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愛への自信。 -『ののはな通信』読書感想文-


久しぶりに読書をするというのに、なかなかのボリュームのものを選んでしまったかもしれない。

私がこれを読み始めた理由は、装丁、タイトル、あらすじなどの前情報を見た時になぜだか「気になる」と「苦手かもしれない」という相反する気持ちが同時に湧いたからだ。

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最高に甘美で残酷な女子大河小説の最高峰!
運命の恋を経て、少女たちは大人になる。女子の生き方を描いた傑作小説。

横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。

<ののはな通信>



この小説を一章まで読んだ誰もが、まさかその後もこんなにも時をかけて2人のやり取りが綴られると思わなかったことだろう。
もちろん私もその1人だった。
二章の始まりを読み出して、つい1人「えぇ〜すご...。」と声をあげたくらいだ。

しかし、高校生の激しくも儚い恋の話で終わると思っていた2人の物語は、そこからそれぞれ、激動の道を歩むことになる。

読んでいくうちに
「はなはなんて返すんだろう」
「これを読んだののはどう思っただろう」
とまるで手紙を待つ彼女たちのように、次を待つ自分がいた。

なんならそれぞれの人生を歩んでいく彼女たちよりも、ただただその先を待っていたのは私だったかもしれない。
そう思えるくらい、2人のやり取りはやり取りのようであり、各々が自分自身への問いかけを記しているようにも思えた。


どんどん大人になっていく2人。その描写がまたすごい。
私はいつも映画や小説を、どこかで「これは"作品"だ」と思いながら捉えてしまう傾向があるのだが、本書にはこれまでにない不思議な"リアル"を感じた。
心の動きや言葉遣い、彼女たちの成長、2人の周りで起こったこと、それに対して感じたことを綴る節々から、じわじわと痺れるような"リアル"が伝わってきた。

2人が大人になっていく姿、人間が歴史を刻んでいくのを感じるほどに、彼女たちは、この世のどこかできっと本当に生きているとさえ思った。


私がこの本を通して、そして、ののとはなを通して感じたのは、圧倒的な「愛への自信」だ。
愛している自信と愛されている自信。
自分にとっての愛が何であるか、誰と交わしたどんなものが真実であり本物であるかをわかっているという自信。

お互いの気持ちが何であるかという確信付いたものが2人の中にある。
だからこそ自分の苛立ちや嫉妬、思いの丈をまるごと表し、時にはその愛ゆえに相手に憤り、悩み苦しんで、そして彼女たちはそれぞれの生き方を選んだ。

どんなにその関係性が変わろうとも、他に愛する人ができようとも、ののとはなの間には、何十年に渡り「愛」が脈々と流れ続けていた。
その愛をなにかの形にはせずとも。


彼女たちは何度か「もしあの時こうしていたら」とか「あれを許していたら」とか「こんなことをしなかったら」「もっと大人だったら」というようなことをそれぞれしたためる場面がある。

私はそんな彼女たちの言葉から、もし出会った場所や時代、色々なものがもっと違っていたら、違う結末の2人があったのだろうかと考えてみた。


たとえば2人が大人になってから出会ったとしたら。
たとえばなんてことのない道端で出会ったとしたら。
たとえば外交官の妻とライターとして出会ったとしたら。
たとえば男と女だったとしたら。
彼女たちは恋に落ち、そこに愛は生まれたのだろうか。

私が想像するに、それは起こり得なかったのではないかと思う。
なぜなら、彼女たちはお互いに惹かれ合い、お互いの魅力を感じていながら、その実、どこかでいつも相手に対しての劣等感と羨望のようなものを感じているように思えたからだ。


私は裕福ではない。
私は勉強ができない。
貧乏で自分に将来を託して勉強しろと言う親。
勉強ができることを当たり前だと思っているエリートの親。
明るく柔らかくて、愛らしいあなた。
凛として潔く、強く優しいあなた。

自分はこのままでいいのだろうか。
もっとこう生きていくべきではないだろうか。

自分が惨めになりそうな狭間で相手を羨望し、そしてそれすらを越えて魅力を感じ、愛しいと思ってお互いを求める。
それは、あの頃の環境、年齢や性別、宗教、色々なものがある種限定された空間で、なおかつ手紙という秘密を紡ぎ合っていくような形で交わされたからこそ、生まれたものなのではないかと私は感じた。

多感で繊細で、臆病ゆえに時として大胆で、最も透き通る心と鋭い眼差しを持っていたあの瞬間に2人は出会い、想いを交わした。
あの時に始まったからこそ、ここまでの愛になり、その想いががずっと続いたのではないだろうか。
だからこそ強固であり、そして儚い。

ゆえにこれは「ののとはなの恋の話」ではなく「ののはな通信」なのだと私は思う。



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