映画レビュー「来る」~現代の怨霊譚になり損ねた

とある一家(?)を襲う数々の怪奇現象と因縁を描いたホラー作品。監督は中島哲也。

原作は澤村伊智作「ぼぎわんが、来る」(未読)

この作品で注目すべき点はふたつ。

日本でも古くは数多く制作された、おどろおどろしい怪談映画のテイストを存分に取り入れていること。

そして、物語前半の主役、妻夫木聡演じる秀樹のおぞましい人物設定だろう。

前者に関しては、自分がその手の怪談映画好きなこともあってとても面白かった。やりすぎかと思うぐらいの照明や色彩、グロテスク演出はとてもよい意味で納涼怪談的で、下世話な怖いもの見たさに対して存分に応えてくれる。

後者に関しても、非常に面白い試みだと感じた。

秀樹は外から見ればいわゆる「マイホームパパ」であり、毎日ブログを更新してわが子の事柄を長文で書き連ねる、いかにもゴールデンタイムのトレンディドラマの主役になれそうなタイプの人間だ。

その言動はとてもポジティブ! 眩しくて吐き気がする!!

だが物語中盤、彼のおそるべき本性が明らかとなる。

彼はただ、自分が子煩悩なパパであるという手垢だらけのマイホーム幻想に取りつかれていただけなのだ。

ブログでは「僕も子育て頑張ってます!><」ぶりをアピールしているが、実際の彼は正反対。育児に関する面倒ごとは妻である香奈にすべて押し付けっぱなし。彼女がその重荷に耐え切れずノイローゼとなってもまったく手伝わないどころか、「ブログネタ作りのことしか考えとらんのかい」的な無神経きわまりない言葉を投げかけたりする。しまいには、子供に危機が迫っていても集中治療室前でPCをカタカタ……。

このキャラクター設定はとても面白いと思った。こういう人間、異業種交流会とかSNSに腐るほどいる。一見すごくポジティブなことを言うのだけど、いざいっしょに何かをしてみるとひどい目に遭わされる。しかも性質の悪いことに、自分では微塵も悪いと思っちゃいないのが本当に恐ろしい。

他の方のレビューを読んでみるとこの点に関しても批判が少なからずあるようなのだが、少なくとも自分は現代的でとてもよいと思った。

秀樹がそのような性格になってしまった背景は不幸な子供時代にあり、さらに故郷に伝わる言い伝えが関わっているとのこと。人間のおぞましさに未知の存在の脅威がミックスされ、こりゃあなんともおぞましい怪奇譚になりそうだぞと思いながら観ていたのだが……。

後半、それまで脇にいたある人物が目立ちはじめたことで、どうも雲行きが怪しくなる。

その人物は秀樹と因縁があるというわけでもない。それまでの物語でいえば無関係と言えるほどでもないが、中心からやや離れた位置にいた存在だ。

突然そんな人物にスポットライトが当てられても、個人的には困ってしまった。秀樹の過去に関するあれこれの問題もすごくあっさりした形で片付けられてしまうので、それからの因縁話への関心もげっそり無くなってしまう。(公式サイトや配信サイトのキャスト表には、その人物の役者が一番最初に書かれている)

唯一なんとか興味を持続させてくれるのが、柴田理恵扮する沖縄のユタで、この人物は見た目や言動からいかにも何かやらかしてくれそうなのだが、その顛末にもガクッとなった。

せっかくクライマックス、ド派手な大仕掛けの描写を散々入れてすごそうな霊能力バトルを期待させておきながら、その中でも衝撃的な行動を予感させてくれるキャラクターをおざなりに扱っては不完全燃焼だ。

原作は読んでいないのだが、この物語のあらすじは忠実なのだろうか。個人的には、後半あの人物を主役にするという展開にはせず、あの家族の因縁を主題として描き切った方が面白くなったんじゃないかとは思う。演出は好みなのに、すごく惜しい。

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