52.経済格差
教育格差、医療格差、情報格差など様々な格差の背景にあるのが、経済格差です。
日本は先進国の中でも相対的貧困率が高く、約15%とG7の中ではワースト2位になっています。
高齢者世帯やひとり親世帯を中心に、6人に1人が相対的貧困に直面しているのが現状です。
貧困は“絶対的貧困”と“相対的貧困”に大きく区別されます。
絶対的貧困は、飢餓状態にあるなど命が危ぶまれるほどの貧困を指します。
国や地域における生活レベルとは関係なしに、衣食住といった必要最低限の生活水準が満たされていない人の割合のことです。
世界銀行が定めた国際貧困ラインでは“1日1.90米ドル未満で生活する人の割合”と定義されています。
2022年末までに絶対的貧困に当たる人々は全世界で6億8500万人にいると推定されていて、そのうちの70%以上がサブサハラ・アフリカ地域に集中している他、中東と北アフリカ地域でも上昇傾向にあるとされています。
相対的貧困は、その国の生活水準と比較して困窮した状態を指します。
OECD(経済協力開発機構)によると“世帯の所得がその国の等価可処分所得(手取り収入を世帯人数の平方根で割って調整した額)の中央値の半分(貧困線)に満たない人々の割合”と定義されています。
子どもの貧困は、相対的貧困にある世帯にいる18歳未満の子どものことをいいます。
格差社会が進むと貧困層が増加します。
日本では格差社会が始まったとされる1980年前後から格差は拡大し続けており、貧困率が上昇した結果として厚い貧困層が形成されました。
貧困層が増加する一因は、ひとり親世帯の増加です。
母子世帯数は1985年から30年間で1.5倍になり、2016年には123.2万世帯になりました。
最新の2021年は119.5万世帯です。
ひとり親世帯のうち、母子世帯は85%を占めています。
母子世帯での親の就業率はおよそ86.3%で、そのうち約4割以上が非正規雇用労働者であり平均就労年収は230万円程度と言われています。
生活水準を推し測る為には、世帯人数も考慮しなくてはいけません。
1人世帯と2人世帯、2人世帯と4人世帯では生活に必要な額が変わってきます。
厚生労働省が2018年に貧困線を公表していて、単身者世帯では約124 万円、2 人世帯では約175 万円、3 人世帯では約215 万円、4 人世帯では約248 万円になっています。
ひとり親世帯の半数以上が、相対的貧困の状態にあります。
貧困層が増加するもう1つの要因は、非正規雇用労働者の増加です。
企業は解雇しやすく賃金も安い非正規雇用労働者を増やすことで人件費を削減できます。
非正規雇用労働者にとっても自由な働き方ができるので、双方にメリットがありました。
しかし、その賃金を含む待遇格差は大きいものでした。
正規雇用労働者が年齢とともに段階的に昇給するのに対して、非正規雇用労働者の賃金はほぼ横ばいです。
その結果、両者の生涯賃金の差は1億円以上という試算もあります。
所得の世帯数分布を見ると平均所得金額はおよそ551万円ですが、平均以下の世帯が6割以上を占めます。
100万円台、200万円台、300万円台の所得層が最も厚く、それぞれ13.7%程度を占めています。
雇用形態を基準とした日本の給与体系は、経済格差を大きくする要因になっています。
このように、ひとり親世帯と非正規雇用労働者の増加によって、貧困層は増加を続けています。
貧困層を含む低所得者層が増加すると少子化が進みます。
低所得者層は未婚であるケースが多く、その理由の1つとして経済的不安から結婚を望む人が少ないことが挙げられます。
低所得者の男性が結婚する場合、もし妻が妊娠出産などで離職すれば、夫の収入で妻子を養うことになります。
家族を持つことで、独身の頃と比較して数倍の生活費が必要になります。
結婚後は一人暮らしの時よりも広い部屋に引っ越すことになることも考えると居住費も膨らみます。
つまり、結婚したことで生活がより苦しくなる可能性があります。
