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ちょっと上級の物理学(たまに数学)

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基本事項の解説はありません。検索しても簡単に答えが出ない問題を考えた記録。
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記事一覧

ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

はじめに「楽しめる物理問題200選」という、物理の問題集がある。

大学の学部生向けの問題集で、題材は主に古典物理学の範囲だが、なかなか興味深い問題が集められているのだ。一見難解に見えても、ある気付きを得ると簡単に解けるような「補助線一発解法」的な問題も多く、単なる演習書を超えた面白さがある。

この本で目を引いたのが、以下のような問題である。*印2つの難問指定。以下引用。

P99** オースト

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一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

はじめに 等加速度運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の5本の記事を書いた。

①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―
②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス―
③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)―
④事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―
⑤無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リン

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無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

はじめに しつこいが、リンドラー座標ネタは続く。本稿は、以下の記事の続きである。

問題をおさらいする。荷電粒子が$${z}$$軸上を相対論的な等加速度運動をしている状況を考える。$${t = -\infty}$$, $${z = +\infty}$$から原点に向かって移動してきて、$${t = 0}$$に$${z = b\,\,(>0)}$$に到達し、そこで折り返して$${t = +\infty

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事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

はじめに 等加速運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の3篇の記事を書いた。

①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―
②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス―
③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)―

相対論的な等加速度運動で興味深いのは、等加速度運動する主体が荷電粒子の場合である。荷電粒子の等加速度運動を相対論的に取

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Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

Simple way of making an interference pattern with fingersThe phenomenon of forming an interference pattern by using light that passed through a double slit is a basic item learnt in a high school phys

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一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—

一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—

はじめに 本稿でも、等加速度運動の相対論的な記述について紹介する。以下の記事の続きである。本稿の内容も、調べればどこかに解説されていることなので、自分のオリジナルな部分は特にない。表式を簡単にするため、前記事同様、以下で光速度$${c=1}$$とする単位系を使用する。

場所に寄らず一様な重力場があるとき、ニュートン力学によると、空中に放り投げた物体の軌道が2次曲線の放物線を描くことは、高校の物理

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リンドラー座標系つれづれ(1)―双子のパラドックス―

リンドラー座標系つれづれ(1)―双子のパラドックス―

はじめに 本稿でも、等加速度運動の相対論的な記述について紹介する。以下の記事の続きである。本稿の内容も、調べればどこかに解説されていることなので、自分のオリジナルな部分は特にない。表式を簡単にするため、前記事同様、以下で光速度$${c=1}$$とする単位系を使用する。

ざっと復習すると、静止系(S系)に対して、$${x}$$方向に一定の加速度$${a'}$$で動いている座標系をS'系とすると、S

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リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―

リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―

はじめに 1990年に放送されたシリーズもののNHKスペシャル「銀河宇宙オデッセイ」を覚えている人がいたら、いい年した大人だろう。当時最先端の天文学の世界を紹介する科学番組なのだが、当時まだ珍しかったCGを駆使した映像が美しく、とにかくそのクオリティが半端なく高かったのをよく覚えている。当時中学2年の私は天文にハマっており、朝日文庫から出ていたカール・セーガンの「COSMOS」で読んだ世界が、当時

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「ビリヤードπ計算機」の熱力学的解法

「ビリヤードπ計算機」の熱力学的解法

ビリヤードπ計算機とは、質量の異なる2つの玉を衝突させて、その衝突回数から円周率が求まるという力学的な装置のことである(私が勝手に命名)。
下図のように、水平面上に2つの玉M, m(それぞれ質量を$${M}$$, $${m}$$とし、$${M\ge m}$$)があり、玉Mを静止している玉mに向かって転がすと、玉Mの方が重いため、玉mは、玉Mと壁との間で衝突を繰り返す。

玉Mは、玉mに衝突される度

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記号論理学の思い出

記号論理学の思い出

これまでの人生を振り返って、我ながら爆発的に集中力を発揮した瞬間が3回ある。

1回目は、大学入試2次試験(2日間持続)
2回目は、大学学部時代の「記号論理学II」のレポート課題(1週間持続)
3回目は、博士論文提出締切前(1ヶ月間持続)

単に多忙というのとは違って、没頭して頭がフル回転した感覚。集中から解放された後、どっと疲れが押し寄せてきた(特に3回目の後はひどかった)。いずれもほぼ大学時代

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伊能忠敬のローテク測量器で本当に正確な地図が作れるのか?シミュレーションしてみた

伊能忠敬のローテク測量器で本当に正確な地図が作れるのか?シミュレーションしてみた

はじめに 天文雑誌「星ナビ」のバックナンバーを漁ったところ、以下の記事が目にとまる。

室井恭子, 2021. 大日本沿海輿地全図200年 地を歩き天を測った伊能忠敬のあしあと.星ナビ. 22(10): 50-57.

天文誌の記事ということもあって、天文愛好家向けに伊能忠敬の業績を紹介した良記事である。伊能忠敬と言えば、江戸時代後期に信じられないほど正確な日本列島の地図を作った人として有名だが、

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植物の葉序フィボナッチの件、自力で証明してみた

植物の葉序フィボナッチの件、自力で証明してみた

はじめに数学読み物でよくネタになるフィボナッチ数列というものがある。以下で定義される整数の数列である。

$${F_0=0, \quad F_1=1,\\ F_{n+2}=F_{n+1}+F_n\\\quad n=0,\,1,\,2,\cdots}$$

要は、$${n\ge 2}$$の任意の$${F_n}$$は、直前の2項の和で定義される数列で、

$${0,\,1,\,1,\,2,\,3,\,

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2つのボールをぶつけると円周率が分かる―論文を読まずに自力で計算してみた―

2つのボールをぶつけると円周率が分かる―論文を読まずに自力で計算してみた―

はじめに2003年に以下のような興味を引くタイトル の論文が出ている。

G. Galperin, 2003. Playing Pool with π (The Number π from
a Billiard Point of View). Regular and Chaotic Dynamics, 8(4): 375-394.

タイトルにあるpoolとはいわゆるビリヤードのことで(この記事を

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指と指の隙間に見える干渉縞の謎―意外と難しいその発生原理―

指と指の隙間に見える干渉縞の謎―意外と難しいその発生原理―

指で簡単に干渉縞を見る方法光が波としての性質を持つ実例として、二重スリットを通した光が干渉縞を生成する現象は、高校の物理でも習う基本的な事項である。二重スリットの実験は、レーザーのようなコヒーレント光を用いれば簡単にできるのだが、太陽光や蛍光灯のような身近な光源を使う場合、干渉縞が見えるようにするには一工夫必要である(後述)。

ところが、そのような身近な光源でも、非常に簡単に干渉縞を見る方法があ

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