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とある挑戦状:ソウル、いざ「反日」の街へ

とある挑戦状:ソウル、いざ「反日」の街へ

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   これは、旅行記でもなければ、なんらかの創作物でもない。これは、テレビ、新聞、インターネットといったメディア、そのもの、それら情報媒体から得られた「印象」を自らのものにしようという、もしくは、してしまっているすべての人々への私からの直接的な挑戦状である。

   私は韓国の「反日」報道が日本国内で吹き荒れている八月二十四日から同月二十八日まで、ソウルの市井にいた。その大都市の雑踏の中、奥深くを歩き回り時間を過ごした。

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   件の徴用工問題以降、日韓の政府間の関係は悪化の一途を辿っている。これは明らかな事実であり、疑いようがない。
   これにしたがって、日本国内のあらゆるメディアが韓国国内の「反日」傾向の報道をするに至った。これも、日本に住んでいる限り言うまでもなく理解できると思うが、明らかな事実である。

   まして現在に至っては、日本とは全く関係のない韓国内の政治スキャンダルを、まるで我が国のことごとく、昼間の自らを情報番組と称した「ひるおび!」やら「グッディ!」やら「とくダネ」やら「ミヤネ屋」やらといったワイドショー(私が最も嫌悪し、軽蔑し、蔑視している、テレビに出る他やる事のない暇な専門家気取りで溢れた薄弱で皮相なテレビ番組群)が公共の電波を以って報じている。

   こういった韓国内にあるとされる「反日」傾向の流れから日韓間の航空機便の削減の決定がなされた。韓国内の政治的な決定や方針の策定によってこれらの韓国内の民間企業を含んだ決定がなされたわけであるが、一般人が、つまり日本国内においてテレビの前で指をくわえて生きている人間や新聞を片手に茶の間に座っている人間、スマホを握りしめてネットニュースを漁る人間、これらの人々が韓国へ直接渡航し相対する機会が将来的に失われることが決定してしまった。
   私は富山ソウル便の休止が決定したという八月十三日のニュースを受け、即座にソウル渡航を決断した。表向きの目的は、邦国内の「嫌韓」ムードの中でウォンが安くなり飛行機も安くなった今を利用してソウルへ行き、美味い麺類を食べまくるということだったが、勿論本心は全く別のところにあったのである。

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   本当に「反日」ムードが韓国の首都に存在するのか、それを確かめるのが本当の目的だった。本邦の報道から受ける印象を以って、半分吊し上げられる可能性も覚悟に私はソウルの日本大使館前へ行くことをソウルに向かう決断と同時に決めていた。たくさんの写真を撮り、現実を見たい。書き残したい。書き伝えたい。実家の家庭内ですら韓国を訝しむ風潮があったので、私は親族へも行き先を告げずに旅立った。
   実際今回の問題がなければ特段にソウルに行きたいわけでもなかった。同じ値段で行けるのならちょうど中国語(普通話)も勉強していたし、台湾や上海へ行っていただろう。ただ、今回の件があり、そして翌月の九月十七日に富山ソウル便の休止が宣言された瞬間に「今行かねばどうするのだ」という気持ちがなんの異論なく自分の中で定まった。行くしかない、と思ったのである。不安が無かったと言うと嘘になる。邦国内のメディアの報道を真に受ければ、今日本人が韓国に近づくのは危険に、渡航前の私にも(この数々の無茶な旅をしてきた破天荒者にすら)思われた。今、こんなことをソウルの街角のカフェでソウル市民に囲まれて書いているというのは痛快な皮肉である。

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   結論から言えば、私は五日間のソウル滞在中に一度も嫌な、不快な思いをしなかった。逆に驚くほど大変快適かつ安全に過ごした。すなわち、日本国内で報じられるような「反日」の嵐は韓国の首都ソウルでは全く吹き荒れていない。韓国内の極度な「反日」傾向は日本国内のネットを含むマスメディアの、完全な印象操作であり、それにはおおよそ政治的外交的圧力も関与していると考えて良い。同時に韓国のマスメディアも同様に「反日」傾向を煽り立てる報道を行っている。よって断言できるのは、今回の日韓対立は両国のマスメディアと政府と政治家とが生み出したもの以外のなにものでもない。そこには本当の現地の住民たちの血はほとんど通っていないのである。

