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【短編小説】有能な女性行員

「27番の番号札でお待ちのお客様、3番の窓口までお越しください。」

 自分の番号がアナウンスされたので脇に置いたカバンを手にソファから立ち上がる。指定の窓口では手を上げて女性行員が笑顔でこちらを見ている。

「お待たせいたしました。本日はどういったご用向きでしょうか。」
「週末から孫が二人で遊びに来るので小遣いを渡そうと思ってね。いくらかまとまった現金をおろそうと思いまして。」
「かしこまりました。それではお通帳とご印鑑と、それと依頼書にご記入をお願いします。」

 パーテーションの向こうから依頼書をのせたプラスチックのトレーが差し出される。依頼書に必要事項を記入して通帳と印鑑をのせてトレーを戻す。
 ATMで現金が引き出せることは分かっているが、どうにも機械を操作するのは味気なく、できるだけ窓口を利用するようにしている。
 窓口でも事務手続きなので素っ気ない面はあるけれど、それでも人間とやりとりをしているという感覚があるのは大事だ。

「ありがとうございます。3分ほどお待ちいただきます。短い時間ですがソファでお待ちいただくのであれば番号でお呼びいたします。」
「それであれば、ここで待たせてください。最近は立ったり座ったりが億劫でかなわんのです。」
「そうですか。それではお手続きしますので、そのままお待ち下さい。」

 女性行員は私の書いた依頼書と通帳を手に作業を進めている。仕事の邪魔をしてはいけないと思いつつ話しかけてしまう。

「やはり今は現金より電子決済のポイントをあげた方が喜ばれるのかな?息子に聞いたら毎月の小遣いはそういう風にしているみたいで、それに合わせた方が良いんだろうかなんて考えたけど、大人になって、おじいちゃんからもらうのは現金だったなあって思い出してもらうのも良いかなって。」

「おまたせいたしました。すべて新札でご用意させていただきました。ご確認ください。」
 笑顔で通帳と印鑑、現金と封筒、銀行がやっている電子通貨の案内をのせたトレーが戻ってきた。
 金額を数えて封筒にいれ、通帳と印鑑と一緒にカバンにしまう。

「お小遣いなどでポイントを使われる方は当行でもご利用者の半数以上であるという調査結果がございます。もちろん数が多いからといって必ずそうする必要はございませんが、他にも便利な機能もございます。パンフレットをお読みになって、もしよろしければ、窓口でお申し込みいただければと思います。」
「分かりました。もう随分と進んだものですね。パンフレットを見て検討してみます。どうもありがとう。」
「本日はご利用いただきありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」

 銀行窓口は気の利いたやりとりができるところが良い。今日も収穫があった。ポイント利用、食わず嫌いしていたけれど考えて見るのも悪くない。


プレスリリース

 アアアア銀行は来月1日より国内の全店舗で窓口業務を無人化する。
 イイイイ社のCG技術を使ったバーチャル行員とウウウウ社のAI技術を利用した会話ロボットを使い無人窓口に切り替える。
 業務効率化の一環として昨年4月より一部店舗で試験運用していた無人窓口の評価を終え、来月より全店舗に展開することを決定した。

 窓口は全面液晶パネルでCG表示されるバーチャル行員が受付を実施する。背景のオフィスもバーチャル映像とする。
 設置したカメラとマイクを使い顧客の行動と発言を認識し、AIが分析した上で処理を実行、合成音声での案内と受け答えを行う。会話ロボットのAI機能を使って業務外の簡単な会話も対応する。
 通帳や書類のやり取りは自動走行トレーを介して行い、今までの有人対応と遜色の無い窓口業務を継続することを目指す。

 人員は非常時対応のために数人の案内補助係が待機するだけにとどめ、人件費と管理コストの削減と顧客満足度の向上を目指す。


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