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雪虫 【掌編】

 おじいちゃんが亡くなった後、おばあちゃんは離れに1人で住んでいた。今なら、息子夫婦と折り合いが悪かったんだなあと、なんとなく分かるけれど、小学校低学年の私には、どうしてそういうことになったのか、全く検討がつかなかった。津軽の豪雪地帯だ。離れでの暮らしは、とても寒かっただろう。おばあちゃんの真っ白な髪を見る度に、私は雪みたいで綺麗だなあと思った。

「おばあちゃんの髪はなんで真っ白なの?」

「どうしてだべね。おじいちゃんはつるっ禿げだったのにね。私は冬が好きだからだべが。冬毛だねえ」

「私も、冬が好きだから、おばあちゃんみたいな冬毛になるべが」

「なるべがねえ。あんまり先のことは気にするな」

── 北海道では、「雪虫」が冬の訪れを告げる。体調5mm前後、全身、綿で包まれたように見えるアブラムシの一種だ。雪のようにふわふわと飛ぶらしく、冬の使者と呼ばれている。今年は、猛暑の影響で、大量発生しているらしい。──

 テレビで雪虫のニュースを聞くと、おばあちゃんの冬毛を思い出してしまう。冬が好きで、真っ白な髪になったおばあちゃん。離れで、一人静かに、とても寒い日に、冬の空に旅立ってしまったおばあちゃん。

 知らせを聞いて、学校から急いで実家に向かった。吐息は白。真っ白だった。
 おばあちゃんの魂が、まだ近くを飛んでいる気がした。

 今年も、津軽に厳しい冬がやってきた。「終」という字の中には、どうして「冬」が棲みついているのだろう。

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