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「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティ)

アガサ・クリスティについての思い出を語ろうとすると、中学生時代に遡ります。ちょうどその頃、NHK衛星第2で、彼女の小説をもとにして制作された英国のTVドラマを放映していました。
これがまた、時代考証がきちんとされていたのか、曇った英国の雰囲気満点で、登場人物の纏う服装も英国紳士で、その状況で発生するミステリーとその謎解きの秀逸さに、とたんに大ファンになりました。

TVだけでは飽き足らず、早川文庫で小説を読み始め、今では、ほぼ全作読んでいます。

彼女のミステリは、モンティパイソンが次世代のお笑いに多大な影響を与えたように、あらゆるミステリの本流とも言えます。今読んでもその独創性には唸るばかりです。

そこで青春時代に読みふけったアガサ・クリスティのミステリを少しずつご紹介していこうと思います。

まず初回は、この歴史的大傑作から!

「そして誰もいなくなった」

絶海の孤島が舞台のミステリー

1939年、スペイン内戦が始まった年がこの作品の舞台です。

この時代、通信手段は少なく、航空機路線も発展していなかった。そんな時代の孤島は、まさに俗世間と隔離された別世界だったのでしょう。

この孤島は、デヴォン州の兵隊島(この兵隊島は架空と思います)

↓、デヴォン州の位置


↓のような場所らしいです。この画像の奥の方に絶海の孤島があった。。という具合でしょうか。


通信手段、交通手段がないので本格的な意味での絶海の孤島、、、さて、ここでどんな事件が起きたのか。

ミステリー界の金字塔

事件の詳細の前に、このミステリーがなぜすごいといわれているのは、その物語の面白さも、もちろんのこと、以下の要素もあったのではないかと。

1、人間心理を使ったミステリー
2、クローズドサークルの先駆け
3、ネイティブアメリカンの人形を使った見立て殺人

1、人間心理

ミステリーの世界では、これまで、あの手この手で、トリックが紡ぎ出されてきました。蓄音機をつかったり、秘密のギミックのある建物などなど、、、。

その流れの中で、心理的な側面をトリックまたは、事件解決に使うものも増えていきました。

たとえば、、


ある探偵が真相にたどり着く、でも断定するには至らない。ではどうするか。大きな鏡の前に、容疑者を含む関係者を集めて見事にトリックを解明してみせる。そしておもむろに振り向く(鏡の方を向く)。そこで何をしていたか。彼は、関係者全員の表情の変化をみていたんですね。トリックを言い当てられた犯人のみ表情が青ざめていた。。。
さらに、記憶の中に埋もれていた事件解決の種、、、というのもありましたね。


ある人物がとある家に引っ越してきた。その家の壁紙を見た瞬間から、何かが記憶の底から沸き起こってくる。。。が、なかなかそのイメージは具体化できぬまま時間が過ぎている。。ある日、シェイクスピアのマクベスの舞台を見に行く。そこのワンシーン(血まみれで横たわるシーン(だったと思います))。。。これが記憶の具体化のきっかけであり、その記憶が犯人確保につながっていく。(惨劇を目の当たりにしていたんですね。その時の部屋の壁紙が、引っ越し先の家の壁紙と同じだったという、、)
こんな心理的な変動をトリックに用いたミステリーの最高峰がこの「そして誰もいなくなった」と思います。

2、クローズドサークル:絶海の孤島
3、見立て殺人

この2点は、併せて。

ストーリーのプロットが秀逸ですね。
絶海の孤島(通信手段、交通手段がないので本格的な意味での絶海の孤島)に、集められた10名の男女。集めた差出人は同じ人物。島にたどりつくと、各部屋にとある人形が置かれている。集めた張本人は不在。怪訝な雰囲気の中、夕食の食卓につくと、どこからともなくテープレコーダーの声が。その声は、10名の犯した過去の法では裁けない犯罪行為を告発するものだった。そして、、、一人また一人と殺害されていく。。その都度、部屋の人形の数が減っていく。。。。絶海の孤島故、だれもそこから逃げられない。。

これだけで名作の予感です。

この作品は映像にもなっていますが、多分、本で読んだ方が、本来のすごみを味わえるのではないかと思います。(オリエント急行とかも本で読んだ方がよいです。たとえばオリエント急行の三谷幸喜バージョンは、本を読んだ後に見ると、とても面白く見ることができます。原作(元ネタ)を知っていればこそですね)

本作の犯行のきっかけと、ポアロのラスト作との類似性


この小説の裏のポイントは、法で裁けない犯罪行為の存在。。。でしょうか。これは後年の「カーテン」という作品の背景でもあります。→書かれたのは初期ですが、出版はずっと後になってから。このあたりは、また書きます。

通信手段、交通手段も未発達であり、DNAなどの科学的捜査や電子的手段(監視カメラ)も未発達だった時期。想像する以上い、こういった犯罪行為があったのでしょう。

「そして誰もいなくなった」では、犯人はある意味彼の生来の性質(言ってしまえば異常者)によって、法では裁けない軽犯罪者に対して、その矛先を向けたわけです。ある意味、犠牲者は異常者の異常な嗜好にはまってしまったといえます。

実は、アガサ・クリスティの生み出した、灰色の脳細胞の名探偵エルキュール・ポワロの最終作「カーテン」も、この法で裁けない犯罪者がテーマとなります。こういった犯罪に対峙した名探偵がとった手段とはどういったものなのか。「そして誰もいなくなった」の犯人がとった、ある意味利己的な行動と照らし合わせてみても感慨深いものがあります。なぜ「カーテン」というタイトルなのかも。。。

1939年という世界がまだ美しかった時代


1939年という、、まだ、全世界が災厄に包まれる以前の「ベルエポック」(美しい時期)。その名残と雰囲気を十二分に感じることができるミステリーです。

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