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[書評,要約]ヒトラーの時代-ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか(中公新書)[感想,批評,レビュー,あらすじ]

国民ラジオとナチス

 当時高級品で市民が手に入れることが出来なかったラジオを、ナチスは安く売った。各家庭に渡った国民ラジオは、シンボルや神話、ドイツ人の家的理念を混ぜこんだナチスのカルト的なイデオロギーを流し、政治を成功に導いた
 国民ラジオは起床時、夜眠る前にナチスのプロパガンダをドイツ人に聞かせた。ラジオは言葉を発している者の、他者を憎むような表情は伝えず、聞こえのいいプロパガンダのみが国民に届けた。もしテレビが表情とともにプロパガンダを伝えていれば、ナチスのイデオロギーはドイツ中に浸透しなかったのではいかと、本には書かれている
 ヒトラーは演説の中で、ヴェルサイユ条約の受諾を、命令のニュアンスを含む「ディクタート」という表現をしてドイツ国民に伝えた。ヴェルサイユ条約の受諾は、ドイツの本意ではなく、戦勝国の強要であると主張したかったのであろう
 ヴェルサイユ条約の受諾、つまりドイツの世界大戦の敗戦により、ドイツの通貨「マルク」はインフレにより無価値なった。戦争の前は大きな価値を持っていた「100万」マルク(ドイツの通過「マルク」は一次大戦後のインフレにより1兆分の1になった)は、ほとんど意味をなさなくなってしまった。その無価値の100万と、国内の大勢のユダヤ人を重ねるように「100万」人と表現した。これにより、「100万(大勢)のユダヤ人もマルクと等しく無価値である」とドイツ国民は刷り込まれるようになり、ナチスドイツのイデオロギーにドイツ内のアーリア人は賛同するようになった、ということである

 日本人写真家とナチス

 ベルリンオリンピックの際、ヒトラーを始めとしたナチスは、ユダヤ人や少数民族の迫害を、海外のメディアの目に映らないように隠した。つまりナチスは、反ユダヤ主義が諸外国に良いイメージを与えないと理解していた。ドイツ国内にはびこっていた、ユダヤ人への憎悪や、少数民族への強い風当たりを、真っ当なドイツとして世界にアピールするために隠ぺいしたわけである
 ある日本人写真家が、ベルリンオリンピックの取材のために現地に赴いていた。彼は少数民族の少女が、特別な催し物をするときしか着ない、装飾された服を身に着けている姿を写真に収めていた。なぜ平日に少女がドレスを身にまとっているのか。ナチスの策略である。ナチスが取り上げた伝統のある服装を、オリンピックの時期はナチスが着させたわけである。
 ナチスはドイツ国内の隅から隅まで、差別があると外国にばれないように、隠したのである
 

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