しがある。

2つの例を見て、お分かりいただけるだろう。他社では通用しない。もちろん銀行を退職してから今まで生きてきて、一度も使ったことがない。しかし会社員時代に身につけて転職後も、そして今でも役に立っているスキルがひとつだけある。それは「自分にとって不利な相手が見抜ける」というものだ。

これは女の勘や直感とは違う。女の勘はまず当たらない。恋をしている時に賢くいるなんて不可能だ。「彼は私のことが好きかも」という予感は、少なくとも私は当たったことがない。直感も当たった試しがない。「彼女にコンサルタントをしてもらえば、夢が叶いそうだ」と思って大金を振り込んだら、詐欺だった。

それもそのはずだ。東京でコンクリートにまみれて生活をしていると、シックス・センスなんてものはどこかに消えてしまう。ポジティブな予想はまず当たらないと思っていた方が無難だ。しかし人間の防衛本能なのか、ネガティブへのアンテナだけは残っている。

第一印象で相手の顔つき、表情の作り方、話し方、会話のテンポ(気が合わない相手とはズレることが多い)を観察していると、おおよそ判断がつく。「あ。この人は付き合い続けると、良くないことがあるな」と。そしてこの予想は、だいたい当たる。Slackの全体チャンネルでネチネチと攻撃をされた時も、子供同士の喧嘩に首を突っ込んできた母親が激怒してきた時も、やっぱりな、と思った。そう思って避けて通ってきたんだけどな、と。

悲しいかな同じ会社であったり、近所だったりすると、完全に避けるわけにはいかない。それでも不要な付き合いは避けることはできる。オフィスや道で遭遇しても挨拶で済ませて、世間話はしない。飲み会やランチ会では遠くの席に座る。本当に嫌なら「行かない」という手もある。

「自分にとって不利な出来事」を避ける一番の方法は、その人がいる場所に近付かないことだ。そういう人の周りには、同じような人が集まるから。私も、苦手な男性の子供が、長女の通う習い事に入会してきたので「顔見るのも嫌な男と、毎週会うのはの嫌だな」と思って、習い事を辞めさせたことがあった。

会社で働きながら「正直、これ何の役に立つんだか……」と思っている人は多いだろう。その感想は正しい。おそらく他の会社で役に立たないし、人生において使われることはない、でも会社員は一緒に働く人を選べない。嫌な経験を積み重ねていくうちに「自分に不利なことをしてくる人」を見抜けるようになる。だから会社員の経験は、決して無駄じゃない。もし自分にとって不利になる人が部署で過半数を占めていた場合は、一目散に逃げよう。



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