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2019年、心に残った5冊(勢いあまってもう4冊)

どうでもいいことだが、僕は「今年の漢字」というのが好きじゃない。

「何勝手に決めてくれてんだ」という思いから、「だったら自分で決めればいい。しかも、振り返って決めるんじゃなくて、こういう一年にしたい、だからこれにする」と、年末に翌年の一字を決めることにしている。

かれこれ10年以上続けてきた。ちなみに、2019年は「育」だった。2月に娘が生まれるのを控え、自分の事業も育てる意味ですぐに思い浮かんだ。

ところが、困ったことに今年はあまりすぐに思いつかない。ちょっと振り返りが足りてないんだなと思っている。それくらい、2019年はせわしなく過ぎ去った感じがする。

それで、個人的なことをここで振り返ってさらしたところで誰の得にもならないので、「心に残った本」を切り口に書いてみることにした。出版年、ジャンルは関係なく1年間に読んだ本の中から選んだ。

1.世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること

デザイン思考がトレンドになって、日本人が書いている本を有名どころから何冊か読んだか正直どれも微妙で、本屋で何かないかなと思って探していたら、偶然見つかったのがこれ。最初は散漫な感じもあるけど、途中から核心に迫るので最初はテキトーに流すのがおすすめ。

なぜ1番に選んだのかというと、具体例も的を得ていて、文脈が豊富で説得力もあり、何よりVTS(Visual Thinking Strategy)を実践することになったきっかけだった。

ピカソのこの絵の紹介が最も印象深く、試しにこの絵が「何を描いていて」「どのように描かれたか」を色々な人に問いかけると、様々な答えが返ってきて面白かった。4月に妻や知人の方と美術館に通い始め、非常に得るものが大きかったので、毎月続けている。

やってみて、絵画に限らず、3Dの物でも十分に行けると思った。特に、茶器の類や仏像は面白い。自分がいかに物をテキトーに見ているか、それがよくわかる。

アートの重要なところは、それ自体はムダだが、自分に余白を生み出してくれる機能だろう。音楽活動をやめてしまった僕にとっては、アートに触れる時間は特に重要な意味を持った。

ちなみに、来年は九州国立博物館がアツイので、みんなで行ってみようと思う。

2.ホモ・デウス

読んでいてとにかく卓越した知性とずば抜けた頭の良さを感じられる本は珍しい。『サピエンス全史』に続いて、しびれっぱなしだった。世界を捉える理知的な切り口の着想を、瞑想から得ているのがまたおもしろい(笑)

「超人類(ホモ・デウス)は、すでに街中ですれ違っているのかもしれない」-恐ろしさも感じるが、人類の進化がグラデーションのごとく起きてきたことを考えれば、十分にありえる。そして、遺伝子操作が可能になって中国でゲノムベビーが生まれた事実がある以上、もう何が起きても不思議ではない。

遺伝子操作とは関係ないが、うちの娘も、超人類的な何かを持っているのかもしれないのだ。少なくとも、その可能性はつぶさない態度が僕らには必要なのだと思う。というか、もう僕も淘汰の対象なのだ。つぶすどころか、つぶされる方だ。

3.ファクトフルネス

今年の一冊は、と聞かれて、ファクトフルネスを取り上げる人は多いのではないかと思う。ベストセラーなので、言葉を重ねることは野暮。ちなみに、最後の方で僕は泣いたんだけど、他の人は「え、そんな本だった?」というコメントもあり、あれ?と思っている。妻も泣いたらしい。

本を読む時間がない人は、チンパンジークイズに挑んでみよう。

4.社員をサーフィンに行かせよう

何となくしか知らなかったパタゴニア。自分の勉強会で取り上げることになって、必死に勉強したのがきっかけだった。

働く上で、合う・合わないがここまではっきりする会社も珍しいかもしれない。僕にとっては、環境に対する思いと実践のすさまじさが印象的だった。創業者イヴォン・シュイナードが自らの足で世界中をめぐって自然と一体化し、やがて自然保護活動に注力するストーリーは、かなり説得力があった。

