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脱炭素と脱原発の矛盾(ついでの脱軍事も)

アメリカとイランの緊張関係によって、イギリスのような同盟国を巻き込んだホルムズ海峡危機が訪れつつあります。

イラン籍とみられる船舶、ホルムズ海峡で英タンカーに接近=米高官
https://jp.reuters.com/article/gulf-uk-tanker-iran-usa-idJPKCN1U607W

日本も対岸の火事ではなく、アメリカの同盟国である点と、中東の石油に依存している点で二重の意味でホルムズ海峡危機の当事者です。

米からの有志連合呼びかけ、緊密にやりとり=中東情勢で官房副長官
https://jp.reuters.com/article/japan-usa-tanker-idJPKCN1U60AY

アメリカがタンカーの護衛はそのタンカーの関係国が行うべきだという方針を出してきましたが、アメリカが本当にこの方針を貫くのであれば、日本は自衛隊を日本のタンカーの護衛に差し出さざるを得なくなります。

それが憲法解釈上で可能なのか、また国民感情的に可能なのか、参議院選挙を目前としてとんでもない問題が出てきましたが、現在の日本社会・経済を構成するシステムを鑑みるに、中東からの石油を完全に無くすわけにはいきません。

サウジアラビアなんかは紅海やインド洋側、すなわちホルムズ海峡を通らないルートで直接輸出できる設備を作っているそうですが、日本が輸入する石油の全てをそこから出すわけにもいかないでしょう。サウジアラビア以外の中東の産油国からも輸入しているわけですから。

かといって、中東以外の産油国からの輸入を急に増やすのも難しいはずです。日本以外の国も似たようなことを考えれば、ロシアやインドネシアのような非中東の産油国からの石油の値段が上がるはずですし、ベネズエラなんかはそもそも政情不安が続いています。

国家戦略的に、自衛隊がタンカー護衛に回らざるを得なくなると相当な政治的インパクトがありますが、じゃあ石油の輸入を大幅に減らしても回っていく社会システムにするには、まず火力発電の代替となる原子力発電が必要となってきてしまいます。

この時点で、地球温暖化対策のための脱炭素と、放射能汚染を防ぐための脱原発の間で矛盾が生じてきてしまいます。同時に、脱軍事(タンカー護衛を否定)と脱原発の両立も出来なくなります。

さらに、石油の輸入が途絶えたり価格が値上がりすると、自動車での移動に依存する地方での暮らしに大きな悪影響が出てきます。電気自動車や公共交通を一気に地方に普及させることも不可能です。

脱炭素・脱原発・脱軍事の間において、子どもでも分かるようなジレンマ(あるいはトリレンマ)が簡単に見つかるわけですが、簡単な解決策はありません。

環境保護の観点からはクリーンエネルギーを使えば良いという主張があるでしょうが、太陽光発電や風力発電などの自然を元にした発電方法は効率が悪く、かつ供給が安定しません。

さらに、クリーンエネルギーの発電施設を新たに建設するにはさらに大量の資源と電力が必要となる矛盾も存在します。この辺の問題の解決策とまでいかなくても、現状認識をせずにひたすら理想だけ語っていても、賛同する人は増えないでしょう。

その一方で、その逆側の人たち、すなわち化石燃料を大量に消費し、原発を推進し、軍事行動も辞さないという考えも長期的にはデメリットの方が大きいです。

中東の石油依存が改善されず、原発の利用によって核廃棄物の処理を未来にまで残し、軍事行動によって中東の安定化が遠のくという長期的な結果が目に見えています。はっきりしたデメリットに目をつぶり、現時点でのメリットだけを享受するのも問題ですし、そもそもデメリットの認識すら怪しいところです。

こういった理想と現実の偏った選択は結局双方向的な議論にまで発展できず、相手を感情的に罵って終わります。友好的で有効的な意見交換が出来ないまま、今後も事態が推移していく見込みを感じるのは残念なことです。


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