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   私の今回のフィールドワークにおいて、下町の食堂に潜り込んですらもそうだったのだ。まず、第一街人(最初に声をかけてくれた現地の人)の印象が大変良かった。ソウル市内に入ってゲストハウス(一泊 七百円強)にチェックインした時点でもう夜は更けていた。とにかく私は麺が食べたかったので、ゲストハウス周辺の夜の下町を散策した。犬を散歩させている三十代後半とおもわしき女性とすれ違い、彼女が声をかけてきた。私の持っていたノート(サバイバル韓国語をぎっしり書いたもの)を見て、私が日本人だと即座にわかったらしい。彼女は大変流暢な日本語で話しかけてきた。大学で日本語を勉強したという。私がここらで麺の食べられる店はないかと尋ねると丁寧に教えてくれた。彼女に韓国語で礼を言い別れ、紹介された店へ行くと、勿論日本語は全く通じない世界であった。

   私は旅をする時、必ず現地語をなるべく使うことを主義としている。これを「現地語主義」呼んでいるのだが、今回は渡航まで一週間しかなかったため、私の韓国語は大変おぼつかなかった。なので先ほどのノートを片手に現地の方々とはコミュニケーションを図ったのである。ソウルは実は二度目だった。前回行ったのは十年もまえのことで、やはり韓国語は忘れてしまっていた(大抵の言語は旅の後には忘れてしまうのだ)。どうしても話が通じなければ、その時初めて断わりを入れて英語を使うことにしている。といっても、大抵どの国でも下町の大衆食堂では英語は通じないのだが。

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   その最初に行った大衆食堂では五十代後半の女性が私の応対をした。とにかく辛いのが食べられないので辛くないのにしてくれと必死に頼んでビールと冷麺を頂いた。物価が驚くほど安く、冷麺とビールで腹が爆発しそうになったが、ずっとその女性はたどたどしい韓国語を話す日本人の私に優しく対応してくれた。「イルボンソラム」と言っていたのが聞き取れたので、私が日本人だというのはわかっていたのだ。ここでまず私はソウルの下町に日本国内で報じられるような凄まじい「反日」感情があるわけではないだろうという予感を得た。

   コンビニでこれまた物価がひっくりかえったかのような安さのビール瓶(七百ミリリッター相応)を買ってゲストハウスに戻ると、そこで二十代の二人組の東京から来たという日本人女性観光客に出会った。少し話をして、私がソウル内の「反日」感情の実態をフィールドワークで調査しにきたと告げると、彼女たちは「ネタばらししちゃっていいのかな笑」と前置きして話し出した。翌日の朝に帰国するという彼女たちは、彼女たちが滞在した期間中の印象から得られた現状の結論として、「反日」たるものを全く感じなかったと総括しきった。それよりもこの日本国内での「嫌韓」ムードと報道の「反日」傾向のおかげで、飛行機はかなり安くなり、ウォンも安くなったので最高に韓国を楽しめたと言うのである。加えて、翌日の夜に出会ったひとり旅の二十代東京出身の日本人女性も同様の発言をした。

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  面白いのは、特に明洞など観光客の多いところへ行くとそこかしこで日本語が聞こえる。客引きは日本語で話し、日本語の地図を配り、観光局の案内職員も日本語で案内をし、日本人観光客がそこたら中で話している。日本人観光客で特に多いのは女性だ。家族旅行と思われる観光客の中に男性は見たが、日本人観光客の男性の集団は見なかった。性別的な見方で判断するのは避けたいのだが、あえて言うと女性はやはり男性よりも現実的な視点を有しているのではないか。今韓国へ行くのは安い、だから行こう、と印象操作に振り回されずに決断できるのが圧倒的に女性なのではないかと思うのだ。それに対して、印象操作で行動を左右されるのは男性なのではないか。この考察は蛇足的なものであるので、敢えてこれ以上は述べないが、そういう見方も可能だろうと私は思っている。

