『Scaramouche スカラムーシュ』英国オリジナル版第Ⅰ部第ⅰ章冒頭

はじめに

ラファエル・サバチニの代表作『スカラムーシュ』は英国で刊行されたオリジナル版とアメリカで刊行された短縮版の2バージョンが存在したのですが、流通量的には圧倒的に米国版が多く、現在では英国内で新たに刊行される際は米国版を底本としている模様。

海外で翻訳される場合の底本もほとんどが米国版で、日本で現在手に入る大久保康雄 訳と、加島祥造 訳はどちらも米国版が元になっており、恐らくこれまで英国

もっとみる

Turbulent Tales 悪業物語

Queen's Quorum クイーンの定員

ラファエル・サバチニの『Turbulent Tales 悪業物語(1946年初版刊行)』は、 エラリー・クイーンが1845年以降ミステリジャンルで刊行された個人短編集のうち、もっとも重要な106冊をセレクトした『Queen's Quorum クイーンの定員』の中で、 歴史ミステリ短編集の代表的一冊として挙げられています。

クイーンの評によると、

もっとみる

ラファエル・サバチニの歴史夜話

サバチニ歴史夜話は「歴史実話を極力創作要素を排して短編小説形式で描く」をコンセプトにしたシリーズ。とりあえず収録作品の概要だけ書き出しておきます。

The Historical Nights' Entertainment, 1st Series(19I7年刊行)

I. THE NIGHT OF HOLYROOD〜The Murder of David Rizzio
ホリールード宮殿の夜 ~

もっとみる

サバチニとボルジア家

代表作『スカラムーシュ Scaramouche (1921年)』、『海賊ブラッド Captain Blood (1922年)』のように、大革命期のフランスや名誉革命前後の英国を舞台にした作品の多いサバチニですが、もともとイタリア出身の彼は1910年前後にはボルジア家全盛期のルネサンスイタリアを舞台にした作品を数多く執筆しています。

長編: 

Love-At-Arms: Being a narr

もっとみる

ラファエル・サバチニの『Captain Blood 海賊ブラッド』Kindle版発売中です

縦書き・ルビ付き・註へのジャンプ可

海賊ブラッド:His Odyssey(翻訳版)

「スカラムーシュ」のラファエル・サバチニ(Rafael Sabatini, 1875年4月29日 ― 1950年2月13日)による活劇小説の名作 "Captain Blood: His Odyssey (1922年原著初版刊行)"の独自翻訳。

1685年イングランド。アイルランド人医師ピーター・ブラッドは、モ

もっとみる

海賊ブラッド (31)総督閣下

その勝利に費やした人命を数える事が可能な状態になった時、キャプテン・ブラッドと共にカルタヘナを去った三百二十名のバッカニア(海賊)のうち、五体満足で生き残った者は百人がやっとであったという。エリザベス号の損傷は甚大であり、再び航行可能な状態まで修理できるかどうかは定かでなかった。そしてハグソープは、最後の最後まで勇敢にエリザベス号を指揮した末に死亡した。一方、ブラッドの指揮する船は兵力においてはる

もっとみる

海賊ブラッド (30)アラベラ号最後の戦い

「何故、待っデいるのだ、我がドモよ?」ファン・デル・カイレンが唸るように問うた。

「うむ――神のみぞ知るだな!」ウィロビーは厳しい口調で答えた。

 同日の午後、ポートロイヤルの巨大な天然の良港を形成する長い出州の陰、そして要塞が見下ろしている港に通じる海峡から1マイル以内の位置で、二隻の海賊船は無為に帆をはためかせ穏やかに揺れていた。街からもムッシュー・ド・リバロールの船からも気づかれぬよう、

もっとみる

海賊ブラッド (29)ウィリアム王

ボートのうち一艘がアラベラ号に横付けし、そこからラダー(梯子)を登って最初に姿を見せたのは、金糸のレース飾りをあしらった暗紫色のサテン製コートという、小奇麗な身なりをした背の低い痩せた紳士であり、そのしわ深く血色の悪い苛立たしげな顔は、黒く重たげな鬘(かつら)に縁取られていた。その当世風の高価な衣装は潜り抜けてきた危難にも損なわれておらず、彼の物腰は貴族階級の人物であるのがおのずと知れるような、自

もっとみる

海賊ブラッド (27)カルタヘナ

逆風に抗ってカリブ海を渡り、四月の上旬になってようやくフランス艦隊がカルタヘナを目視可能な位置までたどり着くと、ムッシュー・ド・リバロールは彼の旗艦上で会議を招集し、襲撃作戦を決定するよう命じた。

「これは重要な問題だ、メッシュー(諸君)」彼は出席者達に向かってそう述べた。「我々は奇襲によってあの街を制圧するが、それは敵が防衛体制をとるより前というだけでなく、連中が内陸に財物を運び出す前に行わね

もっとみる

海賊ブラッド (26)ムッシュー・ド・リバロール

キャプテン・ブラッドは、トルトゥーガ島から出航した時点においても未だ不機嫌な様子であり、プティ=ゴアーブの湾で停泊した時にも尚、その不機嫌は続いていた。そのような気分のままに彼がムッシュー・ル・バロン(男爵)・ド・リバロールを出迎えたのは、五隻の武装帆船で構成された男爵の艦隊が、遂にバッカニア(海賊)達の船と並んで錨を下ろした二月中旬の事であった。航海に六週間を要した事について、このフランス人は悪

もっとみる