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裁判に関わった人は、全員敗者(映画「Winny」を観て)

最高裁で無罪になった、プログラマー・金子勇さん。

事件当時、僕は「Napster」を巡る問題にヤキモキしていて。だからあまり「Winny」の事件のことはチェックしていなかった。史実をもとにした映画は、小説やノンフィクションとはまた別の説得力を有している。

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ただこうした映画を語るにあたって、「一方の立場を賞賛しているのではないか?」という批判はつきものだ。

僕自身も、警察や検察側の落ち度に憤りを感じつつも、「物言えぬ立場」として扱ってしまっても良いのかは疑問に感じた。

この疑問は、映画「Winny」の公式パンフレットで、東出昌大さんがしっかりと応じている。

(「実話を映画化することには、事件を風化せないという意義があります」というインタビュアーの問い掛けに対して)映画だから踏み込めるドラマ性がありますよね。風化させない意義がある一方で、この映画は弁護団側からの物語なので、一面的な見方でもあると思うのです。ただ、物事を多角的に見るには、少しずつでも提示してゆかなければならない。中途半端なことをやってしまうと、事実を歪曲させたまま、善悪の二元論だけを押し付けるようなことになってしまいます。壇先生や桂先生は「この裁判に携わった人間は全員敗者だ」とおっしゃっていた。だからこそ、真摯に取り組まないと全然違うものになってしまうと思うんですね。

(映画「Winny」公式パンフレット、CAST INTERVIEW(東出昌大、as 金子勇)より引用、太字は私)

まさに映画「Winny」を観た後で、僕が抱いていた違和感だった。東出さん自身が自覚・理解した上で演じていたようだ。

誰も勝者がいない。

本作で、スタッフやキャストが意図していたことだ。「全員敗者」という鮮烈な言葉を目にして、穏やかに納得してしまった自分がいる。

色々な問題が起きたとき、誰かに責任を負わせたいと思ってしまうけれど、Winny事件は誰が悪者なのだろうか。実は、金子さんを本気でかばわなかった「僕たち」に責任があるのかもしれない。マスコミの風評に流されてしまった、声をあげなかった「僕たち」こそ、金子さんを追い詰めてしまったのかもしれない。(少なくとも、金子さんが逮捕されたことに「おかしい」と声をあげなかったのは事実で。それを今になって、失って初めて痛感しても遅いのだ)

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物語において物足りなかったのは、金子さんのWinny開発時の姿がほとんど映っていなかったこと。裁判を通じて「Winnyを〜〜という思いで作った」という語りはあったけれど、それは後付けの理由なはずで。

もうちょっと軽いノリというか、「シンプルにネットコミュニティに喜んでほしかっただけ」みたいな本心や、開発時の熱狂のようなものも映してほしかった。

いずれにしても、テクノロジー全盛期において、観ない理由はない。特にインターネット業界で働く人は、観ておくべき。金子さんのような先人の困難があった上で、飯が食えている人は多いはずだ。

金子さんのような状態に追い込まれたとき、敗者になることを覚悟の上で戦うことができるか。その問いは、いつも頭の片隅に置いておくべきだろうと思うのだ。

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本作で監督を務めたのは松本優作さん。1992年生まれの若き映画監督で、僕は前作「ぜんぶ、ボクのせい」も鑑賞していた。

正直なところ、前作はどうしようもなく消化不良感があった。

「Winny」を観て、松本監督の真摯さに胸を打たれた。パンフレットにも記載されているように、史実(制作協力をした人たちの証言や、裁判記録など)に忠実に撮られていたからだろう。その辺りをあまりにフィーチャーし過ぎとも思ったけれど、それが松本監督にとっての「ものづくり」なわけで。

誠実な人なんだなあ、という印象を抱いた。

逆に、ある程度の脚色が必要なフィクションを、「面白く」演出できる力があるのかは未知数。それでも、これから松本作品に、僕は期待すると決めた。それくらい「Winny」には、本気度が込められている。

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