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   私がソウルに入ったのが二十四日土曜日で、私はその翌日の日曜日の午前中というデモや反対運動が行われそうな時間帯を狙って、おおよそ運動の爆心地となるだろう日本大使館前へ向かうことにしていた。日本のメディアから得た印象で日本人とバレれば吊し上げられるのではないかと半分恐れ、そして同時に腹も括っていた。

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   日曜日午前十一時頃、大使館前に到着すると、私は拍子抜けして思わず笑ってしまった。大使館前は閑散としていて、警備にあたっている警官の数を含んでも警察車両の台数の方が多いくらいだったのだ。全く物々しさは感じられない。むしろ平穏な雰囲気である。かの有名な「慰安婦像」の周りにも、横断幕などは掲げられているが、実際いる人間というのは多分常駐スタッフらしい若者二名、しかも何かを訴えたり激しい感情を露わにしているわけでもない。張られたテントの下で、言ってしまえば、駄弁っている。完全に雰囲気的にはサボっている。ここから私が見た確固たる現状は、連日「反日」の反対運動が行われているというような日本のマスメディアの情報は全くもって誤りであり、嘘としか言いようがない。邦国のマスメディアは嘘をついている。まず、一つ目の日本のメディアの嘘を私は見抜いたと考える。

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   面白かったのは、寧ろ米国大使館前の警備の方が物々しかったことである。日本大使館と米国大使館は近いため、私が「ついでに」米国大使館前へ行って写真を撮っていると、五、六人の警官が走ってきて私を取り囲んだ。かなりピリピリとしたムードで次々と声をかけてくる。「何を撮った?」と多分聞いたのだろう。マズイことになったと私は思った。本丸でもなんでもないところで面倒に巻き込まれたのである。唯一一人の警官が英語を話した。まず、撮った写真を確認させろと命令され、しきりに観光客かと尋ねる。私がそうだと言うと同時に彼らは私の撮った他の写真までチェックしだした。最終的に他の写真は観光的なものであったため、「なんらかの」疑いは晴れ、警官たちの緊張した雰囲気は一気に解けた。英語を話した警官が丁寧に「申し訳ないが、ここは大使館の安全のために写真を撮ることが許されないのだ」と私に告げて、そっと私の肩に手を置いた。しかし私とて素人ではない。実際警官らに示したのと別の携帯で保証のため大使館の写真を撮っていたので、それは見つからず消されずに済んだ。

   とにかく、日本大使館前よりよっぽど米国大使館前の方が「怖い」場所だったのだ。

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   ここで不買運動についても触れておこう。韓国内で日本の製品があたかも総スカンを受け、売り場から取り除かれているような報道が日本国内のメディアにおいては散見されたが、結論を急ぐと、それも誤り、嘘八百である。私の入った全てのコンビニにおいて、キリン、アサヒ、サッポロ、サントリーのビールが他の外国のビール同様に売られているし買われている。また、缶チューハイの「ほろよい」すら販売されているし、日本の酎ハイをわざわざ模造したような日本語で記載のある酎ハイ的なアルコールも売っていて売れている。私が確認のために入店したダイソーはどこも客で満杯であったし、ソウル駅のロッテマートの衣料品売り場においてだと、そもそも衣料品売り場自体に客がおらずユニクロも無印も不買運動がゆえの客の少なさとは考えにくかった。そもそも客が少ないのである。そういった具合で不買運動の確固たる証拠を得ることはできなかった。

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   月曜日頃になると、ソウルにおいて寧ろ「反日」を探す方が難しいということに気がつき始めた。というか、「反日」が見つからないのである。これではネタにならんなと私は苦笑していた。すべての場所で日本人とバレても嫌な顔をされない。寧ろ丁寧な対応すら受ける。第一街人しかり、入店したすべての飲食店、入国管理官、商店、美術館、観光案内所、カフェ、どんな場所でも対応も反応も極めて普通であった。

