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読書日記その546 「桜の森の満開の下・白痴」


新潟出身の坂口安吾の作品集。坂口安吾の作品に登場する女性は、どれも妖しさを秘めていてどこか影のある女性ばかりだ。とりわけ「桜の森の満開の下」にでてくる「女」は、妖艶と残忍さを併せ持つ魔性が強烈な印象を与える。

しかしボク個人的には「続戦争と一人の女」が印象にのこる。戦争が題材の作品はだいたい戦争の悲惨さをものがたるものだか、本作の主人公の女は戦争をよろこぶのだ。これがおもしろい。「夜の空襲はすばらしい」「みんな燃えてくれ」「そして私の憎しみも燃えてくれればいい」と心にさけぶのだ。

ボクが20代前半によく遊んだ友人をふと思い出した。そいつは仕事がうまくいかず転職を繰り返していて、ボクは毎日のようにそいつのグチを聞かされていた。

そんなときに阪神淡路大震災がおきた。そいつはニュースを見てひと言もらした。「新潟にもこんな地震が起きてくれればいいのに」。なんで?と聞くとそいつは「明日から仕事行かなくていいから」と答えた。みんな無くなってしまえばいいというのだ。

そのときは笑い話となったが、おそらく一定数の割合で、戦争が起きてくれたらいいのに、と真面目に考える者がいるだろう。戦争が起きれば、逃れられない人間関係から開放される、多額の借金がチャラになる、苦しい生活が自分だけでなくなる、なんなら自分もそこで死ねたら。

坂口安吾の作品は、そんな人間の奥底にある暗の部分をえぐるように描く作品が多いように思う。とりわけ「続戦争と一人の女」は、女性という生き物は、愛するものの前では、もしかすると戦争すら楽しんでしまう生き物なのでは、と錯覚してしまうくらいの迫力だ。そしてどの作品もとても読みごたえがある。


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