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2020年のアメリカ合衆国大統領選挙で民主党候補者が勝つためには

ウォールストリートジャーナル日本版にて興味深い記事がありました。
端的に言うと、民主党が大統領選でトランプに勝つには、先鋭的な主張を下げて大同小異のような政策でまとめて対決すべき、という内容です。

【寄稿】民主党が大統領選敗北を避けるには
https://jp.wsj.com/articles/SB12761140512734763954004585336311066249750

有料記事ですので抜粋にとどめますが、

・大統領の弾劾を求めてはならない。
・グリーン・ニューディールは放棄せよ。
・国民皆保険は見直しを。
・移民改革を支持せよ。
・アイデンティティー政治を拒絶せよ。
・税制を公平にせよ。
・無償提供の約束をやめよ。
・妊娠中絶については反対側の意見も尊重せよ。

という項目毎に主張がなされていて、おそらく民主党支持者から見たら気が遠くなるような内容でしょう。

しかし、現状のままトランプと対決しても間違いなく負けます。そもそも現職大統領の2期目の選挙は圧倒的に有利な結果に終わる歴史が続いています。92年のジョージ・ブッシュ(父)大統領がビル・クリントンに負けたのが最後で、その後はクリントン、ブッシュ(子)、オバマと波風無く2期目を担当してきました。

現在、民主党は大統領選への候補者指名選挙の準備段階ですが、既に立候補を表明している人間が20人以上出てきています。実際に指名選挙に突入するのは4,5名になるでしょうけれど、候補者のほとんどが良く言えば特徴的な、悪く言えば無茶な政策・公約を掲げてアピールを始めています。そのうちの誰かが最終的に勝ってトランプとの対決に挑むにしても、そこまでで脱落した候補者の公約を全て受け入れることはありません。指名選挙中に批判していたはずですから。逆に候補選で負けた候補者やその支持層が、自分たちの主張を受け入れられなかったとしても、トランプを負かすために涙をのんで民主党候補者を応援できるかどうか。上記リンクの記事ではここを重要視しています。自分の主張だけを真実の正義として振りかざして、少ない支持者達だけで戦っていては永遠に共和党に勝てないでしょう。どこまで民主党内で妥協できるかが鍵になるはずです。

民主党が一つにまとまり、ある程度の妥協が出来るような中身でトランプと対決する状況になれば、トランプに振り回され疲弊した一部の共和党支持者も民主党候補に流れてくるでしょう。そうなれば逆にトランプの主張が先鋭化してトランプ支持層が減り、民主党候補が地滑り的勝利をつかむことが出来るかも知れません。

その妥協の中身ですが、先の項目それぞれを私なりに日本人的な見方をしてみるとこんな感じでしょうか。

・大統領の弾劾を求めてはならない。
→現職大統領の弾劾は相当の証拠が無いと不可能です。ニクソンの時は明白な証拠があり弾劾を避けられなかったために辞任となり、クリントンの時は弾劾裁判にかけられて何とかしのいだという歴史がありますが、今回のトランプに対する弾劾の証拠はあまりに少ないでしょう。そもそも大統領選挙に負けた民主党が弾劾を仕掛けるというイメージが拭えない限り、国民の半分以上は支持しないのではないでしょうか。逆に、次の選挙でトランプが負けたらその後にトランプのロシア疑惑・司法妨害疑惑はかえって捜査が進むはずです。

・グリーン・ニューディールは放棄せよ。
→脱原発が火力発電の増加を招くという不都合な真実が存在することは認めなくてはなりません。クリーンエネルギーはまだまだ発展途上で、発電量も安定性も足りません。例え先進国が一致団結して脱原発&脱火力発電を達成したとしても、発展途上国が石炭・石油で大量の二酸化炭素を排出して、経済効率性で先進国を圧倒してしまえば先進国の発言力は低下し、結果的に更に火力発電を止められなくなるという悪循環が待っています。

・国民皆保険は見直しを。
→数十年前から国民皆保険制度が整備されている日本で生まれ育った者として、オバマケアに対するアメリカを二分する議論はなかなか理解しづらいものがありますが、荷馬車でフロンティアを開いてきた歴史観を持つアメリカ人には連邦政府は小さくなくてはならない、という強烈な観念があります。一方で、大国になったアメリカに夢を持って移住してきた人達からしたら、現状の社会福祉制度があまりに貧弱に思えるはずで、大きな分断を招いています。オバマケアによる予算の圧迫は当然ながら存在するわけで、ドラスティックな改革で大きな混乱を招くよりは、少しずつ皆保険に近づけていく方がトランプ支持層の票を奪えるはずです。

・移民改革を支持せよ。
→トランプの移民問題意識は大きな誤解もあり(不法移民の大半は国境経由ではなく空港経由の合法的に移動してくることとか)、国境の壁建設で防げるのは少ないはずですが、移民に問題が無いわけではありません。聖域都市と呼ばれるリベラルの牙城でも移民が増えれば、かえってその他の都市では移民に対する忌避感・警戒感が増してしまう可能性があります。EUではないのですから、国境における移民の合法的な管理は必要なはずです。

・アイデンティティー政治を拒絶せよ。
→ここ数年で世界的にリベラルが退潮している理由の一つがまさにここにあります。様々な主張がそれぞれの団体などにあるのは当然ですが、その主張を唯一の正義として信奉している限り、支持者は少数派に留まります。ある程度大きな枠組みでくくり、その中での反対意見を認めないと多数派にはなり得ないでしょう。

・税制を公平にせよ。
→富裕層や大企業を槍玉にあげるのはリベラルの常ですが、結局それらをライバル支持に追いやる結果になります。

・無償提供の約束をやめよ。
→いわゆる生活保護や社会福祉に多額の費用をかけるのは、国民皆保険の項目と同じようにアメリカの伝統と異なります。移民によって経済が発展するというのであれば、福祉費用をかけなくても生活には困らないはず、という保守側の主張を手助けしてしまう結果になってしまいます。

・妊娠中絶については反対側の意見も尊重せよ。
→これもアメリカを二分する議論ですが、感情的になりやすい議論でもあります。中絶支持層でも早期の中絶、後期の中絶に関しては差がありますし、それは中絶反対派も同じです。これも一気に進めるのではなく、反対派からも支持される可能性がある、早期の中絶や犯罪被害者の中絶などに限定したところから始めるなど、少しずつ前進していくしかないでしょう。アメリカ合衆国という国はキリスト教の国です。リベラル派は意識していなくても、国家の歴史には重みがあり、それは容易に消せないものです。

リベラルに限ったことではないはずですが、自分の意見が唯一の正義として行動すると政治の世界では上手く行きません。個人的倫理を政治に持ち込むと支持が減るという、奇妙だけれど妥当な現実を受け入れて、どこまで大同小異的な民主党候補者を立てることが出来るかが、トランプに勝つポイントになるはずです。


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