企業が進める”戦略的人事””タレントマネジメント”には【従業員視点】が欠けている

私は、現在社会人9年目の34歳です。そのうち数年間、人材育成・組織開発の仕事にも従事してきました(本来やりたい仕事はそういう仕事なのですが、思うようにいきません…)

近年、”戦略的人事””タレントマネジメント”といった言葉が人事領域ではよく聞かれますが、人材を活用することを目的とした施策の中で、『人材配置』に関しては未だに「会社都合・会社の力>個人都合・個人の力」という構図が存在し続けていることに大きな疑問を感じています。

特に、会社側の意図と従業員側の希望の間にミスマッチが生じることで、従業員のモチベーション低下に繋がることに強い懸念を持っています。全くもって、”適材”を”適所”に配置できていないのではないでしょうか。

私自身、これまでずっと会社員として会社組織に所属する形で働いてきましたが、新卒一括・総合職採用を温床とする所謂「配属ガチャ」をはじめ、会社都合による人材配置(配属)のミスマッチが原因でモチベーションが上がらない状態が続いてきました。また、同様の原因で会社を辞めていく同僚の方々も多く見てきました。

会社として、組織として、目指したい方向(ビジョン)や目標があり、それを実現するための戦略の一環として人材配置があるとすれば、会社目線での効率的・理想的な人材配置があることは当然理解できますが、従業員目線としては希望しない配置に不満がある場合、モチベーションも上がらず成果を出すこともままならないかもしれません。結果的に、組織としても成果を最大化することができないのではないでしょうか。

つまり、組織として成果を最大化するためには、各個人(従業員)が成果を最大化している必要があり、各個人が成果を最大化するための重要なファクターの一つであるモチベーションを左右する”配置・配属”というのは、会社都合だけで決められるべきではないと考えています。

先天的な自分の出自(生まれる国・地域・家庭環境・性別などの属性含む)は選択できないという究極の不平等がある中で、誰しも懸命に生きていかねばならないのが人生だと思いますが、会社の中での配置・配属については後天的に生じるものであり、個人一人の力だけでは解消が難しくても、社会的には解消可能な不平等であるはずにも関わらず、特に日本においては、未だにこうした不平等が横行している現状はおかしいと感じています。

上記のようなミスマッチ・不平等を是正するために、採用する企業が増えているのが「ジョブ型雇用」という雇用形態かと思います。予めジョブ(=会社が従業員に期待すること)が明確に決められており、それを忠実に実行できたか否かが人事評価の対象となるということで、従業員側にとってはモチベーション低下に繋がる要素が無い制度なので、個人的にはこの制度がもっと普及することを期待しています。

「ジョブ型雇用」が完全に普及するまで、あるいは普及した後であっても、会社都合での人事異動・配置転換というのは引き続き存在すると思います。今回は、そのような会社都合での人事異動・配置転換を行う際に、会社側が考慮すべき従業員にかかる要素について私の考えを述べたいと思います。


人材活用に必要な要素

会社都合で人事異動・配置転換を行う際には、従業員視点も踏まえて、以下3つの要素を考慮する必要があると考えます。

①従業員が、組織(会社・所属部署)に対しどの程度エンゲージメントを持っているか

②従業員が、業務を遂行するために必要なスキルをどの程度持っているか

③従業員が、(自身が所属する部署の)業務を遂行するためにどの程度モチベーションを持っているか

上記①~③の全てが「高い」人材が、その会社にとってのハイパフォーマー(優秀人材)になるポテンシャルが高いため、会社としては各従業員にとってこれら3つの要素が「高く」なるような施策(人材配置含む)を行う必要があると考えます。特に、人材配置を考える場合には、建前では無く真の意味で従業員個人の意向を必ず確認し、従業員のモチベーションが最大化される環境(部署)に配属することが必要です。

例えば、先ほどの「配属ガチャ」のケースを考えてみたいと思います。とある会社に新入社員が2名、Aくん・Bさんが入社してきました。入社してすぐは2人とも「この会社で活躍して、社会に貢献したい!」と高い志を持っており、①会社へのエンゲージメントは「高」です。また、まだ業務経験は無いので2人とも②スキルは「低」です。そして、Aくんは入社前から希望していた部署に配属が決まったので③モチベーションは「高」、一方Bさんは希望とは違う部署への配属となったため③モチベーション「低」です。この場合、AくんとBさんが出す成果は、Aくんの成果>Bさんの成果、となります。

仮に、Bさんも希望通りの部署に配属されていれば、③モチベーションが「高」になるため、Aくんの成果=Bさんの成果となります。また、新入社員全体の成果=Aくんの成果+Bさんの成果なので、新入社員全体の成果(ひいては、会社全体の成果)も、この場合の方が大きくなります。

従業員の働くモチベーションを最大化するためにも、「本人が好きなこと・やりたいことをやらせてあげる」ということが重要であることは、かくも一目瞭然であるはずなのに、なぜ現実には実現していないのかが謎です…

動機付けの研究でも、金銭や賞罰といった外発的動機付けよりも、興味・関心といった内発的動機付けの方が効果は長期に継続するという結果が出ています。”戦略的人事””タレントマネジメント”という人材活用施策を考える場合、人材配置においては従業員個人のモチベーションをいかに最大化するか、という観点を忘れてはいけないと思います。

仮に、特定の部署の人気だけが高くなったり、逆に低くなってしまうような場合は、先の外発的動機付けや他の要素によって調整可能です。例えば、「人気のある部署の給与は、人気が無い部署の80%にする」「人気のある部署で求められるスキルレベルを、他部署に比べて高い水準に設定する」などによって調整できます。なおこの場合、旧来の日本企業のように入社年次によって年功序列で賃金水準を決定するのではなく、ジョブ(職種)や役割別に給与水準を設定することが必要になります。

会社・組織が戦略的人事、タレントマネジメントによって人材活用を企図し真の意味で”適材適所”を実現したいと考えるのであれば、これまでのように会社視点だけで人材配置を決定するのではなく、上記のような従業員視点の要素も考慮する必要があると思います。言葉の上だけでの”適材適所”ではなく、全ての人材がそれぞれの個性を活かし(適材)、それぞれの生きる場所(適所)で能力を発揮することで、社会全体の豊かさが最大化されるような世の中が実現することを願っています。

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