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【短編小説】掌編とか短編とか超短編とか

 同じ物事を指す複数の言葉がある。日本語と英語どちらでも言われるけれど同じということもある。
 たとえば「水を飲む時の器」。「コップ」「カップ」「湯呑」「グラス」どれも当てはまる。「湯呑」は漢字二文字か「湯呑み」かで揺れるし「湯飲み」の場合もある。カタカナはアルファベット表記もある。
 その言葉や文字の選択がセンスを表す場合もあるが一般的には揺れるのは色々と面倒らしい。
 いわゆる類語といわれるものだ。

「そう、シソーラスね。」

 インターネットの商売を長くやっている先輩が面倒くさそうに話す。

「たとえば漫画やイラスト、アニメだと『めがね』『メガネ』『眼鏡』なんてキーワードがよくある。指している物体は、視力を補正する器具で、ファション性もあり、キャラクターの特徴になっていて、世界観や設定に結びついてる。なので表記が違うとファンにとっては駄目なわけ。こだわりがすごいと『なんでカタカナのメガネでないのか?』なんてことで揉めたりする。その一方でライトな人は言葉が一致しなくてなかなか見つけられなかったりする。眼帯さえメガネと混同されたりね。眼帯とメガネは違うけど、そういう人もいるわけ。」

 ショッピングサイトや情報サイトで「水を飲む時の器」にたどり着く為に検索する言葉は何になるかという問題は、いくら言葉のセンスを見せようとしたところで、ユーザーがたどり着けなければ意味が無い。

「最近はハッシュタグを使うだろ?そうなるとメガネの表記違いでハッシュタグが複数できるわけよ。トップページの『あなたへのおすすめ』で『めがね』『メガネ』『眼鏡』が別々のリストで出るわけ。それは本当に便利な機能なのか、なんて思うけど、それでなんとなく多くのサイトが回ってるんだよね。なんだろうねって思うわけ。」

 そこまでいくと言葉を選ぶセンスとかじゃなく、ユーザー個人のこだわりと、その他の多くのユーザーのこだわりが混じり合った何か、みたいな話になってくる。
 単なる類語なんて話では済まない。

「シソーラスって話じゃもう無いよね。」


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