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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 中編 24

 ………………それは、百枝も同じ思いだった。

「なにをやっているのだ!」

「恐らく、第二陣と鉢合わせしたのですよ」

「馬鹿たれが! 奇襲も失敗した上に、脱出の邪魔までするのか、あいつらは! 船を回せ、南側に活路を開く」

 前軍の船は、南に進路を変えた………………


「河邊殿、駄目だ! それでは後軍の船と鉢合わせになる!」

 田来津は叫んだが、前軍の船はぐんぐんと進んでゆく………………


 ………………大船の中でも怒りが爆発していた。

「ええい、第二陣の将軍は皆虚け者か! このままでは護衛軍ともども唐船に囲まれる。一端北に逃げ、護衛軍が動き易いようにするぞ!」

 比羅夫のこの一言で、後軍は北に進路を取った。

 前軍と後軍が衝突するのに、半時と掛からなかった。

 ―― 倭軍の前線は総崩れとなった。

 河口の中央は、身動きできない倭船で溢れた。

 それを狙うかのように、唐船から放たれた火矢が雨の如く倭船に降り注ぐ。

 一隻、一隻と倭船が火を噴いていく。

 火達磨の兵士たちが、次々に海の中に落ちていく。

 併せて、唐軍の接近戦が、倭軍の混乱に拍車を駆けた。

 2隻の唐船で倭船を左右から挟み込み、動きを封じ込めて、唐兵が乗り込んでいく。

 大船にも、多くの唐兵が乗り込んで来た。

「安曇大将軍、後方の船へ、お早く!」

「馬鹿者! 私は倭国軍大将軍だぞ! 敵を前にして、逃げることができるか!」

「しかし……」

「聞け! 我は倭国軍大将軍大錦中(だいきんちゅう)安曇比羅夫連なるぞ! 倒せる者は倒してみよ!」

 その言葉を合図に、唐兵が一気に襲い掛かった………………

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