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   ゲストハウスで同室となり仲良くなった休暇中の韓国人の二十代前半の徴兵中海軍兵曰く、「全ては時が解決する」とのことだった。というのも、韓国の現政権は中国と北朝鮮寄り(韓国で言う左派)で若者からの支持が薄く、寧ろ嫌われており、結局のところ政権が変わってしまえば問題も解決してしまうだろう等と言う。韓国人はそもそも様々な理由(マナーの悪さ等)から日本人より中国人に現在嫌悪感を感じてもいるとも言った。今回の徴用工問題も正直一般の韓国人はどういう意見を持つべきなのかよくわかっていないとも彼は述べた。個人的に大変親切な日本人の友人もいるし、更に若者たちは特段日本に対して反感は持っていないのが現状と彼は説明してくれた。彼が繰り返したのは、この現状の問題はかなり一時的なもので、政権次第で変わるだろうということだった。日本人の我々はそこまで事態を読めているだろうか。彼と話し合い、自分の視野の狭さを私は少し恥じた。

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   青空大衆酒場で出会った韓国人の五十代の建設業海外在住の男性も同様に「これは時が解決する」と述べた。そもそも民衆間の問題ではなく、徴用工だった人がどう主張するかは知らないが、これは政府間の問題でそれを我々の問題にすべきでないし、私にはソウルで楽しい時間を過ごして欲しいと彼は言った。

   但し、一種の「反日」の煽りを行なっているのが日本のメディアだけと言うのは誤りである。韓国内のメディアも煽っている。左派系新聞のソウル新聞は七月二十六日付で「学校で、自治体で、夜火のように広がるNO JAPAN」という記事を二面に掲載しているし、日本旅行へ行くというのはなかなか公衆の面前では言い辛い状況にあると二十代の商社勤務の女性は述べた。だが、実際、例えば沖縄へ旅行へ行っている韓国人は現在も言わないだけで多く、飛行機は週末だと満席に近いという。そして記事の写真に載っていた「NO JAPAN」というステッカーも私が訪れたいかなる場所でも貼られていなかった。両国のマスメディアは民衆の印象操作に躍起になっており、少なくともそれが少しは成功しているのが現状だ。その現状を「叩く」ために私は敢えてこの記事を書いているわけで、マスメディアの嘘が無ければ書くまでもなかったのだ。

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   ゲストハウスでもう一人話した日本人で現地の状況に詳しい方がいた。五十代ほどの関西出身の男性で、彼も「反日」を感じることは無かったと述べた上で、日本政府への反対運動は私がソウル入りした土曜日にソウル市庁前の広場で行われていたという。但し、その運動もニュアンス的に複雑なものとなっていたらしい。その反対運動の中で一人の日本人男性が目隠しをした上でフリーハグの活動を展開していたというのだ。私の話した男性は、そのフリーハグをしていた男性とたまたま別の場所で出会って話したということで、その活動は韓国内のニュースにも取り上げられて、反対運動自体が日本や日本人そのものへのではなく、日本「政府」へのものへという意味合いを強くしたらしい。先ほどの商社勤務の女性も語っていたが、あくまでも韓国内のメディアが報じる反感は安倍政権に向いたものであると考えてよく、その余波が「反日」傾向の報道も生む結果となっているということだった。

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   これがソウルの実際だった。私が片言の韓国語をなんとか喋ろうとすると、「すごいね」と突然道端の人に声をかけられたり、下町の食堂のおばちゃんが多分唯一知っているのだろう 日本語である「おいしい?」と声をかけてくれたり、私の、報道を信じる限りで「反日」であるはずの、首都ソウルの中を這い回って見て感じた現実というのは、日本の、もしくは日韓両国のメディアが報じるそれとは、以上の通り、真逆のものであった。

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   言い切ろう。我が国のテレビ、ネット、新聞、マスメディア、マイクロメディア、これらすべては「媒体」ではなく、「曲解」である。それは光を通す窓ガラスではなく、わけのわからない方向へ光を捻じ曲げ乱拡散させるプリズムだ。非常に不気味で、同時に、大変魅力的な光を私たちの瞳孔に注ぎ込む得体の知れない物質だ。まったくもって危険でしかない。どんなメディアであってもその危険が根を張り蔓を伸ばしている。

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