経営における理念とか哲学って、これこそまさに、と思う一冊だった。ちなみに、パタゴニア・プロビジョンズが売っているビールとサーモンは買ってみた。高いけど、持続可能性って確かにこういうことだなと思わされる。

最近出た「レスポンシブル・カンパニー」も読んだが、たぶん面白いのは「社員をサーフィンに行かせよう」。

5.銃・病原菌・鉄

『サピエンス全史』を読んでいるとさらに面白く読めた。

「都市部に生きる欧米人よりも狩猟採集で生きているニューギニア人の方が頭が良いと感じる」のくだりは特に面白かった。農作物が余剰になって人も余り、アホでも生きていける余裕が人類社会に生まれた流れは、妙に納得してしまった。

カツカツの状態でしか生きられなければ、人が余るだけの余力が社会にない。そこでは、植物とうまく共生する知識や知恵があり(たとえば、キノコを見分ける)、動物を狩るための工夫ができる優秀な人間しかサバイバルできない。今の自分が植物と動物しか存在しない無人島に放り出されたら、飢え死にするか、お腹を壊して野垂れ死ぬだろう。今の生活に感謝。

そうなると農業や畜産業、漁業の大切さが身に染みてくる。いずれは何かしらの形で取り組みたい。

【番外編】隷属なき道

実は昨年に読んだ本で、通年でベストに選ぶとしたらこれ。なぜこの本がもっと日本で取り上げられないのか、全く不思議でしかない。ベーシックインカムに対する偏見や思い込みを一気に取り払ってくれる。なにせ、既にベーシックインカムが成功している例が実際にあるのだから、いったん、バイアスを白紙に戻して社会全体で検討すべきだと思う。資本主義と社会主義がうまく折衷しつつ成熟した日本社会だからこそ、議論すべきだと思う。

それから、GDPやGNH(国民総幸福度)に関する考察も面白い。GDP神話や、GNHが高いとされるブータンの統計的な操作については目からウロコだ。

ちなみに、僕も以前はベーシックインカムに対して懐疑的だった。これを描いた人は当時30歳前後。とんでもなく知性的。なんでヨーロッパにはこういう人たちが登場するのか。そりゃ、そういう人が生まれやすい社会環境があるからか。

【番外編】騎士団長殺し

たまに村上春樹が読みたくなる。作中の「騎士団長殺し」の絵が、自分の頭の中で色彩をもって再現されたのが印象深い。特に、すみっこの穴から顔を出してるヤツとか。

今回は性的な描写が多く、妻が読んでいるときに、何の脈絡もないのに僕の浮気を疑い始め、巻き込まれ事故の迷惑感が半端なかった。そういう意味でも思い出の一冊。メタファー。

【番外編】ソクラテスの弁明・クリトン

前々から読もうと思っていて手が出なかったが、ヒマラボの活動でやっと読めた。

避けることもできたソクラテスの死は、大きな問いかけを遺した意味で偉大すぎた。

【番外編】アイコン的組織論

ロイヤルコンセルトヘボウ(オランダの世界的オーケストラ)、エル・ブリ、マッキンゼー、そして、今年ラグビーワールドカップで世界中を沸かせたオールブラックス(ここに勝ったイングランドもすごかった)。

世界の名だたる企業の実践習慣について学べる一冊。僕はこの本で「ダナハー」という隠れた名企業について知り、ものすごく影響を受けた。なので番外編どころか、これも1番に並ぶくらいの一冊なのだが、最後に持ってくることで何となくそんな意味を。

振り返ってみて

今年はそんなに本を読んでないな、と思う。子どもが生まれて余暇に時間を割けなくなったことと、翻訳を進めていることも影響している。

ただ、少ないながら、読んだ本について色々な所、形でアウトプットすることで読書体験が深まることを実感した一年でもあった。ブログを書くのもいいけど、人に話したり、書いてあることをやってみたりするのが一番いい。

さて、来年は何をアウトプットしようかな。とりあえずこれを読むのは決まってるけど。

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