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シロクマ文芸部

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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加させていただいた作品をまとめています。
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記事一覧

色とりどりのメシの種【第二話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第二話】 #創作大賞2024

子供の日って子供が働く日だったっけ。
むなしい自問自答。

俺は一緒に行きたいというユイに留守番を命じて、ひとりで放火魔の両親の家に向かった。
少し緊張してインターフォンを押す。

「はーい」

「あ、すみません、『何でもヘルプ屋マツダ』です」

「あ、はーい」

優しそうな女の人の声で安心した。
玄関のドアが開いて60代くらいの女性が出てきた。
マツダに言われた通り、挨拶をする。

「こんにちは

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誰かの夢を見た話 #シロクマ文芸部

誰かの夢を見た話 #シロクマ文芸部

春の夢と間違えて誰の夢を見ているのだろうか。

朝からカツ丼を食べさせられた。
カツ丼は好きだけど朝からは胸焼けする。
勘弁して欲しい。

スマホを観ながらゴロゴロする。
たまに動画で大笑い。
そんなに面白い?
でも今は大笑い。

動きやすい服装に着替える。
ああ、サッカーをしに行くのか。マジか。
もう少し寝ていたいのだけど。
行くのね?はい。

友達がいると思ってサッカーをしに行ったのに誰もいな

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花吹雪にとらわれた男 #シロクマ文芸部

花吹雪にとらわれた男 #シロクマ文芸部

花吹雪の映像をずっと観ている。
桜が舞い散る様子は観ていて飽きることがない。
観るようになったきっかけを誰かに話すつもりはないし、その必要もないだろう。生きている限り、この映像を観続ける。ただそれだけだ。



「いい加減、吐いたらどうなんだ!」

取調室に若い刑事の怒号が響く。

「おお、怖い。でもカッコいいね。そういうセリフ、俺も言ってみたいよ。ところで今日の昼メシは何?昨日のカツ丼うまかっ

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風車探偵 #シロクマ文芸部

風車探偵 #シロクマ文芸部

風車を手に持ち、息を吹きかけてクルクルと回しながら、その探偵は現れた。

「皆さん、お待たせしました。犯人が分かりましたよ」

陸の孤島の古い屋敷に集められた男女五人。
彼らはみな、屋敷の当主から招待状をもらったと言ってやってきたが、奇妙なことに屋敷の当主は招待状など送っていないと言う。
五人の中には「当主が嘘をついているのではないか」と疑っている者もいたが、「せっかく来られたのだから今日はお泊ま

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いつか変われたら #シロクマ文芸部

いつか変われたら #シロクマ文芸部

変わる時を待っている。
ずいぶん長い間。
誰にも言ったことはない。
親にも。
愛した人にさえも。

教えてくれたのは祖母だった。
最初は信じていなかった。
荒唐無稽過ぎたので。

毎日、豆を食え。
体質が変わるまで食え。
豆腐とか納豆は駄目だ。
素の豆を食え。
しばらく続けていると、豆しか食べたくなくなる。
そこまで続けたら後は欲望のままに食え。
できるか?

全くできる気がしなかったが、「できる

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次の始まりを待つ #シロクマ文芸部

次の始まりを待つ #シロクマ文芸部

始まりはいつだったんだろう。
気がついたらここにいた。

優しい人が二人いて、いつも私に微笑んでくれた。
二人の笑顔が大好きだった。
二人の笑顔が見たい私は、嫌なことでも頑張った。頑張って大人になった。

大人になった私を「好きだ」と言ってくれる人が現れた。
全く信用できなかった。
結構いたから、そういう人。
でも、言葉だけでなく、ずっと思いを伝えてくれる人がひとりだけいた。その人を信じることにし

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桜色のロケット #シロクマ文芸部

桜色のロケット #シロクマ文芸部

桜色のロケットがどこかの国で打ち上げられた。
人々はただ桜色のロケットが上昇し、地球の外に出ていく映像を見せられただけ。

「これってどこの国?」
「目的はなんだろう?」
「どこまで飛んでいくのかな?」
「危なくないの?」
「でも、桜色、きれいだね」
「なんかちょっと面白そう」

数ヶ月後、今度は水色のロケットが打ち上げられた。

「また?」
「どこの国か、まだ分からないの?」
「やめさせた方がい

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朧月夜の告白 #シロクマ文芸部

朧月夜の告白 #シロクマ文芸部

朧月だったな、そう言えば。



まさみさんとはアルバイト先で出会った。

そこそこ人気のあるレストランで、まさみさんはウェイトレス、僕は皿洗いをしていた。

まさみさんは明るくて誰とでも屈託なく話すのでお客さんの受けも良く、人気があったのだが、人見知りで黙々と皿を洗う僕にも声をかけてくれた。それだけじゃない。いろいろと気にかけてくれて、何度も助けてくれた。

僕は不思議で仕方がなかった。だって

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母の卒業、私の卒業 #シロクマ文芸部

母の卒業、私の卒業 #シロクマ文芸部

卒業の気配は感じていた。
けれど、何もできなかった。

ウチはこの町でそこそこ人気のある食堂を営んでいる。まあまあ有名な中華料理店で十年働いた父が独立して始めたそうだ。

母は料理の勘みたいなものが優れていて、父の技を見よう見まねで盗んでしまったらしい。母曰く、「チャーハン以外はあの人より美味しく作れる」そうだ。

父は私が高校生の頃に他界してしまい、私は自然と店を手伝うようになった。母は人にモノ

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春とどうでもいい男達 #シロクマ文芸部

春とどうでもいい男達 #シロクマ文芸部

「春と風」と聞いて鼻がムズムズしていたところに、目の前の男の間抜け面を見たら弛緩してくしゃみが出た。

くしゃみの飛沫をモロに顔に浴びた男は怒って、私の鼻にジャブを放つ振りをしたが、ジャブは私の鼻にクリーンヒット。
鼻血が出た。

こうなるともう止まらない。
私は鼻血を垂れ流しながら男に抱きつこうとした。

男は一瞬ひるんだが、後ろ回し蹴りで私の右太ももを蹴った。私はバランスを失い、うつ伏せに倒れ

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閏年の祖母との会話 #シロクマ文芸部

閏年の祖母との会話 #シロクマ文芸部

閏年が好きだ。
大好きだった祖母と話ができるから。

父と毎日仏壇に手を合わせるのだが、命日の二月二十九日だけ、祖母と会話ができるのだ。そんな気がするだけかもしれないが。

初めて声が聞こえた時はびっくりして父を見たが、どうやら父には聞こえてないようだ。なんだか申し訳ない気がした。息子である父には聞こえず、孫の私だけ聞こえるなんて。

「夏美、立派になったわね」

(え、おばあちゃん?おばあちゃん

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