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フィジーク大会におけるナチュラルの限界

この記事は筆者の独断と偏見による推測を含んでいます。
記載されていることが全て事実だとは思いませんし、それを証明する手段もありません。
また、筆者はフィットネス界の発展を心から願っています。
それをご承知の上、お読みいただけると幸いです。



●フィットネス界に蔓延るドーピング問題

近年益々盛り上がっているフィットネス大会、特にフィジーク大会。

トップ選手のSNSフォロワー数は、数万から数十万人。
国内フィジーク大会のチケットは完売。
大の大人が素っ裸になってカッコつける競技に、大の大人が夢中になっている

フィットネスの大会は明確な採点基準があるわけではない。
審査員の主観によって順位が決められる。

元々フィジークという競技は、ボディビルから派生して生まれた競技だ。
ボディビルが人間離れした筋肉を競う競技だからこそ、フィジークが目指したのは
「ビーチで映えるような、健康的でかっこいい身体」
だった。

しかし、近年ではフィジーク選手も巨大化してきており、バルクがない選手が上位に入るのは難しくなってきている。
世界最高峰といわれる大会、「ミスターオリンピア」フィジーク部門の歴代優勝者を見てみよう。

ミスターオリンピアメンズフィジーク4連覇のJeremy Buendia
左上2013年、右上2014年、左下2015年、右下2016年
現在はケガにより第一線を退いている。復活してくれないかなあ、、、
ミスターオリンピアメンズフィジーク現王者のBrandon Hendrickson
2021年

フィジーク部門が創設されてから数年間は、ジェレミーブエンディアという選手が長らく王者の座についていた。
しかし、昨年王者であるブランドンヘンドリクソンの身体と比較してみると、約10年前と今でチャンピオンに求められるバルクが圧倒的に違うことがわかる。

大会の規模が大きくなり、次第に「派手さ」や「わかりやすさ」が求められると、「デカさ」を重視した採点になっていくのは自然な流れだろう。

そしてデカさを追求していくと必ずたどり着くのが、アナボリックステロイドを始めとしたドーピングである。

ステロイドは本来、ドーピング薬の一種であり、ステロイド以外にも違反薬物はたくさんある。
しかし今回の記事はわかりやすさを重視して「ステロイド」と表記することをご了承いただきたい。


●ステロイドのジレンマ

通常、オリンピックを含めた商業スポーツでは、WADA(世界アンチ・ドーピング機関)によってドーピング検査が行われ、違反した場合は厳しい罰が課せられる

ドーピングをした選手の記録やメダルはもちろん剥奪。
ロシアは国単位でのドーピングが発覚し、全ての主要大会から4年間追放された。

野球のメジャーリーグでも、ドーピング疑惑のあった選手の記録はグレーと見做され、投票で決定される殿堂入りには選ばれないケースがある。

しかし、ボディビルやフィジークの世界には、ドーピング検査を行わない大会がある(もちろん、行っている大会もある。)
大会によってはアンチ・ドーピングを掲げている場合もあるが、検査をしていなかったら実質容認しているのと同じだ。

理由は簡単で、筋肉がデカいほうがおもしろいからだ。まさに脳筋である。
ボディビルはスポーツではなく、ショーなのだ。

人類史上最高のボディビルダー、Ronnie Coleman。
もはや芸術。

ステロイドを使える大会で、ステロイドを使わず勝てるボディビルダーは、まず存在しない
勝つためなら、デカくなるためなら、手段を選ばない者が勝つ。
逆に言えば、周りが使っていたら自分も使わざるを得ない。

高校野球で木製バットを使う人がいるだろうか?
F1レースに軽トラックで出る人がいるだろうか?
ソシャゲで無課金の人が課金勢に勝てるだろうか?

そんなことをしていたら勝てない。みんな勝つために競技をやっている。
周りが勝つためにステロイドを使っているなら、自分も使わざるを得ない。

ステロイドはそれほどまでに競技の根底を揺るがす。


●ステロイドの効果ってそんなにすごいの?

