ひきこもりがニーチェの「超人」を目指すエッセイ 滝本竜彦「超人計画」感想
「超人計画」というタイトルの意味
「超人計画」は、「NHKにようこそ!」の著者である滝本竜彦が書いたエッセイである。
著者は執筆時に新人作家で、2年もの間、小説が書けずに困っているところ、このエッセイの依頼が来たらしい。
このタイトルにある「超人」とは、哲学者ニーチェの言う「超人」のことだ。
ひきこもりの著者は、「超人」になりさえすれば、すべてが好転すると考える。
そして、「ツァラトゥストラ」をもう一度熟読することで「超人」となり、ひきこもり生活からの脱却を目指す。
これがタイトル「超人計画」の意味するところである。
「脳内彼女」との話
この本の表紙には、「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するキャラクター、綾波レイのような女が描かれている。
これは著者の「脳内彼女」であり、彼女がエッセイの中に登場する。
名前も名字の表記こそないものの、「レイ」とそのままだ。
レイは、ひきこもりの著者を励ます存在として、いつも著者の側にいる。
彼女が話を前に進める(超人になるために行動を催促する)ので、著者がひきこもりでも退屈せずにすむ。
語りの構造として上手いなあと思う。
小説っぽいエッセイ
前述の引用からも察せられると思うが、
レイがいることで、ひきこもりのエッセイに頻繁に会話文が出てくるので、
そのおかげか、読み口が小説のように感じられる。
前作「NHKにようこそ!」からこの本を知った自分は、その小説っぽさのおかげで世界に入っていきやすいと思う。
自虐的な内容で笑わせてくるあたり、そもそもの文章力が高い。
読み進めていくと、この著者のダメ人間っぷりが果てしなく、その自虐的な語り口に思わず笑ってしまう。
追い込まれている人間なので、何でも書いてやると思っているのか、その自虐性もナイフのように鋭い。
他にも過去の学生時代のトラウマ話や、頭の毛が薄くなってきている話など、もうなんでもありだ。
小説家を目指す人のための情報
著者が小説家ということもあり、ところどころに小説家を目指す人にとっても、役立ちそうな情報が出てくる。
巻末には、妄想彼女レイが執筆しているおまけ「面白くってタメになる! レイちゃんの知恵袋」なるものが付いている。
知恵その十が、「ベストセラー小説の書き方」だ。
そこには、小説を書くためのハウツー本として、4作品が紹介されている。
現在でも新品で売られているのは2作品で、ディーン・R・クーンツの「ベストセラー小説の書き方」とマリオ・バルガス=リョサの「若い小説家に宛てた手紙」である。
前者は読んだことがあり、確かに良い本だと思う。特に、巻末にある読書案内が秀逸だった。
後者は読んだことがないので読んでみたい。
まとめと感想
今回は、滝本竜彦「超人計画」の感想を書いた。
著者と「NHKにようこそ!」の主人公が似ているんだなということがわかって面白かった。
著者のデビュー作である「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」も購入したので、いずれ読む予定。
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