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使いさばき

 眠れない。でも、小説や評論を読む元気はない。そんなとき、枕元に持ってくるのが辞典類。
適当にページを開いて読む。それだけで、色々な発見がある。小説や評論には前後の文脈があるから、そうはいかない。辞典だからこそできる楽しみ方だ。

 この強みにはネックがある。それは、辞典類は「読み終わる」ということがない点。
 私は蔵書の中から手放す本を選定する際、第一に読み終わっていることを条件にする。そうなるとその時点で、辞典類は手放さない本に仕分けられる。
 辞典類は場所を食う。スペースを回復したいと思えば、辞典類を手放すのが手っ取り早いわけだが、辞典類の魅力が邪魔をして、それを実行することができない。
 辞典類は増えていく一方である。

 近年入手した辞典類の中から、一冊面白かったものを紹介したい。
 東京書籍が刊行する辞典に、『慣用句・故事ことわざ・四字熟語 使いさばき辞典』がある。「使いさばき」……何とも魅力的な五字だ。書店で見かけると、さっそく手に取りパラパラめくってみる。
 本書は、あすとろ出版刊行の辞典類(『慣用句の辞典』『故事ことわざの辞典』『四字熟語の辞典』)から、使用頻度が高いと思われる慣用語句(約3650)を厳選し、感情や場面ごとに配列しなおしている。「使いさばき」というタイトルに恥じない、実用性が高い辞典となっている。

「贔屓の引き倒し
 贔屓とは自分の気に入った者に肩入れしたり助けたりすることだが、それによってかえってその人の不利や迷惑になる場合をいう。」
『慣用句・故事ことわざ・四字熟語 使いさばき辞典』東京書籍、P70)

 引いたのは、「感情」の「贔屓」の項に分類されていた慣用語句。「依怙贔屓」という言葉はよく目にするが、それを「引き倒す」表現があることは知らなかった。
 良かれと思ってする同調や援護が、かえって相手を窮地に追い込むという現象は、SNS時代、頻繁に目にする光景となっている。近年ますます賑わいを見せるファン文化は、時に 歪んだ「推し」の形をとり、批判されるべき場面であっても声援が送られることで、推される対象が更生の機会を失する可能性もある。結果的に、相手の足を引っ張ることになるのだ。

「頭の上の蠅を追え
 他人にたかる蠅を追ってやろうとするおせっかいな人がよくいるが、そんな人にかぎって自分の頭にとまっている蠅に気づかない。他人のことに口出しするよりも、自分のことをしっかりやれという意味。」
『慣用句・故事ことわざ・四字熟語 使いさばき辞典』東京書籍、P107)

 もう一つ、「贔屓の引き倒し」とセットで覚えておきたい慣用語句。
 「政治家の私を批判するなら、まずお前が政治家になってからにしろ」といった類の批判は論外としても、相手の過ちを指摘する際には、まず自分自身がその過ちに陥っていないかを確認することは、とても大切である。自省の一時を持つことで、批判の質も向上するように思える。

 「贔屓の引き倒し」と「頭の上の蠅を追え」。いい言葉に出会えた。



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