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年末年始の過ごしかたの話

【実家での年末年始の過ごしかたが決まっていることを話しているだけの雑文】

 これほど過ごしかたが固定している数日間もない。年末年始の話である。

 年末年始だとかお盆だとか、家族で過ごすことの多い期間というのがあると思う。
 いつの頃からか、我が家は年末年始の過ごしかたが毎年ぴたりと固定化している。

 まず12月31日である。私がこの日に帰省していれば、母と一緒におせちの準備をする。恐らくもう10年以上、我が家で伊達巻きを焼くのは私の役割である。母は「萌葱が帰省しないなら伊達巻きは買ってくる」とまでのたまっている。まあ確かに、焼き具合の面倒をつきっきりで見たりと手間が掛かるので、手が1人分無ければ作りたくないというのは本音だろう。私が伊達巻きひとつ焼いている間にあらゆることをこなしている母のほうがよほど凄いのだけれど。

 夕方、軽めの年越し蕎麦を食べる。海老天を載せたかけ蕎麦だ。
 そのあと始まる紅白歌合戦を見ながらお寿司をつまむ。このお寿司を近所のお店まで引き取りにいくのは父の役目である。
 学生時代などは、紅白を最初から最後まで通して見たいからと勇んで早めにお風呂に入ったものだが、最近はそこまでの執着はしなくなった。ただなんとなく、紅白序盤の間には済ませるリズムになっている。習慣には抗えない。

 途中のニュースを越えて後半に入った頃、おもむろに、みんなでハーゲンダッツのアイスクリームを食べる。高いとはいえ日頃でも買える程度の贅沢品ではあるはずなのだが、なぜだか我が家でハーゲンダッツを買うのはこの日だけである。たぶん、一種の行事食なのだと思う。
 それにしても、紅白というのは年々お祭りじみていくような気がする。更に言えば、耳馴染みの曲が次第に懐メロ枠に移動していることを感じ、時の流れの残酷さを思う。ポケビとブラビの復活は興奮した。

 紅白が終わると、ゆく年くる年を流しながら新年準備だ。家中のカレンダーを掛け替えたり、鏡餅を飾ったり、しているうちに、0時を過ぎる。
 あけましておめでとう! ――と、お母さんお誕生日おめでとう! が同時である。うちの母は1月1日が誕生日なのだ。

 明けて1月1日の朝は、白味噌のお雑煮と軽めのおせち。そのあと、一家揃って初売りに出掛ける。年によっては私の幼馴染みも同乗して、ショッピングモールまで送ってもらう。両親とは現地解散だ。私は幼馴染みと、あるいはひとりで初売りを物色する。一時期は全力でブランドものの福袋を狙っていたものだが、最近はそうでもなくなった。靴下や小物の福袋を運試しのように買い、幼馴染みと分けあうというささやかな楽しみを覚えた。

 元日の夕食はすき焼きと決まっている。出張の多かった父のマイルが高級牛肉に変わる瞬間である。定年を迎えて再雇用となり、出張も減ったのでどうなるのかと思っていたのだが、まだ向こう数年はありつけそうとのことだ。ありがたいことである。

 1月2日の朝は醤油のお雑煮である。父が白味噌圏、母が醤油圏の出身なのでこのパターンに決まっている。
 昼は我が家で食事会だ。以前は父方の祖父母が来ていたのだが、祖母が亡くなってからは弟一家が来る日に変わった。変わらないのは、大皿に料理を盛るのが私の仕事だということくらいである。

 定型から解放されるのはやっと2日の夜からだ。おせちの残りを食べつつ、ぼんやりと過ごす。この2日の夜に実家をあとにすることもあれば、3日までだらだら過ごすこともある。

 今年は3日をだらだらと実家で過ごした。ちなみに1月3日の朝はきなこ餅と決まっている。
 あまりにやることがなかったのと、年始に災害が続いて気が滅入っていたのとで、ひたすらパズルゲームをし、ときどき福袋開封記事を読み、思い出したように文庫本を1冊読んだ。そういえば、この日に自室の掃除をしていた年もあったような気がする。年始からご苦労なことである。

 実家に帰ると、大抵山ほどのお菓子やらなにやらを持たされる。今回も例に漏れず、お菓子の福袋のお裾分けやらおせちの残りやら余り物の缶詰やら果物やらを貰った。なお我が家ではこの行事を「搾取」と呼んでいる。実態としては正真正銘「譲渡」なのだが、搾取と呼ぶのが定着してしまった。失敬な。貰えるものを貰っているだけである。
 ところで私は帰省のたびにケーキを買って帰るのだが、このスイーツのことは「甘味かんみ」と呼んでいる。なんとなく、我が家において「甘味」とは手土産のスイーツを指しているような気がする。

 今年も、我が家はいつものように始まった。
 残念ながら平穏無事とは言いがたい正月になってしまったが、せめてここからは、少しでも穏やかに過ごせるよう願いたい。

 同じことを同じようにできる幸せを噛みしめながら、「搾取」の品でいっぱいの紙袋を眺める年始である。

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