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ひきこもりがニーチェの「超人」を目指すエッセイ 滝本竜彦「超人計画」感想



「超人計画」というタイトルの意味

「超人計画」は、「NHKにようこそ!」の著者である滝本竜彦が書いたエッセイである。

著者は執筆時に新人作家で、2年もの間、小説が書けずに困っているところ、このエッセイの依頼が来たらしい。

このタイトルにある「超人」とは、哲学者ニーチェの言う「超人」のことだ。

ひきこもりの著者は、「超人」になりさえすれば、すべてが好転すると考える。
そして、「ツァラトゥストラ」をもう一度熟読することで「超人」となり、ひきこもり生活からの脱却を目指す。

これがタイトル「超人計画」の意味するところである。

「脳内彼女」との話

この本の表紙には、「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するキャラクター、綾波レイのような女が描かれている。

これは著者の「脳内彼女」であり、彼女がエッセイの中に登場する。
名前も名字の表記こそないものの、「レイ」とそのままだ。

レイは、ひきこもりの著者を励ます存在として、いつも著者の側にいる。

「エマージェンシー、エマージェンシー、ルサンチマン警報発令中! 危険! 危険!」
いいや、これは決してルサンチマンの発露ではない。あのとき私は、自らの意思で三次元恋愛を否定し、虚構恋愛、脳内恋愛を選択したのだ。
 もはや一片の悔いもない。
「ワーニング、ワーニング、でもそれは本当のことかしら。もしもあなたがあなたの人生を、ビデオを巻き戻して再生するみたいに、そっくりそのまま最初から、何度も何度も繰り返さなくてはいけない運命だとしたら、あなたはそれでも、自分の選択を肯定するかしら? (以下略)」

滝本竜彦「超人計画」p.26

彼女が話を前に進める(超人になるために行動を催促する)ので、著者がひきこもりでも退屈せずにすむ。
語りの構造として上手いなあと思う。

小説っぽいエッセイ

前述の引用からも察せられると思うが、
レイがいることで、ひきこもりのエッセイに頻繁に会話文が出てくるので、
そのおかげか、読み口が小説のように感じられる。

前作「NHKにようこそ!」からこの本を知った自分は、その小説っぽさのおかげで世界に入っていきやすいと思う。

自虐的な内容で笑わせてくるあたり、そもそもの文章力が高い。

読み進めていくと、この著者のダメ人間っぷりが果てしなく、その自虐的な語り口に思わず笑ってしまう。

しかしときには、「彼女作ったことないのにラブストーリー小説を書くひきこもり男、かなり生理的に気持ち悪い! 恋愛についてのエッセイ書くのもやめろ! 恥を知れ!」などと、自分で自分を罵倒したくなることもあるので、「君キモいよ」という意見にも、確かに一片の心理が含まれているのだろう。

滝本竜彦「超人計画」p.18

追い込まれている人間なので、何でも書いてやると思っているのか、その自虐性もナイフのように鋭い。

他にも過去の学生時代のトラウマ話や、頭の毛が薄くなってきている話など、もうなんでもありだ。

「こんなのってないよ! 彼女いないひきもりハゲなんて、ヘレン・ケラーばりの三重苦じゃないか!」私は地団太を踏み、洗面所で絶叫した。
「落ち着いて滝本さん。ハゲにも人権はあるわ!」

滝本竜彦「超人計画」p39

小説家を目指す人のための情報

著者が小説家ということもあり、ところどころに小説家を目指す人にとっても、役立ちそうな情報が出てくる。

あぁなんという美か、なんという芸術か――気が付けば私の目の前に、坂口安吾の言う「文学のふるさと」、中原中也言うところの「名辞以前の世界」が広がっていた。

滝本竜彦「超人計画」p.90

巻末には、妄想彼女レイが執筆しているおまけ「面白くってタメになる! レイちゃんの知恵袋」なるものが付いている。
知恵その十が、「ベストセラー小説の書き方」だ。

そこには、小説を書くためのハウツー本として、4作品が紹介されている。

現在でも新品で売られているのは2作品で、ディーン・R・クーンツの「ベストセラー小説の書き方」とマリオ・バルガス=リョサの「若い小説家に宛てた手紙」である。

前者は読んだことがあり、確かに良い本だと思う。特に、巻末にある読書案内が秀逸だった。
後者は読んだことがないので読んでみたい。

まとめと感想

今回は、滝本竜彦「超人計画」の感想を書いた。

著者と「NHKにようこそ!」の主人公が似ているんだなということがわかって面白かった。

著者のデビュー作である「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」も購入したので、いずれ読む予定。

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