こうした背景から未婚率が上がり、結婚したとしても子どもを望まない人も増えています。
また、格差は固定化します。
所得が高い親の元に生まれた子どもは、充分な教育を受けて大人になり、自らも豊かになりやすいです。
一方で、所得が低く貧しい親の元に生まれた子どもは、自らも貧しくなってしまう傾向があります。
塾などに通えなかったり、多忙な親は宿題を見てあげる余裕がなかったりと、富裕層と比べて充分な教育を受けられないからです。
また、経済的な理由によって進学する機会に恵まれないことが多くなります。
このように、格差は世代を越えて引き継がれていき、少子化も続いていきます。
平均より高所得の場合でも、子どもへの教育費や住宅ローンを抱えて生活に余裕がない世帯が多くあります。
その結果、経済的不安から生む子どもの人数を抑えてしまう傾向にあると考えられます。
また、“結婚するのは当たり前”から“結婚するかどうかは自由”と…結婚に対する考え方が多様化していることも未婚率が高い一因と言えます。
少子化が進む背景には、子どもを生み育てる為の充分な所得が得られないという大きな問題があります。
貧困や少子化により、社会的コストが増加します。
その理由は、生産年齢人口(生産活動の中心にいる15歳以上64歳以下の人口)や労働力人口が減ることで税収が減るからです。
また、貧困層の人が高齢になったり病気になったりすることで、働いて収入を得ることが困難になれば、生活保護を受けることになる可能性もあります。
社会保障に関する支出は増加し、社会保障制度の見直しが必要になります。
加えて、非正規雇用労働者は相対的に危険な業務に就くことが多く、正規雇用労働者と比較して労働災害が多いという調査結果もあります。
時給が低いので生計を立てる為に長時間働くことや、幾つかの仕事を掛け持ちした結果、体調を崩してしまう人もいます。
しかし、そのような生活を続けたとしても、非正規雇用労働者でいる限りは生涯大幅な昇給は見込めません。
キャリアアップの為の訓練(支援)も受けられないことが多いので、低所得の状況から自力で脱することはとても難しいことです。
経済格差が是正されない限りは、社会的コストは膨らみ続けると考えられます。
その結果、国力が低下します。
国力は、その国の経済力や軍事力、技術力など…様々な要素を総合したものです。
少子化によって生産年齢人口が減ることで、経済成長にマイナスの影響があります。
また、充分な教育を受けられずに、子どもたちの能力が開花しない社会に待っているのは、人的資源の不足や生産性の低下、国際競争力の低下です。
例えば、財政悪化により税収が減り、社会保障や国防費の削減が必要になる他、不景気が続けば企業の利益は減り、失業者が増えて国民の所得も減るなどの影響が出ます。
国際的な発言力や資金的な貢献度も低下します。
問題は少子化だけではありません。
日本は世界のどの国よりも高齢化が進んでいます。
国力低下に対処する為には、少子高齢社会に適応した政策が必要です。
しかし、日本ほど少子高齢化が進んでいる国がないので、見本となる制度が少ないという問題もあります。
それは逆に言うと、うまく乗り越えれば、国際的なロールモデルになれるということにもなりますが…。
多様な働き方の実現を目指す働き方改革は、若年世代だけではなく老年世代にも関わる取組です。
相対的貧困に置かれている世帯は、決して少なくありません。
格差の固定化によって、自力で貧困から抜け出すことはとても難しいことです。
“もっと努力するべき”、“自己責任”という言葉で片づけられるような問題ではありません。
格差が大きい社会が続けば、今は影響を感じていない人たちにも、いつかは何かしらの影響が身に降りかかるでしょう。
少子化の問題は子どもが生まれた後の充実した福祉的な対応も大事ですが、それ以上にそれ以前の社会の景気回復に向けたシステム構築が求められます。
写真はいつの日か…松前町で撮影したものです。
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