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生涯学習どころか大学の学び全体を底上げする?佛教大学が取り組む、公開講座の学習履歴可視化の意義を考える

ここ最近の学び直し関連では、リスキリングが注目されているものの、生きがいとしての学びも、平均寿命が伸びている日本社会にとっては非常に重要です。今回、見つけた佛教大学の取り組みは、この生きがいとしての学びを活性化させる有効な一手になりそうなうえ、大学教育とは何かを考える良いきっかにもなりそうだと感じました。

公開講座のジレンマを学習履歴の可視化が救う?

プレスリリースの内容は、佛教大学オープンラーニングセンターで、デジタル会員証を配布し、学習履歴を可視化するというもの。佛教大学オープンラーニングセンターは、同大学内にある有料公開講座を提供する組織になります。ここの会員制度の一つに、定額で受講し放題という「定額会員」というのがあるのですが、大学の公開講座だとなかなか斬新なサービスなんじゃないでしょうか。いわゆる、公開講座のサブスク化で、オンライン化が進んだ今だからこそできる、新たなチャレンジなように思います。

……と、いきなり話が逸れてしまいました。今回、取り上げたいのは学習履歴の可視化です。公開講座の学習履歴の可視化は、ものすごくめずらしいかというと、そうでもないのですが、公開講座のもつジレンマを解消するうえで、まずはここから取り組むべきことなのだと感じています。

学ぶ意味を見失いがちな受講者をどうサポートするか

これまで、私は仕事や書籍の執筆(これとかこれ)を通じて、大学で学ぶ定年退職者をたくさん取材してきました。定年退職者の学びと、若い学生の学びにはいろいろと違いがあるのですが、そのなかの大きなものとして、個々人で学びに意味をもたせる必要があるかないか、というのがあります。

若い学生の学びの意味は共通していて、ざっくりと言ってしまうと、未来への投資です。これは、当然のこととして受け止められていて、あえて言及する必要もないし、学ぶことに対して疑問をもつ人もほとんどいません(これを学ぶ必要があるの?みたいな、内容について疑問をもつ人はいますが…)。

一方、定年退職者の場合、全員に共通した“学ぶ意味”というのはないんですね。とくに公開講座は、社会人進学と違って学位が取れるわけでもないので、学ぶ目的は一層不明瞭になりがちです。多くの場合、本人の知的好奇心がモチベーションの源泉になるのですが、長期的に学んでいくと、徐々に好奇心も摩耗していきます。公開講座は一回ないし複数回で完結するものが多く、学んだことを深く掘り下げていくことには限界があるということも、学習意欲を先細りさせる要因の一つだといえます。

こういった状況を、学習履歴の可視化ができれば打破できるかというと、そうでもないのですが、検討ができるようになると思うんですね。自分が何を学んできたのか、どうありたいのか、こういう講座を受けていたなら、あーいう講座を受けていいのではないか、などなど。当然ですが、履歴がないと振り返ることはできません。もしできるようなら、学ぶ意味がわからなくなりモヤモヤが出てきた公開講座受講者が、学習履歴を見せながら話し合えるアドバイザーないしメンターみたいな人がいるといいような気がします。定年退職者の学びの意味は一人ひとり違うので、それを見つけるサポートをするのであれば、個別対応しかないと思うのです。

学習履歴の価値化は、学びの意味付けを考えるチャンス

また、大学で学ぶ定年退職者のなかには、この分野を学びたい!というのが一番の理由ではなく、生活にリズムをつくるため、という人も一定数います。実は、毎年同じ講座を繰り返し、何年も受けている人ってけっこういるんです。こういう人は、大学に授業を受けに行くというのが、すでに生活の一部になっていて、それを崩したくないという思いがあります。こういう人であっても、学習履歴の可視化はモチベーションアップにつながるような気がします。ラジオ体操のスタンプカード的な役割というと伝わるでしょうか。シンプルだけど、これはこれで大事だと思います。

そしてもうひとつ、これはまったくの別視点ですが、大学からのメッセージとしての意味も、公開講座の学習履歴の可視化にはあると思います。どういうメッセージかというと、学位の授与や成績評価がない学びにも価値がある、というメッセージです。意味もないのに、わざわざ履歴を残したりはしませんもの。これって、大学教育のすごくコアなところに関わってくることのような気がします。大学側が評価することで学びに価値が出てくるのか、それとも学びの価値はぜんぜん違うところから生じているのか、などなど。

今回の佛教大学の取り組みも、受講者向けサービスの一環という発想ではじまったのかもしれません。でも、この取り組みを活かして、受講者だけでなく、大学も振り返ることができれば、大きな意味があるように思います。生涯学習は、学部教育や大学院教育に比べると主力ではないというか、位置づけや意味づけが曖昧なところが多々あるように思います。ここらへんを突き詰めていけば、教育全体の底上げにもつながるように思います。

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