抱えて泣いた君へ

その子がうちに来たのは、
私が中学2年生になったばかりの夏だった。

受験を控えた姉、
私に構ってあげられない両親は
思春期の私をなだめるように子犬を買ってくれた。

私は、
昔から体の大きいゴールデンレトリバーのような
包容力のありそうな犬に思いっきり抱きつくのが夢だった。

母も私の期待に応えるために
ゴールデンレトリバーを飼うつもりで
一緒にペットショップに子犬を見に行ったけれど

目の前で

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長い夜は美しい。
と、なぜかふと感じた夜だった。
明日、出勤じゃなければこのまま夜ふかししたいくらいに。

高円寺ストリート

「さっき話してた映画私の家にあるんやけど、見にこない?」軟骨にピアスを開けていて 髪色はカッパー色が馴染んでいて毛先は綺麗にワンカールされていて耳の上の髪を後ろにまとめてハーフアップの髪型をした彼女は僕に言う 8月19日 昨日は地元で仲の良い友達の誕生日だった 友達が好きだったユニコーンの『すばらしい日々』のレコードを青山学院大学の前で毎月開かれているrawtokyoと呼ばれるフリマで購入して渡そ

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夏の夜の夢

深夜にびっくりするくらいの音をたてて

氷とミルクとバナナを攪拌する。

ヨーグルトと蜂蜜もすこし入れて。

深夜のバナナミルクジュース。

おうちがたちまち喫茶店。

みたいな気分で楽しんでいる。

最高だ。

こういう夜が好きだ。

このおうちが

生活が

好きだ。

夏が終わるの

ちょっとさみしいな。

たくさんあそんだし

はたらいたけどな。

あとちょっと

だけど毎日あたらしいわけ

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西新宿 思い出横丁

22歳でフリーターだった僕の楽しみは通勤時間に読む『cakes』の恋愛小説の切ないコラムを読むことだけだった ある日いつも通り更新されたコラムをよんでいたら 最後のページに「読者と文通をしたいのでどなたか気軽にDMを送ってください」と書かれていた すぐさま一通のDMを送った 岡崎京子が好きだった彼女とは馬が合った 代表作は『リバース・エッジ』と思われるが 僕達は思春期真っ盛りの男女が繰り広げる『東

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特別さのなくなった夜

暑さの和らいだ夜、散歩がてら
近くの公園にあるベンチの上に腰をおろして
ボーっとすることがたまにある。

夜中とはいっても季節はまだ8月の半ばで、
敷地内の木々からはセミの鳴き声が
ひっきりなしに聞こえ続ける。公園に足を踏み入れたらセミに囲まれている感覚になって、
およそ住宅街とはかけ離れた不思議な心持ちになって、そんな声に耳を澄ませながら、
どこかでさりげなく蚊を警戒する。

そこはいつもの延長

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口癖

午後三時、同い年の彼女から『てか今日予定なくなっちゃった』とLINEが来たのでMr.ふぉるてのライブに行く予定だった僕は準備をして中央線に乗った。

中央線に乗るのはひさしぶりだった。

最寄駅から中央線中央特快で新宿駅まで33分ほどかかる電車の中で僕は江國香織の「東京タワー」を読みながら向かった。

***

街角で倒れているサラリーマン ラブホテルへ誘われる男女 歌舞伎町で途方する若者 ラブホ

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No.236 Notミサワ「2時間しか寝てねーわー」

たまにある、全く眠れない日。頑張って寝ようとただ黙って布団に横になっているのに、妙に思考が止まらなくて、あとは体の力が全然抜けなくて、「あ、ダメだこれ。眠れない」って夜がなぜかある。

で、そんな昨夜はそんな夜だった。2時間どころじゃなくて、トータルで1時間も寝てないんじゃないか、たぶん。

ただ、これは決して「2時間しか寝てねーわー」みたいな、地獄のミサワ的忙しいアピールではなくて、本当に寝たい

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