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読書感想文まとめ

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読んだ本の感想を主にした記事
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記事一覧

イシュマエル・ノヴォーク『セヴ』を読んで(ネタバレあり)

イシュマエル・ノヴォーク『セヴ』を読んで(ネタバレあり)

注意:この記事は『セヴ』のネタバレを含んでいます!
ネタバレがダメって人はまずは『セヴ』を読んでから!

SFを読むのが好きだ。
SFの世界は、現実の一部分を誇張して、或いはまったくなかったことにして、わたしたちの今いる現実との差を突きつけてくる。

だからSFは、わたしたちがそれぞれ抱えている現実の写し鏡でもある。
『セヴ』を読んで私が見たのは、「道具として扱われる人間」だった。

物語はアルマ

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伊藤なむあひ『鹵』を読んで

伊藤なむあひ『鹵』を読んで

とても奇妙な小説を読んだ。
伊藤なむあひさんの『鹵』というタイトルの小説だ。多分小説だと思う。作者がそう言っているから。

おとぎ話のように「あるところに山がありました」という導入があってもおかしくないような始まり方と、名詞にかっこ書きされた注釈の数々が、私をぐいっとイメージの世界へ引きずり込む。というか、試しにのぞき込んでみたら急に突き落とされた感じに近い。

文体はとてもインターネット的な印象

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何も持たないぼくらが見る幻想;『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』を読んで

何も持たないぼくらが見る幻想;『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』を読んで

この本を読むきっかけは、のな(@ThiriAkutagawa)さんが動かすdiscordサーバーに参加したことだ。

私にとってファムファタルは「男性を破滅に導く」という程度の認識だったため、ファムファタルについての基礎知識を得るために読んでみたがヒロイン論としても面白かった。
この『悪女入門』という本は「悪女を目指すための入門編」を意味しているらしく、ときおり著者が「あなたがもしファムファタルに

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『血と言葉』を読んで,えぐられている

『血と言葉』を読んで,えぐられている

人格OverDriveさんで連載されている『血と言葉』を読んでいる。そしてラストまで読み終えた。

この感想文は説明のために多少のネタバレを含んでいるから、まっさらな状態で『血と言葉』のことを知りたいよ!って人は、webで無料公開されている今のうちに読んでおくといい。

現在 ↓ で無料公開中(期間限定)

さてさて。初見では「第9話:手製の銃(1)」で持ってかれちゃった♡
いや、1話から4話まで

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完結間際『お客さま、そんな部署はございません』のレビュー

完結間際『お客さま、そんな部署はございません』のレビュー

毎週、日曜日夜の更新を楽しみにしていた小説が終わろうとしている。せっかくなので最終回間際に今までのエピソードを振り返る形でレビューを書いてみた。レビューと言っても、1話ごとにゆるっとしたコメントを添えている感じの感想文です。

■1話「安易に夢が叶ってしまったのだが正直どうすればいいかわからない。」

主人公であるネコミズさんが市役所に採用されて総合窓口業務にたずさわる話の導入回である。
「IDカ

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『☆』を読み終えたので未読の人にオススメしたい

『☆』を読み終えたので未読の人にオススメしたい

◼️どこから書きはじめればいいのか

『☆』(ezdog.press/star)を読み終えた。最高だった。マジで。『☆』は間違いなく面白い。

もし見ず知らずのあなたがこの一文を読んで素直に「読んでみようかな」と思ったなら、ここから先の私の文章を読む必要は全くない。すぐにリンクを辿って読み進めることをオススメする。
すべて無料で読めるし完結している。

もうちょっと『☆』のことを詳しく紹介してよ、

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『☆』;読み始めの印象を忘れたくない

■深夜に鳴ったTwitterの通知

「……さんにフォローされました」
深夜にぽこんと鳴ったTwitterの通知。ただの日常垂れ流しアカウントがフォローされることは滅多にない。bioに特徴的なことが書かれているわけでもないし、固定ツイートが本を読む人間であることをかろうじて表しているだけだ。
通知欄によって共通のフォロワーが2人いることがわかり、そこで私は少し納得する。読書アカウントから辿られてい

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人を理解することと自分を知ること;『春にして君を離れ』を読んで

ちょっと語りたくなってしまう本を読んだので、熱が冷めないうちにメモ代わりの感想を書く。

アガサ・クリスティーはこれを恋愛小説のくくりに入れたらしいけど、これ恋愛小説かな?(ある種の愛の話ではあるかもしれない。)
内容はミステリーではないけれど、徐々に色々なことが明るみなっていくという点ではミステリー仕立てといえる。そして読後感はひどく哀しい。

あらすじと主人公ジョーンの人間像

あらすじ
主人

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