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[怪談]倉庫の無縁箱

倉庫業の仕事をするBさんはこの仕事を続けて4年目になる中堅だ。
大学生の頃からバイトでこの仕事をするようになり、大学卒業を機に正式にこの倉庫の正社員となった。
倉庫業とは企業などから商品を一時的に預かり保管し、卸で商品を出荷するタイミングで荷物を倉庫から取り出し、大型トラックに詰め替える仕事だ。
仕事をするにはフォークリフトの免許はほぼ必須となり、仕事上の事故も少なからずある危険を伴う仕事だ、それゆえに給料もそこそこ貰えBさんも金銭的に不自由のない生活を送っていた。

Bさんは勤続4年目ともあり倉庫を埋め尽くす段ボールの大部分はどこに何があるのかといったことは書類を見なくても分かるようになっていた。
それゆえに疑問に思う事も無いわけではなかった。

Bさんの職場の倉庫の敷地は大きく広大で、さらに荷物のラックが何段にもなっている。
例えば明日の何時何分に商品を出荷するトラックが来るからこの荷物を出入り口の付近へ移動しよう、この荷物の出荷は来年の春頃だろうから倉庫の奥の方へ移動する。
そうして倉庫内で荷物を優先度に従い移動させるのだ、なので出し入れの無い荷物も倉庫の中で絶えず移動させるといった具合だ。
その荷物群のなかで4年以上…少なくともBさんが働き出した時から一度も出荷されたことのない荷物がある。
荷物は厳重に梱包された1m四方の木箱で中身を示すような刻印は一切なかった。
その木箱を移動させるときは他の作業員はただ"あの木箱"とだけ指示してフォークリフトで移動させていた。

Bさんも最初の数年はそういう物もあるのだろう…と思っていたのだが、仕事に余裕が出てきたこともあり休憩のとき雑談ついでに先輩にあの木箱について尋ねてみた。
尋ねられた先輩は10年以上その倉庫で働いているベテランなのだが、その先輩もあの木箱の中身については詳しく知らないという。
何か面白い答えが聞けると思っていたBさんは予想外の答えに拍子抜けする。
「じゃあ荷物を管理する帳簿にはどう載っているんですか?荷物を預かっている以上は荷主について書いてあるでしょ?」

その質問は先輩の言葉であっけなく締めくくられた。
「黙って自分の仕事だけしていろ、深くは詮索するな」

何か隠し事をするような先輩の言葉にBさんはそれ以上追求することはしなかった。
しかし倉庫に長年勤めている者たちの間でもあの木箱の事はまことしやかな噂がささやかれていた。
やれ「政治家の隠し資金が隠されている」、「やくざが処分した遺体が時効成立まで隠されている」、「呪いの呪物が封印されている」・・・など面白おかしく装飾された噂話が作業員たちの間でまことしやかにささやかれていた。

そういう中身の分からない荷物が倉庫には保管されていて、何年も倉庫の中をさまよっているのだとBさんは語ってくれた。
話の最後にBさんは思い出したように付け加えてくれた。

「あの箱に関する噂話はどれも眉唾な、酒の肴に面白半分に話すには程度のいい出鱈目話だと思います。
ただね荷物を管理する台帳みたいなものがあってそれを見たって奴がいたんですよ。
台帳にはすべての荷物の情報が書いてありますからね。
台帳にはあの木箱の荷主についても書いてありました。■■不動産っていうみたいです。
ただその不動産屋についていくら調べてもなんの情報も出てこないんです。
しかも不動産屋が1m四方の木箱を何年も倉庫に預けるなんて…。
その不動産屋については住所が書かれていて、若いバイト君が興味本位で見に行って、行ったきり行方不明になっちゃって…
行く前にその住所をストリートビューで調べてみたら■県の山奥で、そこに不動産屋なんかなくてポツンとあるお寺があるだけだったらしいです。」

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