その音楽 言葉 世界


その音楽は必要な時に現れて
何時の間にか 消えていく
マニダイテル

その本は
読まなければならない時には
書き物机の上にあり
そのうちにいくら探しても出てこなくなる
モデコナクピナコテーク

その絵は
ある朝はっきりと夢の中に形を表し
しばらくすると
いくら思い出そうとしても
思い出せなくなる
タセナキスクセナキス

向こう側に消えていく
プラス電子のように
人類と自称する
妖しい者たちは
それを
こちら側に残そうとした
重力に逆らって

そうして
言葉が生まれた

つまり
言葉とは反重力のことである
言葉は現象や記憶を
重力に逆らって
無理やり召喚する
それはロマンティシズムと呼ばれ
命をかけるにふさわしいものとされた
そのころはまだバランスが取れていた

そのうち
人類は
命が惜しくなり
あの世の重いドアを開けるための
鍵/やっとこを
言葉の数を
増やし続けた
それらは
量子レベルで
数え始める

本当は
そんなことをせずとも
彼らは
現れなければならない時に
現れる
あの世から
トンネルを抜けて

無理やりこの世に呼び戻され
自分が何者かもわからないままに
泳いでいる
浮かんでいる
目隠しされた、闘牛場の牛のように
屈強な戦士が強い痛みで暴れるように
出産妊婦が力むように
血だらけの言葉を
産み続け
そしやって
人類は増え続けた
結局
増え続けた

言葉が
彼らをこちら側にどんどん吸引している
それは加速度的に終わりを早める
終わりと言っても
まあ
元の状態に戻るだけで
淀みの泡沫の運命となんら変わらない
そして合理性では
どうもならない
理性の敗北
言葉は完敗する

そうこう言っているうちに
時はすぎる
こうやって記述している間にも
得体の知れない
こだまや
雲や
イマージュが
怪物とともに現れる
それを全て記述するのは無理なのだ

ようこそ怪物くん
またあったね
君は挨拶する

怪物くんは
そんなこと お構いなし
君の心臓をえぐって
食べてしまうだろう

君はそれをわかっていて
そこにいる

梅雨の前
雨上がりの朝
海もないのに波の音
ジワジワ攻めてくる気ケケケ
昨夜の家族の涙 おろおろ


羽虫
小鳥の囁き
タオルの感触
アントニオカルロスジョビン

おはよう世界

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