実際、ステロイドの効果はどれくらい凄まじいのだろうか。

Larry Wheelsという、ステロイド使用を公言しているパワーリフターがいる。
彼の怪力はとんでもない記録を生み出す。
下記は2019年頃の記録だが、最新の情報だとベンチプレスは300kgを超えるという話も。

スクワット…395kg(870ポンド)
ベンチプレス…293kg(645ポンド)
デッドリフト…388kg(855ポンド)
トータル…1076kg(2370ポンド)

そんなLarryだが、ステロイドを始めたのは18歳頃だったという。
強くなる手段として、成り上がる手段としてステロイドを始めた彼だが、ステロイドにも当然副作用がある。

通常、ステロイドを使う際は投薬期間と休薬期間を設けるという。
内臓の機能を休めたり、ホルモンを自己分泌させてホルモンバランスを整えるためだ。

しかし十数年間休まずステロイドを摂取してきた彼は、どこまで身体に異常を覚えたのかは不明だが、ステロイドを一時休止する決断をする。

この動画のサムネを見ていただければわかると思うが、一ヶ月でかなり身体のサイズが縮んでいる。
いくら激しい減量をしていても、ここまで急激に筋肉が落ちるのは人間の体の機能からは考えづらい。

それほどまでに、ステロイドによる「バフ」がかかっていたといえる。
ステロイドを使っていると使っていないのでは、ここまで目に見える違いが出るのだ。


●ナチュラルでIFBB PROになり、ナチュラルを諦めた男

ステロイド問題は日本のフィットネス業界にも影を潜める。

日本人初のIFBB Physique PRO、田口純平さん。
彼はおそらくナチュラルである。

2018年、フィジーク界が今ほどバルクを重視していなかったこともあったかもしれないが、彼のバランスの取れた身体と絞りの絶妙さは当時から群を抜いており、日本人で最初のフィジークプロを勝ち取った。

SNSのフォロワー数ではカネキン選手やエドワード加藤選手の3分の1程度だが、間違いなく日本フィジーク界のトップランナーで、とてつもない才能の持ち主だといえる。

2022年10月現在、Natural athleteとの記載がある。

そんな彼は、2022年FWJ TOKYO PROでサードコールだった。
自身は「やれることは全てやった、今までで最高の身体」と語るものの、優勝どころか上位入賞すら遠い結果となってしまった。

この動画を見ると、国内大会で良い結果が残せなかった彼は、何かに吹っ切れたように見える。

動画の中で、田口選手はしきりに「次やることが明確になった」と言っている。
そして、今大会で2位だったエドワード加藤選手に対して「早く追いつくんで待っててください」という発言。
FWJ代表の堺部さんとの会話での「あと(筋量を)5kg10kg増やさないと」という発言。

筆者の推測ではあるが、これらの発言は、今後ナチュラルではなくなることを示唆していると思われる。

その発言に、決断に、どれだけ勇気が必要だったか。
田口選手は、「応援してくれている方には申し訳ない」とも言っている。
彼の苦労は筆者には計り知れないが、ナチュラルを貫いてきたことへの矜持があるのだろう。

そして「それは待ってるよ、早くしろよじゃあ」と言い放ったエドワード加藤選手。
彼の目にはナチュラルの選手はどう映っているのだろうか。

TOKYO PROの数日後、「けじめ」としてアメリカのナチュラルフィジーク大会に出た田口選手。
今後の活躍に期待したい。


●まとめ

● 盛り上がりを追求すると、フィジークでもバルクが求められる
● バルクを求めると、ステロイドが必要
● 周りが使っている以上、勝つために使わざるを得ない


●おわりに

このnoteは、筋トレを始めたばかりで、しっかり身体のことについて勉強したい人をターゲットに、健康的な生き方に関する情報を論理的に発信しています。

過去にもいろいろな記事を投稿しているので、もし気になったら読んでみてください。
また、記事にしてほしいトピックのリクエストもコメント欄から募集中です。

筋トレについてそこそこ詳しい方や、実際にトレーナーとして活動されている方にとっても、「こんな考え方、こんな表現があったんだ!」という発見になってくれれば幸いです。


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