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小説『恩讐の彼方に』菊池寛 感想

※感想ですのでネタバレ配慮などはしておりません。
また『恩讐の彼方に』は短編集ですが、今回は表題作のみ取り上げます。


出会い

自己紹介でも書かせていただきましたが、僕はPSYCHO-PASSというアニメ作品が好きです。

その映画版に『恩讐の彼方に』というズバリそのままのタイトルを使った作品があるのです。
その劇中でも菊池寛の書いた『恩讐の彼方に』が登場します。

この映画が本書との出会いでした。
それで僕はいつか読んでみたいと思い続け、先日読了いたしました。

しっかりとした動機付け

恩讐の彼方にだけでなく菊池寛の作品は動機付けがしっかりしているなと感じさせます。

『恩讐の彼方に』では主人公、市九朗が主人の妾と恋に落ち、主人を殺してしまいます。
その後、逃走し、恋人のお弓に唆されつつ罪を重ねていきます。

このお弓があさましく見えるようになり、市九郎が改悛し始める。

この辺りを菊池寛はカットせずにしっかりと描写しています。

作品に厚みをがあるように感じるのは動機をしっかり書くところに起因しているのかなと思いました。

本題に入る前の段階をしっかりかける作家さんなんだなと思いました。

罪を忘れる

さて、人々の為、罪滅ぼしの為、トンネルを掘る僧になった市九郎。
槌を持って一心不乱に作業するうち、犯した罪の事を考えなくなっていく。

こう言った描写がありました。

読んでいると”ん?”とつい思ってしまいました。
忘れちゃうの?と

しかしこれは市九郎へのご褒美なのかもしれません。
人のために何かしようとしても罪は消えないよ。
こう言われてしまうと、改悛したいと思う人が居なくなってしまう。

悔い改めることのメリットとして罪の意識が薄れていくと書いたのかもしれません。
作中では恐らく、トンネルを掘ることに集中し過ぎて過去の過ちを考えていないという事だったと思います。

もちろん市九郎も罪を完全に忘れたワケでは無く、復讐に来た実之助に斬られようとします。

贖罪のメリットと、罪の重さ両方が描かれているように感じます。

理想のエンド

トンネルを貫通させた市九郎と結果的に協力することになった実之助が、互いに喜び涙にむせび合う。

罪人が悔い改め、復讐にきた実之助もそれを許す。
加害者と被害者遺族が和解するエンディング。

一番難しくて、一番理想の終わり方だと思います。

現実でも……。と思わずにはいられません。

まとめ

『恩讐の彼方に』は前述したとおり、短編集です。
他にも収録された作品はあるのですが、今回は『恩讐の彼方に』だけ取り上げました。

というのも、この表題作は会心の出来であるように思えたからです。
文章に力があるなと感じました。

市九郎の贖罪の方法も厳しいものを選んでいてとても良い。
簡単に罪は消えないぞと言っている様です。

50ページほどの短い作品ですが充実した傑作短編だと思いました。

読んでよかったです。
今後はPSYCHO-PASSの恩讐の彼方にと比較して書いてみたいと思います。
本日は以上で終わりです。
読んで頂いてありがとうございました。



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