黒猫のヨル
ある春の日、黒猫のヨルは本当に美しいものを探しに旅に出た。
最初に出会ったのは桜だった。
初めて見る満開の桜は圧巻だった。
桜の花びらが散るのを見てヨルは綺麗だと思ったが、どこか寂しくなった。
次に出会ったのは虹だった。
その七色に光る橋を見てヨルは心を躍らせた。
しばらくして虹は消えた。ヨルは寂しかった。綺麗なものがまたなくなった。
次に出会ったのは花火だった。
花火の迫力と美しさにヨルは圧倒された。
しかし、花火は一瞬で消えた。
ヨルはずっと綺麗な花火を見ていたかった。
次に出会ったのは星だった。とりわけ綺麗だったのは流れ星だった。
その一瞬のきらめきにヨルはみとれた。
そしてすぐに別な流れ星を探したが、それは見つからなかった。
ヨルは気付いた。
美しいものはすべてすぐに消えてしまう。
最後に出会ったのは白猫のアサだった。
アサは旅に疲れていたヨルを癒した。
ごはんをつくったり、歌をうたったり、
一緒に遊んだり。
ヨルはこわくなった。アサがいなくなることを。
ヨルはアサに話した。
「君がいなくなるのがこわいんだ。僕が美しいと思ったものはすぐに消えてしまうから」
アサはヨルに答えた。
「儚いものが美しいだけよ。そしてもっと美しいものはきっと目には見えないわ。」
アサの瞳は碧く澄み、ヨルはそれに吸い込まれるように身を寄せた。
そのぬくもりを感じながらヨルは目を閉じた。
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